勇者はいかに魔王の同意を得るか
「確かにこうした物は我々では作ることも手に入れることもできない」
なおもしげしげと顔の前にサージュがこの村にもたらした銀の白刃を持ち上げて見やりながらルートルは言った。
「そうでしょう? 刃物もそんなちんけなものばかりじゃない。狩りをする際の槍も、木を切り倒す時の斧だって、ここで使っている石製の物じゃなく、今長が目にしている通りピカピカ光って、そのきらめきと同じくらい切れ味が鋭いものがわんさかてにはいりやすぜ」
ルートルは心に付け入るようなサージュの言葉を聞くと、
サージュは言い継いだ。
「それに私はここまで持ってくるわけにはいきませんでしたがね。
自分が着ている――と、いうのはこの村のほぼ全員が着ている衣服なのだが――草の繊維で作った白い布衣を前の方で両手でちょいとつまみ上げて言ってみせた。
ルートルは、しゃべり続けるサージュの言葉をじっと見下ろしながら聴いていたが、その眼には先ほどまでの無関心な様子が無く、いくぶんの心動かされた興味の輝きというものが宿っていた。
「いいだろう、で、我々はどうすればいいのかね」
口を開いて発せられたルートルの言葉にサージュは相好を崩した。
「さっきも言った通り、この村の者と獣を数隊派遣して森のすぐ外に住んでる奴らを脅し付けてほしいんでさあ。いや、人を傷つけるには及ばんです。家畜の少々は血を流してもらわなきゃあいかんが……。それと、弱った獣のいくつかは可哀想ですが、犠牲になってもらわなきゃならんと思います」
この村では
飼っている獣を犠牲に供しろという言葉に、一瞬ざんばらの濃い黒褐色のすだれ越しにルートルの太い眉が動いたが(ルアンの者達は儀式の際に獣を生贄に捧げる事はあったが、基本的には飼う猛獣たちを愛していたのだ)、すぐにまた彼は重々しく言葉を続けた。
「その他には」
「あとは、クリャワの村(ルアンの村の南に位置する森に囲まれた狭い平原の一角に住む部族の村だった)から手に入れた
ルートルはじっとサージュを見つめた後、開け放された小屋の入り口に向かって大声で呼びかけた」
「おい!」
声を聞きつけてすぐに村の男が飛んできて戸口から顔を覗かせた。
「
了解して再び引っ込んだ後、しばらくして石を穿って作った重い容器に入れた黒い粉を男は持ってきた。
「ちょっと失礼」
サージュは男をもう一度使いに出して、より小さな石の皿と木で作った匙を持ってこさせると、黒い粉を匙ですくって小さな石皿に少し移した。
「これももっとこう何か使い道がありそうなんですがねえ」
サージュは、この村に来ることで初めて知った、街で見ることの出来なかった黒い粉を床の上にしゃがみ込んで移し替えながら呟いた。この粉をクリャワとルアンの村では祭りの際の派手に興を添えるものとして用いていたのだ。
移し替えると、その間男が外から料理の火を葉を巻き付けた枝の先に移してきていた火を受け取り、そっと石皿の上に先の小さな火種を落とし、顔を腕で覆って背けながら、目だけは皿の方に向けたまま大急ぎで立ち上がった。
パパパパパパパパンッ!
派手な音を立てて、
サージュはその様を観察した後、鼻をつまみながらにやりと笑った。
「やはりこれは助けになりそうでさあ」
「君と我々が今回行うことにこの粉が何か役に立つのかね」
小屋内の一瞬の喧騒の一幕を共に観賞した後、呼び寄せた男と一緒になってサージュの顔をじっと見つめたルートルが話しかけた。サージュはにんまりとした笑顔のままそちらを向き直って上機嫌で答えた。
「まあ任せといてください。街に帰る際に森の縁までは案内しますから、それからまた別に準備がかかるとして、月の形と出入りの時刻はまた打ち合わせしましょうや」
ルートルの小屋から出る際、含み笑いをしたサージュはかすかに一人ごちた。
「これで名誉と富も俺の物になるってもんだ」
勇者と魔王 猫大好き @nekodaisukimyaw
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