見えざる敵の彼方に至る道

ものまねの実

第1話 扉

暖かな日差し降り注ぐ大地にあって、自分ほど困難な道を進む者はいるだろうか。

春は芽吹きと旅立ちの季節とはよく言うが、今私の目の前にそびえる鉄の扉の先に広がる敵に立ち向かう己の身の不幸はいかほどか。


目に映らない敵の数は数億、数兆に及ぶかもしれない。

それに立ち向かう私の鎧のなんと頼りない事だろう。

敵の猛攻を防ぐことは出来ないだろう。

だが、私の体は長年の鍛錬によって、その攻撃に耐えるだけの力を得ていた。


眼前の敵の強大さに今すぐ引き返して布団に包まって震えることが出来たら、そう考える瞬間の連続だ。


扉に守られた聖域は敵の侵入を許さない。

ここに居れば安全だ。

だが出来ない。

私の助けを求める友がいる。

他の人間には届かずとも、私には届く友の声が恐怖に止まりそうな足を一歩ずつ前へと進ませる。


開いた扉の先は穏やかなものだった。

だが、それはやがてやってくるうねりの前の猶予に過ぎないことを私は知っている。

そして、遂にその時はやってきた。

耐えがたい痛みと痒みと熱病にうなされるような息苦しさ、泣きたくもないのに涙が止まらない。

顔からあらゆる体液が吹き出す様にして私の感情を塗りつぶす。


あぁ、またこの辛い戦いの道を進む私はいつ救われるのだろうか。



敵は強大にして無限、対峙する我が身の頼りなさに絶望するが止まれない。


例えどれだけ辛かろうと任された以上はやり切って見せる。



「うぇぇいっっくしぃっ!!」


花粉症で会社を休むことは出来ないのだから。




リンゴン♪

携帯から鳴る着信音に気付き、内容を確かめると昨日から徹夜での仕事となっていた友人からのメッセージだった。

今日の昼までの期限が守れず、このままでは取引先に仕様書の提出もできないとのことなので、本来は休日だった私にまで出勤を頼んできたのだ。


本当なら花粉症の私は家に籠っていたかったのだが、今取り掛かっているプロジェクトの立ち上げに携わった身としては、後を任せたからもう無関係というのは流石にできないことであり、こうして友人の求めに応じて休日返上で会社に行くほどに思い入れはある。


駅を目指して歩く道には他にも花粉症に苦しむ同志たちの姿がある。

彼らも花粉症と戦いながら仕事へと向かう企業戦士なのだ。

そう思うと孤独な戦いにも思えず、僅かではあるが心強い気持ちになる。

だが同時に、マスクも無しに歩ける、花粉症とは無縁のアレルギーエリートの姿も見かけるので、その時は気持ちはかなりダークサイドに落ちていく。


駅のホームで電車を待つ間にも目がかゆくなるし、鼻はムズムズズルズルと本当に地獄のような時間だ。

会社に着けば多少はましになるのだが、この時間を耐えるのが何よりも辛い。

いっそ花粉の姿が見えれば全部躱すか殴り倒してやるのに。


あぁ、春は花粉症持ちには生きがたい季節だなぁ。










※この話はエイプリルフール仕様の物です。何かの話の伏線といったものではないので続きなどは期待しないで下さい。

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