第14話:バンパイアは弱点を言いたい

__________________________________

__________________________


バンパイアの性質にも個体差があるというのはしかしながら事実のようだ。


というのもどうやら個のもつバンパイア性とよばれるものが関係しているらしい。


佐藤刑事が学生の頃に流行ったヤマハTW200という今出回っているバイクに比べてひとまわりもふたまわりも古いそれはしかし改造に改造を施され極悪暴走スピードと本来の想定をはるかに超えるタフネスを備えていた。


そしてそれは現在も佐藤刑事の足として立派にその役割を果たしている。


そんなモンスターマシンを自分の手足のように巧みに操りながら(スピードは守っている)公道を走る佐藤刑事に現役バンパイアのサクラはそう語っていた。


「さっきの弱点もそうだけど戦闘能力とか性格とかそういったものも全部含めた個体差っていうのはウチらバンパイアだけじゃなくって夢魔むまならみんなもってると思うわけよ」


若干の隙間が気になるヘルメットをかぶりながらサクラはくぐもった声で言った。


「だってみんな同じだったら変な話ちょっとした誘導とかもできるわけでしょ?例えば弱気な性格を利用してずっと有無を言わさぬ肉体労働させ続けるとか。それが起きないのはやっぱり一人一人が違う存在だからってこと」


「ようするに俺ら人間となんら変わりないってことだろ?まあ違いとしては口から火ふいたり手から水出したりするくらいだしな」


「それすらもウチらにとっては普通の事なんだけどね」


そんな普通があってはたまったものではない。


そう思ってしまうあたりやはりまだ自分は人としての先入観を捨てきれていないのだろうと佐藤刑事は苦い顔をしてみせる。


夢魔むまと折角一緒に生活しているのだからこういったものは早急に慣れ親しんでいく必要があると頭の片隅にしっかりと刻んでおきながら佐藤刑事はサクラに話しかける。


「個体差がどうこうってのはわかった。それでお前の場合は水が苦手だってことか」


「……その言い方だとなんだかウチが水そのものに触れないって言われてるみたいで嫌なんだけど」


佐藤の発言にサクラはあからさまに嫌そうな声色を示す。


佐藤刑事はなにか彼女の癇に障るようなことでも言ってしまったのだろうかと少しばかり疑問に思ってしまう。


「さっき水が苦手だって言ってなかったっけ?」


「ウチは言ってないし!おまわりさんがウチの弱点が水だって勝手に決めただけでしょ!」


まあ否定はしないけど…となにやら後からゴニョゴニョと言っているサクラ。


どうやら結局のところ水が苦手だというのは事実らしい。


「あれ?でもお前普通に風呂とか入ってなかったっけ?」


その質問にヘルメット越しからでも分かるくらい盛大にむせこむサクラ。


どうやらまたもや的確すぎるほど的確な問いかけをしてしまったらしい。


というよりも今回の場合はデリカシーうんぬんの話になるのではないだろうか。


仮にサクラがこの質問に対して顔を真っ赤にしながらも『はいそうですウチはお風呂にはいっても水が苦手なんで体を洗っていません』などという返答をしてきたらどう反応すれば良いのだろうか。


『大丈夫大丈夫自分もそうだから』などという返答をすれば自分への印象は一気に万年不潔の最低親父になるし、かといって『マジかー俺なんて毎日入ってるぞー』などといった暁には彼女の女の子的何かを破壊しかねない。


いうなればこの質問はアウトコース。


満塁の状態にもかかわらず進んで相手にデッドボールを喰らわせにかかるようなものだ。


佐藤本人もそのことに遅れながら気づいたが、時すでに遅し。


危険性に気づいた時にはもう手遅れでしたという楽物を使用する犯罪者の典型的な言い訳ぴったりの状態に陥っていた。


このまま待っていれば訪れるのは悲しいかな絶対にふさがらない究極的に深い溝がマリアナ海溝よろしく2人の間にちゅどんと築かれるのみである。


それはマズイと運転しながらもあたふたと足りない脳みそを使って別の話題を探す佐藤であったが、しかし時間が足りなかった。


佐藤がなにか別の話題をふるまえに盛大にむせこんでいたサクラが落ち着いたと同時に言葉を発してしまう。


「たしかに水は苦手だけど」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!聞きたくない聞きたくないのよサクラちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁすっ!?ちょっ、ちょちょちょおまわりさん!落ち着いて!なにがおまわりさんを襲ってるのか知らないけれどとりあえず落ち着いて運転してぇぇぇぇっ!?」


あまりにも追い詰められた佐藤刑事は脳波の乱れとリンクしたかのような右へ左へ右へ左へという対向車線などまるで無視した気持ち悪さ満点の運転を披露する。


幸い後ろに乗っていた吸血鬼型の夢魔むまちゃんの鋭い手刀で事無きをえたが本来であれば謹慎処分なみの犯罪行為である。


どうにもこの刑事、ある程度精神的に追い詰められるとなにをしでかすか分からない犯罪者的一面も持ち合わせているようだ。


それって刑事的にどうなの?というサクラのなんとも言い難い微妙な視線を感じながら佐藤刑事は再びバイクをゆっくりと走らせる。


「で、さっきの話の続きだけど」


「………ほんと色々とすまん」


「んにゃ?何で謝ってるのおまわりさん?」


「いや……まあ…な……」


デリカシーのないことを聞いてしまったから…とは口が裂けても言えなかった。


なんとまあひどいことを尋ねてしまったものだと反省する佐藤刑事に対し、しかしサクラは意外というかいつも通りというか大して恥ずかしがる事もなく言葉を発する。


「たしかにウチらバンパイア型の夢魔むまは水に入れないけど、でもその理由ってなんだか分かる?」


「入れない理由、か……そうだなぁ…」


バンパイアのルーツはなんとも変則的なものだ。


というのもバンパイアは初めからバンパイアという個体として生を受けたわけではないからである。


別名吸血鬼というくらいだから鬼がその成り立ちのもとになっているのではと思う者もいるかもしれないが、なんら関係はない。


いや、全く関係ないというわけではないのだがそれでもバンパイアが鬼とジャンル分けされるのは間違いということだ。


バンパイアは強力な魔物として人間の中に明確な畏怖すべき存在として刻まれている。


であるならばどうしてここまでバンパイアという個体が名を馳せたかというとバンパイアは複数の魔物の伝承が混ざり合って出来たということに関係あるだろう。


もとより昔は妖怪やゴーストという概念は今よりも強くそれらの集合体というよりはそれらの祖としてバンパイアは描かれていた。


恐らくはそういった点でバンパイアはどの国でもいいように使われるに仕立て上げられたのだろう。


そう考えるとバンパイアの弱点とは即ちそれらのもとになった魔物の弱点の1つではないのだろうか。


つまりは存在の集約と同時にメリットやデメリットまでをもバンパイアは受け継いでしまったと、そういうことではないのだろうか。


水を嫌う魔物は決して少なくはない。


現にキリスト教の洗礼の儀式などは邪を祓う効果があるとされている。


これをふまえると水と魔物は全く関係ないとは言い難いはずだ。


「シンプルにルーツになった魔物と同じ弱点を引き継いだからじゃないのか?」


「う〜ん…ルーツとかあんまりそういう詳しいことは分からないからなんとも言えないなぁ…」


「そりゃそうだが…じゃあ答えはなんなんだ?」


「ウチなりの答え方でもオッケー?」


サクラの問いかけに佐藤刑事は軽く頷く。


「ウチらバンパイア型の夢魔むまにはみんな共通してる所が何個かあるんだ」


サクラは片手は佐藤刑事の腹部にしっかりとまわしてつかまりながら器用にもう片方の手を離して3本指を立てる。


「まず日光…っていうか気温的な暑さにめっぽう弱いの。今日くらいの暑さだったら全然なんだけどこれが真夏のだったりしたらもう身動き1つしたくない」


「そりゃバンパイアの弱点のテンプレみたいなもんだからな。仮にお前を砂漠とかに仕事で連れてったらどうなる?」


「頭ガンガン汗ダラダラ血の気サーのヨボヨボシュン」


「なにその呪文的な表現方法!?」


「じゃあ全身ビリビリ呼吸ゼェハァ目ショボショボのヨボヨボシュン?」


「いやじゃあの使い方と意味がわからねぇよ!?大体なんで最後のヨボヨボシュンだけ固定!?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界に出会えるこの夢たるや お豆三四郎 @omame3

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ