最終話 ジュンイチローはまだ〇〇したくない

 大人の女性がぱんつを穿くなんて考えられなかった。

 だから、ジュンイチローにぱんつを穿かされたと知った時、彼の力に感嘆しつつも、シャラは穴があったら入りたいぐらいの恥ずかしさを覚えた。

 どうしてこんな酷いことをするのだろう? 恨めしくも思った。

 が、今、その真意を知ってシャラは心の底から湧きあがる感情に、全身の震えが止まらなかった。

 ああ、なんて大きな心を持った人なのだろう! 戦う私の体まで気遣ってくれていたなんて!

 今なら分かる。深遠を覗き込んでくれる男性になかなか巡り会えず涙を流した日々も、お父様やお母様からなんやかんやと嫌味を言われ続けたのも、全ては彼、石田ジュンイチローと出会う為の試練だったのだ、と。

「ジュンイチロー様!」

 気付けばシャラは叫んでいた。

「貴方は私の深遠を覗き込むばかりか、心までも虜にしてくださいました。貴方こそ私の求めていた方です、どうか私と永遠の契りを……」

 ところが。

「あー、それなんだが……」

 ジュンイチローがまたも遮った。

「俺、ぱんつの紐を結ぶので精一杯で、正直見てないんだ、あんたの深遠」

「……はい?」

「だから俺にはあんたと結婚する資格はない。悪いが他をあたってくれ」

「え、ちょ、ちょっと!」

「ってわけだから! では!」

 思わぬ展開に呆然とするシャラ皇女の隙を狙って、ジュンイチローがそそくさとリングから降りようとする。

 なのに。

「ジュンちゃん!」

 リングを降りようとした先にジュンイチローの幼馴染・ヨーコが待ち構えていた。

「ヨーコ、ちょっ、どいてくれ!」

「どかない! てか、皇女様のは見てないかもしれないけど、私のは見たでしょ、ジュンちゃん!」

 と、ヨーコが突如として自分のスカートをめくり上げる。

 これまた純白の、リボンのワンポイントが可愛らしいぱんつが……ただしシャラ皇女の紐ぱんとは違う、普通のぱんつが顕わになった。

「だって私のは普通のぱんつだもん! 紐を結ぶのに集中して見なかったなんて言い訳、通用しないよ、ジュンちゃん!」

「いや、お前はレベル低すぎて目を瞑っていても穿かせるのは簡単だったって言うか」

「ジュンイチロー、これはどういうことですか!」

 と、そこへ正気に戻ったシャラ皇女が乱入してくる。

「私と戦う前に、その子の深遠を見てしまったというのですか!?」

「いや、だから見てないって」

「ウソ! 絶対にジュンちゃんは見たよ! なんだかんだ言ってそういう人だもん! 皇女様のだって、本当は見たんでしょ!?」

「ちょ、おま。なんて事を言いやがる!」

「ホントですか、ジュンイチロー!?」

 これ以上はマズい。

 状況を正しく判断したジュンイチローは高々とジャンプしてヨーコの上を跳び越し、リングから降りる。

「ジュンちゃん!?」

「お待ち下さい、ジュンイチロー!」

 そしてふたりが呼び止めるのを無視して、この日一番の全力疾走で一目散に会場の外へ。

「くそっくそっくそ! だからイヤだったんだ。なにが『パンツを穿かせれば大丈夫』だよ。やっぱり結婚を迫られるんじゃないか」

 ジュンイチローの脳裏に浮かぶのは、京都で対面した銀縁眼鏡の男。

 あの後キャバクラやら舞妓遊びやらを振る舞われながら「このパンツなら皇女に気付かれずに穿かせられる!」とか「つまりは皇女の深遠とやらを見なければいいんです!」などと言われて、つい「そうか!」なんて思ってしまった。

 そもそもあの男の「私もキミと同様、結婚なんか人生の墓場だと思っています」なんて言葉に、態度を緩めたのが拙かったかもしれない。

「それにしてもあの皇女め、ノーパンはいいとして、スカートの中身を覗いたら即結婚なんて余計なことをしやがって。そんなの、気軽にスカートめくりも出来ねぇじゃないかっ!」

 誰にも聞かれることのない悪態をつきながら、ジュンイチローはひたすら走る。それはシャラやヨーコから逃れるためというよりも、結婚という束縛から逃れるための、言うならば自由への逃走であった。

「結婚なんて誰がするもんかっ。俺はまだまだ色んな女の子と遊びたいんだっ!」


 おわり。

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女の子はぱんつ穿かない、それが宇宙の大常識 タカテン @takaten

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