友達もおらず目的もないのに日々バイトばかりして過ごす大学生の雨宮。ある日彼はバイト先の同僚から魔法少女をレンタルできる店の存在を知らされ、興味本位で試してみることに。しかし、彼の貯金でレンタルできたのは魔法が使えない半人前の魔法少女・渚だけだった。
かくして始まる二人の奇妙な共同生活。他人とのコミュニケーションが苦手な雨宮と、どこか事務的な態度が目立つ渚。当然最初はぎくしゃくするが、徐々に打ち解けていく。渚は学食で食事をしたり、本を買ってもらったりと些細なことで喜びを見せるようになり、雨宮は渚のアドバイスを受けて少しずつ周囲の人たちと会話もするように。それぞれ変化を見せる二人だが、そんな中、渚のレンタル期間の終了が迫り……。
魔法を使えない魔法少女と友達のいない大学生という、不器用な二人の物語。華々しい魔法や大きな奇跡はないけれど、他愛ないことで笑ったり、些細なことで悩んだりと等身大の二人の日常は読んでいてじんわりと心に沁みてくる。この一文しかないというラストもお見事で温かい気持ちになれる中編だ。
(「魔法少女の物語」4選/文=柿崎 憲)
やや雑なカテゴライズになってしまうのですが、現代劇の少し不思議な恋愛ファンタジーでした。
淡々とした一人称による文体が特徴的なのですが、それが物語の内容と極めてよく馴染んでいます。
不器用で友達を作ることができない主人公と、魔法少女でありながら魔法を使うことができないヒロイン。
その二人のあいだに漂う空気感が素晴らしい。
ストーリーの進行と共に移ろう主人公とヒロインの関係性を追い続けるうち、読み終える頃には思わず胸がいっぱいになってしまいました。
じんわりと心が暖かくなるような感動を味わいたい方は、是非ご一読を。