第3話 ヒールの女

 死体にとって最も大事なことは、死んでいることだ。


 どのくらい大事か。鼻から悪魔DEMONS MAY FLYでるほどにOUT OF YOUR NOSE優先度が高い。


 さて、そろそろ、女が近づいてくる。 俺はまた死体に戻らねばならない。 このピンチを乗り切るには、何をされたとしても、死体らしい反応をしなくては。


 さっそくと言わんばかりに、女が俺を蹴ったPING。近づいたばかりの女が、三度も俺を蹴り上げた。


「ドフッ、ドゴォォ、ドムッ、ジャバア」


 俺は悟られぬよう腹話術をやってみせた。女の紅いヒールは、ジャバりとめり込んだINJECT。よもや、ヒールの刺さった位置から聞こえるSEが、俺の声とは思うまい。


 蹴られたSEを自然に発声するのも、修練のたまものであった。まず、口からの声を悟られてはいけない。女が読唇、つまりは「唇の動きから声を読み取る技術」を備えているとも限らない。「工作員の女AGENT」でないという保証はないのだ。


(ここには図解が入る。文章だけでは、わかりにくものだ)


 腹話術といえば、「ジャバ音JAVAJAVA」だ。紅いジャバボタンを真似るならば、誰にも負けないと自負している。まあ、そのような「遊び」ENJOYは生きて帰ってからの話である。


「チッ、つまらない奴だ」


 女が唾とともに、独り言を吐いた。「もう死んだのか」ARE YOU DEAD MOTHERXXXXER?と言わんばかりだ。しかし、「つまらないBORING」といいながらも、女の顔面は蒼白であった。 化粧の落としが済んでいないとしても、白すぎる。面妖だ。


 女はうろうろしている。おまけに足は震え、 言葉とは裏腹に、ひどく動揺している様子だ。このまま電話を掛けに、携帯を取りに戻ってくれるならば、その隙におさらばEXITである。 女も、殺人の容疑を掛けられることなく、一見落着であるTHE ISSUE IS CLOSED。 大岡裁きとはこのことだったのだ。


「私の携帯はどこだ」


 よし!と思わずガッツポーズ。しまった油断した! 死体のまま、握った拳を突き上げてしまったのだ。 おそるべき女の罠SIGTRAP! なんという狡猾な!


「ゴフッ、オッオッ、オボボボボ」


 天に突き上げた拳は、ちょうど女の腹に突き刺さったSTUCK。幸いなことだった。呼吸の仕方を見るに、女はしばらく動けなかろうWILL BE DISABLED。だが、同時に、俺の 〝死体判定ME . ISDEAD〟 は解除されたはずだ。 死んだふりもこれまでだ。


 今すぐにでも、去る季節が到来したのだ。 落ち葉を拾う前に、紅葉を堪能している場合ではなくなったのだ。読書の秋などと、文庫本を取り出す間に、真の死体になりかねない。


「オポポポポ」


 女は、七色のを、穴という穴EVERY PORTから噴き出していた。奇妙な光景だ。とはいえ、これくらいで油断してはならない。 同じ手口により、二度ほど、死体になりかけている(今度は三度目だ)。俺は、取り出していた文庫本を投げ捨てると、読書の秋を潜り抜ける姿勢をとった。


 すかさず、女にタックル。 ビクともしないROBUST女。七色の、それを射出する砲身が俺に向けられた。すんでのところで、砲身の射線上から身をそらす。息をつく間もなく、飛来するヒール。紅いロケット弾を紙一重でかわすAVOID


ジャバッあなたと


 突如、紅いヒールから刃が飛び出した。紙一重が災いし、鼻の上に傷をのこした。出血。肉を切らせて筋も切る。十分に筋を切ったモモ肉はうまい。帰ったら、レシピサイトで検索GXXGLEだ。


ジョバッ今すぐ


 さらに、不安定なUNSTABLE姿勢からの回し蹴りRELEASE。逃がしてくれる気配はない。死体には、親切にするものだ。「俺の若いころは(略)」とじいさんも言っていた。戦争体験者の話はともかく、紅いヒールは残像として目に焼き付く勢いだった。


う、うでがーッOH MY ARM...


 蹴りの軌道上にあったダビデ像(俺)は、ビーナス像(俺)へと変貌を遂げた。ジャバりとアレが落ちた。あまりの痛みに、俺は意識を失っていた。


----


 後日、出血多量で死んだ俺は、ラボLABOに搬送された。投薬の後、よみがえるRESPAWN。ちょうど施設に侵入INTRUDEしていた紅いヒールの女に、再度、死ぬ目に合わされることとなる。その時の話はまたいずれ。

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