第3話 祭りの光は、自由への道(あきた)
(こんな事もあるものだ)
衛兵によると、建国100年の記念日と皇太子の誕生
が重なって、恩赦が出たという。刑期が短くなったその
せい衛兵に言われた。
どう短く見積もっても後5年は、あの牢獄の中だった
はずだったのだから急に肩の力が抜ける。
「道理で……」
外が喧しい訳だ。牢獄は、城の南東の離れにあるのだ
が、ここからでも祝賀による管楽の音が響いてきている。
夜の裏門通りといっても行き交う騎馬、着飾った参詣
の人往来も多く見える。これなら、城下町は想像できな
いくらいの賑わいであろう。
(こりゃ、人稼ぎできそうだな)
幸いにも懐には、長年看守等から博打でせびり取り、
隠し持ってきた金子がある。つまらない盗みが切っ掛け
で捕まった事なんかは、頭から抜けてきていた。
「へへ、これは、これは」
「おい、待て」
賑わいの音につられ、足を城下町に運ぼうとすると目
の前の衛兵に引き止められた。
「なんだ―――もう俺は自由なんだろ?止められる筋合
いはないはずだぜ」
「今回の恩赦は、王子誕生日を祝っての特例中の特例。
5年以上の刑期の短縮は……殆どないしな」
「だったら……何っーんだよ」
デフォードは、衛兵につっかった。気迫に押されたの
か衛兵は一歩下がってから答える。
「つまりだ――お前には、『監視役』がつき、居留地ま
で同行する。其処でお前は五年間を過ご……」
「同行って、牢獄と変わらねーじゃねーか!それに、5
年間も何処に押し込める気だ!!」
衛兵の言葉が終わらぬうちに、デフォードは食らいつ
いた。10年間以上も独房で過ごした挙句、監視がつき
また5年間も一つの所で過ごすのは耐えきれるものでは
ない。居留地なんて、どうせ奴隷の強制労働がいくよう
な遠島かなんかだろう。これじゃ、恩赦も何もあったも
のではない。
「わかったな!……ちゃんと待っているんだぞ。今に同
行者も来る」
デフォードの言葉などまるで聞いていないかのように
衛兵はそう言い残すと、門の奥に戻っていく。
「くっそっ!」
足元にある小石を蹴り付けると、門外で只1人佇む。
せっかくの自由は、一時のものだったのか―――期待
が一気に縮小する。そのいらつきは、露骨に態度に出て
いた。ぼさぼさに伸びた髪を掻き毟る、座り込む、貧乏
揺すりをする……だが、ただ、ただ、時間は過ぎて行く。
「……」
だが、一向に『監視をする者』が来る気配はないが、
時の刻みだけは、街の賑わいの高まりだけで感じとる事
ができる。裏門とはいえ、小高い丘にあるこの城は、そ
の光景は目にも入ってくる。街の中央に掲げられた篝火
は、多くの人影が見える。
「そうだ」
ふと、頭に過ることがあった。律儀に、言われたこと
を守る必要はもう無いのだ。牢番はいないし、衛兵もい
ない。街は、祭りで賑わっているのだから今夜中に郊外
に出てしまえば、ここの役人が追う手段はない――まし
てや、監視れ、居留地に流罪されるのはまっぴらだ。
そう思った瞬間、体が動いていた。昔から体に染み付
いた動作だ。周囲を確認するなり、夜陰に混じって森の
中に入って行く。周辺には、鳴子や落とし穴などの罠が
張り巡らせてられているが、彼にとってはそれを見極め
るのは朝飯前だった。戦争の無い厭戦気分に浸っている
小国が用意する罠は、で少し知識をつければ誰でも見抜
くことが出来る……時には、侍り、跳び、忍び歩きをす
る――ゆっくりだが、確実に前に進んでいく。
城の周辺の森を抜けてしまえば、後は平坦な坂道を下る
だけ。デフォードの視界には
『自由』
の二文字がちらつく。頭には、街の風景しかなかった。
ルール あきたしょうじ @Shoji_Akita
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