パクパクする布団【田丸流発想法実践その1】

星月 輝

来訪者

 人が連続して悪夢を見るようになった時、それは現れるらしい。


 そして、俺にもその番が廻ってきたようだ。


 “それ”とは、『夢喰い布団』のことである。世間では、『パクパクする布団』と呼ばれている。寝ようとして、ベッドを見ると、突然、今まで敷いてあった布団と入れ替わっている、というのが一般のようだ。突発的な事象ほど、恐怖になり得るものはない。振り返ったら、妖怪がいたことにほぼ等しいと言える。

 そもそも、この現象は、発生件数があまりに少ないことから、巷では都市伝説として流行していた。

 そんなホラーの対象になりかねない『夢喰い布団』だが、噂によれば、害を与えられることは皆無らしい。『夢喰い布団』の目的は、悪夢を食べることだけであり、それ以外はただの布団と何ら変わらない存在なのだという。まぁ、こいつが現れた時点で害だと思う人がいてもおかしくはないだろうが。


 俺のもとにも、突然のごとく現れた。

 最近、悪夢をよく見る気がする。そう思い始めた矢先に、まさかのお出ましである。歯磨きしながら部屋に戻ったところにそれがいたものだから、思わず歯磨き粉を吹き出してしまったほどだ。

 実際に見てみると、少し不気味だった。一見、普通の布団だが、まるで意識が宿っているかのように、ベッドと自分の間に鯨みたいな大口を形成している。そこに入れ、と言わんばかりに。口の中は、すべての光を飲み込んでしまうような漆黒で満ちていた。少し恐怖を覚える。

 ある人は、恐怖のあまり、『夢喰い布団』に入らずに眠ってしまい、その結果、より鮮明な悪夢にうなされることとなり、最終的には次の日にも現れた『夢喰い布団』に助けられる形となったようだ。

 だが、俺はそんなことはしないと決めている。この布団は無害で、夢を喰うだけの存在なのだ。むしろ、「来るべき時に来る救い手」とも呼べる存在だ。素直に入るのが、道理だろう。……それでも、少しばかり抵抗を覚えてしまうのが本音だ。

 

 俺は覚悟を決めて、『夢喰い布団』の中に足から突入した。

 首元まで布団に入ったところで、急に布団が風呂敷を広げたように拡張し、俺を頭から飲み込んだ。悪夢見るより、これの方がトラウマを植えつけられそうである。

 食べられてからの記憶はあまりない。だが、眠っている間、昨日まで見ていた「タマネギの夢」はまったく出てこなかった。つまり、『夢喰い布団』がうまく消化してくれたということだろう。


翌日、俺はベッドから飛び出し、床で眠っていた。


どうやら、排泄されたようだ。

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