第4話壊変歯車「汚染融合/貨幣召喚」

 神話は終わらないが人間は終わる。

 神話の世界における無関心への連帯ゆえに。

 

 人間が種としての滅亡を望まなくなることが荒廃のテーゼ。

 助けを求める君の声、思い出として色褪せる死者の声。

 終わることのできない絶望が憂鬱の反抗として甦る。


 星々の滅亡に関する天使の序曲。

 善意を疑わない人間の祭典に含まれる悪魔の預言。

 いつか鏡を見なくなるであろうその時に残された唯一の箱。


 幾多の運試しの偶然に、石となった神々の、残された静寂の緊張に

 死者は黙らず徘徊し、人魚は忘却の宿命を待ち続ける。

 偶像を装った切なさが、衣装の糧と交換される。


 夢の解釈で無意味さのドアをノックしろ。

 開かれた底無しの部屋は眠りの没落でのみ奈落を免れる。

 眠りの幸せを求めれば幻滅が家具の崩壊で繰り返す。


 妹の乳房に祝福を。姉の横顔に口づけを。そして世界に残酷を。

 希望をもって世界を犯し、歯向かうものに制裁を。

 音楽の焼夷弾が心を溶かし、殺戮の原風景を冥府で癒す。


 流れる星が炎となり、歩く大地を汚染する。

 時計の針が動いても、原子の震えは静止する。

 言葉を吐き出す実験の、叫び声が裏切りとなる。


 かつてあったはずの世界の原型を搾取の限界に変える決意。

 救済の断念に基づく資源の発芽を福音として述べる誠意。

 英雄が何よりも守りたかった愛を壊されることで再生は完結する。


 分裂が神の位階にあるのなら差別は人間の心にあるというのか。

 罪の意識を重ねることが憎悪を抑圧する権威になるならば、

 幾千年も昔に抱いた悲しみを停止させられるというのか。


 揺るがない、揺るぎようがない正義がある。

 いくら死体が無意味に累積しようが、変換の余地のない解放への意志だ。

 だが捧げられた救済の少女の物語が抵抗する。

 人形の形而上学に慈悲の余地があるというのか。


 科学の経験に裏打ちされた生産の力が権限を分割する。

 救済の断念は無価値となり憎悪の抑圧は去勢された。

 なのに悲しみだけは年月の層を増すごとに胸を締め付ける。


 迫害の意識は忘れられたのに世界は乖離の現象に留まる。

 無限の可能性を探求し仲間を集う新しさが乾いた瞳には軽薄に映る。

 鏡の囮に陥った代理の人形に我慢できるものか!

 それを聞き届ける人間はおらず神々は武器としての沈黙を保つのみ。


 異世界を圧政から解放しそこに救済の断念を女神として持ち込む。

 転生のシステムが搾取を約束し、それを承認するための家畜が群がる。

 大地の不安は宇宙と孤独を共有し夢の努力を分担する。


 残された義務とは人間を信頼する演出を考え出すことなのか。

 それはどうでもいいことではないのか。

 天才の閃きを成就するために魔王が貨幣の獣を呼び戻す。

 それは将来の経験に投資される熟練の記憶。

 

 もはや殺されないのに生き続けるのはなぜ?

 それとも殺し合いの戦場を呼び続けるべきなのか。

 心を壊して遊戯にのめり込み、狂気の仮面を理解の期待値に変換する。


 人間は終わり、神話は終わらない。

 そうであるなら機械仕掛けの汚染も終わらないのか。

 到達されたエンコード、弾ける貨幣の葬送曲。

 

 土砂に埋もれた追憶が、喪失の資本と融合する。

 故郷の無限の殲滅が、負債の放射を破壊する。

 夢幻に刻む地獄でのみ錬聖の魔術が運命となる。

 爆発的に繁殖する人類に絶滅の連鎖を与える継承の贈与。


 『MDMメルトダウンマジック―壊変歯車』を発動する。

 

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人間の壊変 オドラデク @qwert

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