エピローグ『祝勝会&歓迎会!』
「じゃあ、紗希ちゃんと香織ちゃんは机と椅子を動かして」
「成瀬がやらないのが気に食わないけど、でも……今回はあんたが頑張ったわけだし、あたしと香織がやってあげるわ。感謝しなさい」
「紗希ちゃんったらもう……。ごめんね、成瀬君。紗希ちゃんはあれでも君のことを祝福しているから」
「は、はあ……そうですか」
宮永先輩はやっぱりツンデレさんってやつなのか? それを前提にして彼女を見てみると色々と尖った言葉も可愛らしく思える。何故か俺の中ではツンデレさんは金髪のツインテールってイメージだから宮永先輩は合っているかも。
「今日は事件解決のお祝いと、篤人君とまどかちゃんの歓迎会よ。たまにはこういう楽しいことをしないとね」
「そうですか。……ところで、竹内さんはどうなりました?」
「犯罪グループの事も含めて、全てを認めたわ。近いうちに起訴されると思う」
「竹内先生はもう一生、外には出られないのでしょうか。何時か、遥ちゃんの産んだ子供を見たいって言っていたので……」
「大丈夫よ。彼女は幾つものの罪を犯してしまったけど、極刑にはならないから。彼女も深く反省しているようだし、できるだけ処罰が軽くなるように霧嶋刑事達が尽力してくれるそうよ」
「そうですか。良かったです……」
これが越水さんを含めて、全ての関係者の望む最善の道なのだと思う。真実を明らかにすることに敵う方法なんてないんだ。
俺はこれから、ここにいる四人の仲間と一緒に色々なことに戦っていくのだろう。今回の事件のように。
「奏先輩、準備できました」
「ありがとう。紗希ちゃん、香織ちゃん」
俺はソファーから立ち上がり、テーブルを見てみると……お菓子が散乱している。たくさん買ってきたんだな。
俺達五人はテーブルを囲んで立ち、紙コップにそれぞれの飲みたい飲み物を注ぐ。ちなみに、俺は近くにあったコーヒーにした。
「じゃあ、みんな。紙コップを持って」
どうやら、乾杯の音頭はリーダーの堤先輩が取るようだ。
「それじゃ……ななみさんの事件の解決と、篤人君とまどかちゃんのAGC入会を祝して乾杯!」
『かんぱーい!』
ああ、これこそが俺の求めていたことだったのかな。随分と形は違うけれど、誰かと一緒に楽しみながら送る高校生活っていうのは。
入学式の日、まどかを助けたときに……もう楽しい高校生活なんて送れないと思っていたのに、まさかこんな日がすぐにくるなんて。それも全て、今、俺の隣にいるまどかのおかげなんだよな。
「どうしたんですか、篤人さん。私のことをじっと見て」
「いや……ありがとう。まどかのお陰で今、ここに立っていられると思ってさ」
「……お礼を言うのは私の方です。ありがとうございます、篤人さん」
やっぱり、まどかの笑顔を見ると安心できるな。彼女を守ると決めた以上、できるだけ彼女が笑顔でいられるように努力しないと。
「何、さっきから二人で見つめ合っちゃってるのよ……」
宮永先輩の低いトーンの声に反応して、テーブルの向かい側を見てみると……三人の先輩方が俺とまどかのことをじっと見ていた。堤先輩は興味がありそうに。宮永先輩は何か嫉妬しているかのように。上杉先輩は微笑ましそうに。
「あら、紗希ちゃん。そんなことを言うってことは篤人君に妬いてるの?」
「べ、別にそんなわけありませんって。まあ、昨日の成瀬はちょっと頼もしいと思いましたけどね。あくまでも先輩としてですけど?」
「あらそう。私は篤人君のこと好きだけどね。リーダーとして」
「……それはどうも」
「やっぱり、篤人君をうちに入れて正解だったわ。昨日の事件の真実だって……私ですら自殺っていうのは考えられなかったから」
そうだったのか。薬のサンプルを殺害に使おうとしたならまだしろ、越水さんが自殺かもしれないという可能性は堤先輩だったら考えていると思っていた。
まあ、いずれにしろ……あれは賭けだった。竹内さんが根っからの犯罪者ではないことを信じて真相を話していっただけだ。
さてと、俺もお菓子を食べようかな。ちなみに、甘いものは大好きだ。だからこんなにあると何を食べようか迷っちゃうな。
何にしようかと迷っていると、プッキーの期間限定練乳味を見つけた。ちなみに、プッキーというのはスティック状のクッキーにチョコレートがコーティングされている大人気のお菓子だ。その練乳味ということはかなり甘いんだろうな。
期間限定のプッキーの箱を取ろうと手を伸ばそうとした瞬間、宮永先輩が先に取ってしまった。
「これ、一度食べてみたかったんだよね。香織も食べてみる?」
「いいの? じゃあ一本貰おうかな。僕、甘い物大好きだし」
「堤先輩も食べてみます?」
「そうね、一本頂くわ」
「まどかも食べてみて」
「は、はい! ありがとうございます!」
そして、俺は……スルーされた。それにも理由があって、期間限定のプッキーは高級感を出すためか太く作ってあり、それ故に一箱に四本しか入ってないのだ。
きっと、宮永先輩は自分を含めた女子三人と女子よりも女子らしいかもしれない上杉先輩が食べればいいと思ったんだろう。
ああ、俺も一本でいいから食いたかった。きっと、練乳味のチョコレートは普通のプッキーよりも大分甘いんだろうなぁ。
「篤人さんも食べたかったんですか?」
「……まあ、期間限定だしな。ちょっと、ね」
甘い物が大好きだからとは言えなかった。宮永先輩に馬鹿にされそうだと防衛本能が判断しているのだろうか?
「じゃあ、私のものと半分こしましょうか?」
「ちょっと待って、まどかちゃん」
まどかの名案に堤先輩が待ったをかける。
何だか、物凄く嫌な予感がするんだが。その証拠に冷や汗が出てきた。
「みんな、まだプッキーを食べていないようね。やっぱり、こういう場にはゲームを盛り込むと面白いと思うの。みんなプッキーを持っているし、篤人君とプッキーゲームをしましょう! 篤人君もプッキーを食べたいようだし」
プッキーゲーム。それは……俺なんかには絶対に縁のないゲームだ! 絶対にやりたくない!
「別にいいですって! 何だか俺、急にお腹が痛くなったような」
「逃げるなんて男らしくないわよ、成瀬! ねえ、香織だってそう思うよね?」
「そ、そうだね……」
男らしいというフレーズに上杉先輩も心が動いたのだろうか。というか、上杉先輩は本気でやる気なんてないですよね? 男同士ですよ、俺達。
「じゃあ、決定ね。まどかちゃんもやるでしょ? まどかちゃんは篤人君と一緒に住んでいるわけだし、最初にしてあげるわ」
「……あうっ。篤人さんとプッキーゲーム……」
そう言うと、まどかは練乳味のチョコレートの方を咥えて俺の方に歩み寄ってくる。恥じらう様子がまどかの持つ可愛さを引き出している。
「ちょ、ちょっと落ち着けよ。俺達は高校生になったばかりなんだぞ! 健全な高校生活を送ろうってさっき決めたばかりじゃ――」
「まどかちゃん、ゲームを遂行しなさい。これはリーダーの命令よ」
「堤先輩! ここは罪を憎む団体でしょう! そこに所属する人間がこんなことをしては団体の意に反するのでは?」
「AGCを創立したのは私よ。私がいいって言ったらいいの」
「滅茶苦茶だっ!」
俺と堤先輩が論議を交わしている間に、まどかが俺のすぐ前まで立つ。しかも、その後ろには宮永先輩や上杉先輩までプッキーを咥えて順番を待っている。まるで、この部屋の中では堤先輩が法律のような状態だ。
もはや、逃げられそうになかった。扉も開けられないように細工してそうだし。
「あひゅとひゃあん……」
プッキーを咥えるまどかは凄く可愛いらしい。そして、まどかは両手で俺の両腕を掴んで顔を俺の方に向けて目を閉じる。これは本気だ。
ここで嫌だと言ったらまどかが可哀想だし、ゲームを遂行してやろうじゃないか。
俺はまどかの咥えるプッキーの反対側を咥えた。
まどかはゆっくりとプッキーを噛んでいく。噛む度に「はむっ」と言ってくるのがこれまた可愛らしい。練乳の甘味がプッキーを通じて伝わってくる。
そして、まどかがプッキーを半分ほど食べたとき、俺は動く。
――ぽきっ。
俺は練乳味のチョコレートまで噛むと、首を横に振ってプッキーを折った。以降、俺はまどかの時と同じように高速で宮永先輩、上杉先輩、堤先輩のプッキーをへし折る。そのため、口の中はプッキーでいっぱいだ。
「堤先輩。俺はゲームを遂行しましたよ。これなら文句ないでしょう?」
ゲームを遂行することが決まった以上、平和に終わらせるためには相手の唇と重ならないようにするしかないと思ったんだ。そのためにはプッキーを俺から折るしかない。
「……まあ、ヘタレだなって少しがっかりしたけど、篤人君の言うことにも一理あるし文句はないわ。それに、お楽しみはとっておかなくちゃね」
堤先輩はウインクをしながら言う。というか、今後もプッキーゲームをやる可能性があるってこと?
「まあ、成瀬らしい真面目な答えでいいんじゃない」
「そうだね。僕もいくら成瀬君がかっこいい男の子でも、みんなの前で口づけをするのは恥ずかしくて嫌だなって思ったし……」
宮永先輩のコメントには素直にほっとしているが、上杉先輩のコメントはちょっと意味深だ。みんなの前だと恥ずかしいってどういうことだ? 上杉先輩、少し頬が赤いし。
そして、最初に俺とプッキーゲームを行い、一番真面目に遂行しようとしたまどかは、
「これで良かったです、篤人さん。篤人さんとキスをするなんて、皆さんの前では凄く恥ずかしいですし。あっ、でも関節キスは何度もしちゃっていましたね……」
と、その言葉通り恥じらいながら言った。
その後も和気藹々と歓迎会は進み、最後に新入生のまどかと俺がそれぞれ決意表明を言うことに。
「私、色々と拙い部分があると思いますが、よろしくお願いします。あと、自分の能力が生かせるようにできればいいなって思います」
「俺も真実を見つけるという強い気持ちを持って、皆さんと一緒に頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします」
まどか、俺の順に決意表明を言うと堤先輩、宮永先輩、上杉先輩は拍手を贈った。
AGCってここぞという時に意見も合うし、何だかんだで纏まりのある団体なのかもしれないな。
犯罪と立ち向かうことはとても危険なことだけど、真実を見つけるという強い気持ちとAGCのメンバーがいれば大丈夫だろう。
――Anti Guilt Children
通称、AGC。
それは五人の高校生から成る、色々な事件の真実を見つける団体だ。
俺、成瀬篤人はAGCのメンバーの一員として、これから三年間の高校生活の幕を開けるのであった。
『AGC-Anti Guilt Children-』 終わり
AGC-Anti Guilt Children- 桜庭かなめ @SakurabaKaname
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます