当初は「こんな客は嫌だ!」的な内容を想像していたが、ところがどっこい純粋に幽霊・怪奇現象ものである。
霊が集まるコンビニで霊障にまみれながら仕事をする袴田の様子は、ちょっとしたホラーゲーム実況のようだ。
人間の登場人物たちがキャラ立ちしていて快活なため、かえってホラーシーンとの落差が際立つ。
たとえば霊が見えるヤンキーと深夜アニメ好きなオタク少女という二重人格的な設定の平井さんなどはその代表格と言える。
彼女が登場すると明るい雰囲気のやりとりを楽しく読み進められるわけだが、いつ霊的な落とし穴があるかという恐怖も同時に湧いてくる。
平井に限らずどの人物においてもこれは同じことで、こういう落差の演出こそがホラーの技法である。
それにしても恐怖とは何だろうか。
それは基本的には鋭敏な感受性と想像力であって、そこにないものをあると思ったり、単なる風に過ぎないものに過剰な何かを読み取ってしまうことだ。
そういう感性の操作は小説という言語芸術の十八番であって、恐怖の断片とも言える些細な表現をぜひ楽しんでもらいたい。
(寒すぎる夜をより寒く!? 怖い話4選/文=村上裕一)
小説でここまで恐怖感を味わえたのは初めてです。文字だけの小説が読者にこれ程恐怖感を与えるのは簡単ではありません。感服しました。
実際に体験したかのように、それでいて映画ジョーズのように迫り来る緊迫感を丁寧に描写し、読者の脳裏に表現させる作者の文才は、芥川龍之介が書いたと言っても過言ではないと、私は思いました。
(言い過ぎだろ、って思った人は『羅生門』をしっかり読んでみてください。)
ストーリーも筋が通っていてとても良いものでした。最近の小説のように話が変に脱線するようなこと無く、最初から最後までひとつの結果に結びついていく感じが、読んでいて心地よかったです。
この小説は前半に伏線が多いですね。私はその伏線を注意しながら読んでいったので、後半になってからどんどん膨らんでいく展開が、ミステリー小説のようで面白かったと感じました。