Scene4  ぼくの愛すべき編態真師の話をしましょう  sight of ルカシ=シャンターク




まえがきに代えた

●ホモホモしい少年の男への想いを綴る話が嫌いなかた向き Scene4のあらすじ



 手記風です。


 ルカシ=シャンタークは、公爵令嬢の元奴隷兵である。


 ルカシは境夜に色んな事を教わって尊敬したホモホモしい少年だが、男の娘ではなかった。

 

 そして、ルカシと公爵令嬢は共にオーバーロードの残党の陰謀と戦うことになったようだ。







注意事項


●作者は少年愛を嗜まないので、ルカシの心理病写に間違いがあるかもしれませんが、その場合は御教示ください。


●言語について考えるのが面倒ならルビは無視してください。


●言語と概念についての考察をルカシは学び始めたばかりです。


●ルカシの数学知識は中学生から小学生レベルです。


ただシュワ無価値シュワは。同じ表音文字で表される異世界語です。


価値プラ身分プラ在り様プラは、同じ表音文字で表される異世界語です。


奴隷シュワ・プラ無価値シュワ身分プラと同じ表音文字で表される異世界語です。


真師ファセムも同じ異世界語で、~のファセムと同じ言語です。


●【】内の言葉は日本語です。





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Scene4

 ぼくの愛すべき編態パミュ・プラ真師ファセムの話をしましょう  sight of ルカシ=シャンターク







 あまり、難しい言葉は判らないし、詠呪詩人フゥルなのに、喋るのも苦手だけど。


 ぼくの愛すべき編態パミュ・プラ真師ファセムの話をしましょう。


 変な格好の紳士で、異世界から来たなんて言う変態だと思っていた人です。


 殺せばいいのに敵を虜にして、寝返らせ罪を償わせたり、罪を購わせる道を探してやったりする馬鹿な偽善者だと思っていた人です。


 《芳桜院 境夜》、それがぼくの真理の導師ファセムです。

 

 ぼく?

 ぼくは、ただシュワの元奴隷です。


 奴隷として生まれて、戦闘奴隷に成り、詠呪詩人フゥルシャンタークの称号を得て、公爵令嬢様の所有物モノとして生きていた者です。


 そう、ただシュワの……


 あ、無価値シュワの、なんて言ったら、境夜さんに諭されますね。


 自分を卑下するなって。


 自分の価値プラは自分の行いが決めるのだから、自分の価値プラを貶めるんじゃないって。


 人の価値プラは、ただそれだけで決まるべきなんだから、いつでも自分の評価イュアは自分で決め続けないといけないって。


 どんなに評価イュアが上がって売値ロナ・プラが上がっても、ぼくの身分プラ奴隷シュワ・プラで。


 何時だってぼくの生き方は、自分以上の誰かが決めるものだと思っていたのに。


 自分の評価イュアが自分の行いで誰かに認められて決まったって、それは価値プラを決めるものじゃないって。


 自分の在り様プラは自分で決めるものだって。


 そして、自分で決めた在り様プラだけが、評価イュアの基準として見られる世の中にしようとするのが正しいって。


 そう思わないかと問われて、ぼくが自分で正しい事を決めたんだろって。


 だから、自分を買い戻して元奴隷の詠呪詩人フゥルとして、一人の人として自分の意志でナイア様に仕える事にしたんだろって。


 だったら、自分を卑下するのは間違いだろって、諭されます。


 ううん……違いますね。


 境夜さんは、何も諭さずに、それでいいのかと問うだけの気がします。


 何故なら、奴隷シュワ・プラの頃のぼくには、考えつきもしなかったことだけど、今のぼくは、自分で考える事が正しいと信じていますから。


 そう、ぼくが信じてる事を知ってるから、諭したりしない。


 境夜さんに助けられたくせに、それって境夜さんに操られて、境夜さんのいう事を信じ込まされただけじゃないのって意地悪を言う仲間もいるけど、違うと思います。


 どうしてって?

 だって、境夜さんは、優しくないですから。


 今は好きですけど。


 だから、境夜さんが悪いヤツって信じたがってる仲間の気持ちも判るんです。


 ナイア様も、ぼくらの奴隷契約魔術の解除には驚き困っていました。


 あたりまえです。

 この魔術は絶対解けないはずで、みんな、この魔術があるから、世界アルディが成り立っているんだと教わりますから。


 ぼくだって、世界アルディの摂理を曲げて、誇り高き公爵令嬢様のためだけに生きてきたぼくを、唯一人の人間にしてしまった境夜さんの事を、最初は恨みました。


 だって、怖いから。


 自分で考えて、自分で決めて、自分が正しいと思った事を、自分の方法で実現しようとするなんて。


 周りの人と共に同じ方向を向いて同じ事をしていても、誰かに命じられるのでなく、いつだって自分で生きるのは、不安で誰かに縋りたくなって辛いから。


 でも、今は感謝してしまっている。


 境夜さんは、世界を変えられると信じているのです。

 そして、ぼくらはそれを信じてしまったから。


 それだけを見ると、モノの在り様プラ創り変える人アルケーに、ぼくも創り変えられてしまったと思うかもしれません。


 世界を悪い方向に変えるモノに騙されて好きになったんだろうって。


 でも、違うんです。


 その証拠に、境夜さんは、男しか愛せないのは心の病だと言って、ぼくとの男同士のたしなみを否定するけど、ぼくは女に恋なんてできません。


 男同士の愛を否定しないけど、女にムラムラこないのは心の病いだって境夜さんは言って、今までに関係した女の良さを説明するのはヒドイと思ってます。


 男同士の愛こそが至高で純粋な真の愛なのに。


 肉欲の愛は生物としてあたりまえで、どこにでもあるものが真理だなんて、信じられません。


 ね? 境夜さんに言われても、変ってない事のほうが多いんです。


 それでも、境夜さんの言っていた自分が自分でいる証を立てる二つの方法。


 他者ひとを拒絶し自分は違うと違いを憎む方法と。

 他者ひとを認めて自分の違いを愛する方法だったら。


 愛する方法が正しいのだとは思います。


 だから、以前ほど女を嫌うのは止めようと思ってます。

 女を憎むのは、公爵令嬢様に違うと教えてもらいましたしね。


 ぼくの敬うべきもう一人のかた。

 その公爵令嬢様と一緒に、死を迎えるのだと覚悟した日。


 あの日、逃走を封じられて死にかけたぼく達の前に、境夜さんは現れ、ぼく達を救ってくれました。


 公爵令嬢様は、ぼく達も敵達もまとめて【ティザー】で気絶させるような真似を、助けたとは言わないと言っていましたけどね。


 それでぼく達を襲ったのが、あの【オーバーロード】の差し金だって判ったし、あの混戦状態だったんで、どっちが悪いのか判断する暇もないのだから、仕方ないと思うけど。


 ナイア様は、《脳磁生理複合式嘘発見器》という魔道具で尋問されたのも、気絶させられたのも、不当な扱いだと怒っていました。


 境夜さんも、助けたのではなく、争いを止めたのだと言っていました。


 それでも、ぼくは助けられたのだと思います。


 だって、生きていられるんですから。


 生きていられたから、ぼくは知る事ができたんです。


 奴隷シュワ・プラという人としての価値プラ無価値シュワな人間なんていないんだって。


 それは、強者が弱い者を従えさせるために創った誤魔化しだって、そう気づけたんですから。


 身分プラが、そのまま人としての評価イュアで、それが絶対の神の摂理だっていう嘘で。


 暴力こそが最も権威ある《価値観》だという誤魔化しを信じ込まされていたぼくがね。


 何も知らなければ、子供のままだったなら、簡単に騙されていた嘘も、今では違うんだと思えます。


 自分の人としての価値プラは自分で決めるんです。


 そして、人としての価値プラに相応しい行動だけが、人としての評価イュアを決めるのが正しいって。


 なぜなら、それは人の可能性を信じることだから。


 でも、それは基本なんだそうです。


 ゼロからプラスの方向へ向かうことだから。

 

 その先があるから、ただシュワの元奴隷なんて、まだ人を身分プラで考えてしまうぼくだから、基本を忘れないようにしないといけないんです。


 剣や槍の稽古と同じで、基本は毎日繰り返して、心と体に刻み込まないといけません。


 知は力なりって言葉が、境夜さんの世界にあるそうなので、忘れないように、間違わないように、こうやって何度も思い返すんです。


 獣ではない人が、自分で考えて、自分で決めて、自分が正しいと思った事を、自分の方法で実現しようとするのなら、知らなければ何もできないから。


 その言葉は正しいのだと、今のぼくは知っています。


 だから、こういった事も面倒ではありません。


 だって、剣や槍の稽古も毎日してるんですから。


 助けてくれたその後、ナイア様を一緒にユダワスプ国の都に送ってくれる事になって。


 その旅の途中で、境夜さんは、ぼく達に色んな事を教えてくれました。


 知らない場所の景色に風景。知らない国の歌や唄。

 そして、知らない言葉に考え方。


 人が創った多くの言葉を知り、細かく色々な違いを理によって積み上げる精神文明と。


 自然が創った様々な物と生物と法則を理によって積み上げる物質文明と。


 その双方の係わり合いや善い技術と悪い技術の違い。


 それを聞いて知るのは凄く面白かった。


 特に、精神文明とは心の豊かさを得るための技術っていう話で、人の心を獣の欲望から解き放って幸せにするものだって言うから。


 男同士の愛は、精神文明の善い技術なんだって気づいたぼくは、心からそれを納得できた。


 そして、悪い技術は、きっと人を騙したり操ったり、悪い事を誤魔化して善い事に見せたり、上手に人殺しや盗みや詐欺や略奪をするための技術なんだろうって思えた。


 でも武術のように使い方で善くも悪くもなる技術もあるのではとも思えたので、聞いてみた。


 境夜さんは、それは一緒に考えるから違うんだって教えてくれた。


 武術とは、物質技術だけを見て、人が争うための技術と人を護るための技術を一緒くたにして、表した言葉だから。


 殺傷武術と護身武術という別の言葉で考えればいいんだって。


 そして、それぞれに正しい使い方と間違った使い方があると考えるんだって言う。


 殺傷武術の正しい使い方は悪い技術で、暗殺のような時に使うような技術。

 護身武術の正しい使い方は善い技術で、強盗から身を護る時に使うような技術。


 殺傷武術の間違った使い方は好い技術で、殺人狂を倒す時に使うような技術。

 護身武術の間違った使い方は嫌悪わるい技術で、弱い者イジメの時に使うような技術。


 ちょっと判り難いって言ったら、どんな技術でもそうで、数学とかのように理を使って、積み重ねていくのが技術の進歩なんだって言われました。


 本当は、足したり引いたりで善いと悪いと正しいと間違いっていうのは、基本でしかないって。


 立体的なベクトル計算のように、複数の要素を組み合わせて善い方向に導く意志と悪い方向へと導く意志がとかになると、数学をあまり知らないぼくには、まだ難しすぎる考え方でした。


 文明って言うのは、物事を細かく分類して考えていく事で進歩できて、そういう細かく考える方法を、科学的思考って言うんだそうです。


 物質科学は、物質の働きについて論理的で数学的に考える。

 精神科学は、心の働きについて論理的で数学的に考える。


 それで、論理的って何かとか、数学的って何かとか。


 とにかく、色んな知識があるのを知って、世界が広くなったような気がしました。


 世界が広くなったんじゃなく、ぼくの視野が広がったんだって、境夜さんは言いました。


 だから、ぼくは境夜さんに騙されたんじゃない。

 だって、境夜さんは、嘘や誤魔化しをしない。


 でも、そう言うと、境夜さんは微笑わらって、誤魔化されたりしてないかどうかは、もっと色々知って、自分で考えて決めるんだよって言う。


 何が正しくて、何が間違っていて。

 何が良い事で、何が悪い事で。

 何が好い事で、何が嫌な事で。

 何が善い事で、何が邪な事で。


 何が利益で、何が損害で

 何が大事で、何がどうでもよくて。


 何が譲れなくて、何が譲れて。

 何に順番がつけられて、何に順番がつけられず。


 そして。


 何が望んだ事で、何が望まない事か。

 何を志して、何を諌めるのか


 その、色んな状況での全ての違いと違わなさとを考えて。


 誰を信じて、誰を信じないのか。

 何を信じて、何を信じないのか。


 知る手助けはしてやるから、全部考えて、自分で決めろって。


 厳しいよね。


 そういうように生きなくても生きられるのに。

 考えないといけない事も、しなければいけない事も多くて。

 ただ、生きるだけなのに、たくさん勉強して、たくさん頑張らないといけない。


 でも、だからこそ信じられると思いました。


 知る事の楽しさや視野を広げるって事の開放感を感じて、ぼくは変ってしまっていたから、そう思えました。


 自分で考えて、自分で決めて、自分が正しいと思った事を、自分の方法で実現しようとするのは、今でも怖い。


 今だって、周りの人と共に同じ方向を向いて同じ事をしていても、誰かに命じられるのでなく、自分で生きるのは、不安で誰かに縋りたくなって辛い。


 けれど、知ることで、ぼくは奴隷ではいられなくなってしまった。


「それは、ある神話では知恵の果実を食べたって表現される状態だね」


 そういって、境夜さんは、炎を人に与えて、人を奴隷から解放する神の話とそして、それを嫌ってその神を罰した征服する戦いの神の王の話をしてくれた。


 その神や他の神の話を一緒くたにして誤魔化して一つの神だと人を騙して創られた聖書って本に書かれてるのが、その話らしい。


 異世界には、顕現して力を振るう神はいないから、そんな事ができるらしい。

 この世界でそんな事をしたら、絶対神様にどんな罰を受けるか判らない。


 そういう世界の人だからなのか、境夜さんが特別だからなのか。


 《芳桜院 境夜》という人は、神を特別だと思っていない。

 神を目の前にしても、ぼくと同じ様に接するんじゃないかと思う。


 ぼくには、絶対にできないけど。


 公爵令嬢様じゃなくて、ナイア様。

 奴隷じゃなくて、ルカシとして、ぼく達を見るように。


 神を前にしても、普通に名を名乗り、普通に名を聞く気がする。


 そういう人と出会って、ぼくは今のぼくになった。


 そう、境夜さんの与えてくれたものが、今のぼくの原点だけど。

 ぼくは、境夜さんに、信じろとは一度も言われなかった。


 だから、境夜さんは、ぼくの心の師ファセムなんです。


 ナイア様も、色々と文句を言っているけど、境夜さんに感謝してるんだと思います。


 クリスさんっていうアヤセの人達のリーダーとは、反りが合わないみたいですけど。


 境夜さんが、リーダーのほうが良かったのにとか言ってるのも、クリスさんを嫌ってるからっていうより、境夜さんを高く評価イュアしてるからだと思うしね。



 境夜さんから、ユダワスプとツォングォンの戦争を起こそうと企んでるオーバーロードの陰謀を、何とかして打ち砕こうとしてるって話を聞いて。


「それで、狙われたのね。まさかそんな方向にシナリオが変ってたなんて」


 って境夜さんに協力して、ぼく達を狙って来たオーバーロードと一緒に戦う事に決めたみたいだしね。


「あくまで、利害が一致しただけ。わたしは死にたくないだけ」


 なんてナイア様は言ってるけど、時々、眩しそうに境夜さんを見ているのを知ってます。


「ツンデレきどり? これだから女を売り物にしてる女は性質が悪いのよ」


 とクリスさんが突っかかって。


「女である事に誇りを持てない女ほど、そう言うのよ」


 ってナイア様が、やり返して。


 ケンカになってしまいましたけどね。


 【ツンデレ】って何かは判りませんけど、貴族嫌いのクリスさんと貴族のファセムのようなナイア様ですから、そうなるのが普通なのでしょう。


 境夜さんは、貴族嫌いじゃないけど、貴族も平民もない世の中を創ろうとしてるって言ってたけど。


 ナイア様は、あまり気にしてないから、ケンカになるのは、別の理由なのかも。


 相性の悪いひとっていますからね。


 でも、ひょっとして、境夜さんを中心にした恋のさやあてなのか、なんてね。


 まさか、それはないよね。


 境夜さんは、ぼくの最愛の絆ファセムなんだから。



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