Scene3   公爵令嬢はS級死亡フラグ建築士  sight of ナイア・ルトゥラ・フォーテ・プレミラ

 



Scene3  

公爵令嬢はS級死亡フラグ建築士  sight of ナイア・ルトゥラ・フォーテ・プレミラ










 《Growth and Innocent~愛ある限り~》というゲーム知ってる?

 

 恋愛ゲームなんだけど、同じ名前のMMORPGを作ったメーカーが、恋愛バトルMMOとして作った《Growth and Innocent~奪い愛、成り上がれ~》に先駆けて作られた一人用フリーゲームで。


 世界観を定着させるためと、システムを理解してもらうためということで、無料配布されたのが大ブームとなって、恋愛ゲーム人口を100倍に増やしたとかで、夜の報道ニュース番組でも取り上げられた。



 まあ、シナリオ自体は、主人公を選んで貴族の通う学園で恋愛を楽しむだけなんだけどね。


 でも、恋愛バトルというだけあって、数十人のキャラから主人公を選べ、カップリングも男×女だけじゃなく、男×男に女×女にエルフや獣人や妖精といった人外まで恋愛対象の攻略キャラあつかい。


 節操なさすぎじゃないとツッコミながらも、今までにない膨大なシナリオ分岐や複雑で先の読めないストーリー展開に、ゲーマー魂が萌えたものだった。


 ‘ ニート財団 ’の研究室が開発した量子コンピューターと、プログラムサポートAIがなかったら、とてもできないゲームだったろう。


 そういったゲームでも普通に悪役というのはいて、中世風貴族社会なので、それは当然、権力者キャラだった。


 平民の特待生とかだと小物すぎるし、魔王とかだと学園ものとしては強大すぎるからなんだと思う。


 その中で、女性のボスキャラとして君臨したのが、学園があるユダワスプ国の源流のユーロ公国から留学してきた公爵令嬢ナイア・ルトゥラ・フォーテ・プレミラ。


 もう、名前からして邪悪な感じでしょう?

 うん、ていうか邪神からとってるよね、絶対。


 

 名前にふさわしく、可愛げのある嫌がらせをするライバルキャラではなく、敵を合法か非合法かを問わないな手段で排除するタイプの現実の中世で暗躍した権力者タイプのキャラで。


 「邪魔ね、アレ。二度と見たくないわ」


 とか家来の前でポツリとつぶやくと、何日か後には邪魔者が行方不明になってたりして。


「可哀そうに、この学園は生き苦しかったのかもね。新しい居場所は、きっと何の苦しみもない場所なのでしょうね」


 とか無邪気そうに、邪魔者が消えた事を、語ってたりする感じで、本人は直接指示しないんだけど、周りの部下達が。


「万事、よしなに」


 って勝手に動く位のボスキャラっぷりで。


 だからこそ、その最期や消え方も凄惨だ。


 あるシナリオでは、学園のある街を火の海にかえて炎の中に消え、大量の死者を出し。


「ネロプラス信長? どんだけよ?」


 と某オカマタレントに、テレビの対談番組のネタにされて突っ込まれ。


 あるシナリオでは、王城の礎を破壊して、王族と多数の貴族達を道連れに、瓦礫の下敷きになり。


「自爆は悪役の美学だけど、普通の物語なら色々と語る場面を、時間稼ぎに徹して、道連れを増やすなんて、悪意と殺意が半端ない」


 と実況動画で評されて賛同を集め。


 また、あるシナリオでは、追い詰められる寸前に故国へ逃げ出し、その直後に疫病が流行して、ユダワスプ国とユーロ公国の戦争に発展して、ユーロ敗戦時に《魔境の森グヴァルー》で行方不明。



「絶対、細菌兵器使ったよね。毛布を孤児院や貧民達に何百枚も配るって、アメリカで故意に天然痘ばらまいたっていう白人達が元ネタ?」


 とかネトウヨな人達に騒がれて評判になり。


 そんな感じで、公爵令嬢はS級死亡フラグ建築士って言われていた。


 S級になると自分だけじゃなく、大量殺戮フラグを立てて、死亡フラグを周囲にばらまくんだそうで、流行語にもなったのよね。


 まあ、そんな悪役もフィクションの中でなら許されるんだけど、それが現実になると深刻な話になってくる。


 実際に、日本だと自分の名前を経済政策マネーゲームっぽい利権ものにつけた世襲の総理大臣Aが、親の議員秘書だった時にワイロを受け取った事件のもみ消しとかのように、関係者の死くらいで済むんだけど、外国だと虐殺とかが起こるしね。


 前世も私の家は、それなりというか、戦後の日本にはないと言われてきた上流階級に入る家だったので、そういった利権ものに巻き込まれる怖さは知っている。


 うん、そう前世なんだよね。


 若干、19歳で死んだというか、親が関わっていた利権がらみで誘拐されかけて、逃げ出そうとして路地から飛び出した所で自動車事故で死亡。


 貧乏もタイヘンなんだろうけど、上流だってアメリカのTVドラマみたいなことが日本でも起こるようになってタイヘンなのよ。


 上流階級ってのは富を寡占できるから上流なわけで、中産階級や下層階級が裕福になると困るから、色々と頑張って裏で動かないといけないし、それが表沙汰になると破滅するので、どうしても犯罪に関わらないといけなくなる。


選挙に金銭を使わないと当選できない制度が法律で定められてるので、犯罪に関わらないと政治家と官僚と財界のコネから外れて上流でいられなくなるって仕組みなのよ。


 おまけに、司法官僚に多国籍企業の利権で動く勢力があって、正義の名の下に、自分達に従うものの犯罪は見逃して、逆らう者だけ取り締まるので、多国籍企業の傀儡となってるアメリカの政権に頭が上がらないしね。


 アメリカって国じゃなくて、アメリカにある利権。


 これは重要よ。

 

 間違えると、軍事産業利権に煽られて、右翼や左翼の利権に利用されちゃったり、下手すると戦争に巻き込まれちゃうから。


 そう、現実って白黒がフラタクル模様にこんがらがって、遠くからだと灰色に見えるのよね。


 灰色の現実────笑えない話よね。


 明治以前みたいに、身分制度があって特権が法的に認められてれば、犯罪に関わらなくてもいいんだけどって、ひいおじいちゃんが嘆いてたわ。


 うん、まあ色々全部、元華族のひいおじいちゃんの受け売りなんだけど。


 でも、そういう教育を受けてたおかげで、生まれ変わっても、これまで生きてこれたんだと思う。


 たぶん、普通の女の子だったら、典型的悪徳貴族の両親に逆らって心を壊されてるか、洗脳されて親達の利権確保を生きがいにしてるか、比較的自由な中産階級とかに憧れて下層階級に落ちるか親に殺されてるわ。


 あー……たぶん気づいてるだろうけど、公爵令嬢ナイア・ルトゥラ・フォーテ・プレミラに転生しました。


 富に飢えた下層階級や私達に代わって成り上がろうという中産階級の出なら、最初は喜べたんだろうけど、私にとっては生活レベルが下がり、危険度が増してという未来が予想されて、絶望するところだった。


  この立場になって、ゲームのナイアが、ああなった理由が判ったわよ。


 親からして、もう権力亡者の特権意識の塊で、公爵家の利益が公国の利益で他は貴族家だろうと仮想敵か家畜かペット。


 前世の親も、しないと貧乏に成り下がるので、利権のための贈収賄とかはしかたなくしてたし、品のない下層階級出身者を軽侮バカにしてたけど、それはキレイ事で戦うのを放棄した人間や人の邪魔ばかりする無能でつまらない人間を軽蔑してただけ。


 どんなに軽蔑する相手でも、一応は人間として考えていたし、暖かいとは御世辞にもいえなくても、家族の絆のような協力関係ものもあった。


 でも、ナイアの親ときたら、娘なんて利権確保のための道具としか考えていなくて、それが常識で他の生き方があるなんて考えもしない生き物だった。


 私も前世の記憶がなかったら、ゲームのナイアのようになっていただろう。


 だって、それが常識だから、悪事を働くのが空気を読むことで、褒められる事で、他の生き方って選択肢もなければ、自由って考え方も言葉もないんだから。


 そう、よく考えれば当たり前なんだけど、この世界は中世なので比喩じゃなく自由って言葉がないのよ。


 いちばん近い言葉が《自侭ブゥラ》かしら。


 子供に「我儘わがままいうな」っていうのも、こっちの言葉だと「《我儘ブゥラ》は悪い事よ」って意味になる。


 “ 自由 ”や“ 平等 ”や“ 平和 ”って言葉すらない世界で、命懸けの利権争いを何世代も続けてたら貴族がそうなるのも当然よね。


 で、ゲームの舞台であるユダワスプ国に来るまでに、前世の記憶がよみがえった三歳からの十三年で、前世の知識で私財を稼いで、スキルや護衛の奴隷を買って暗殺に備えたり、戦争回避の策をとったりと、できるだけ死亡フラグを回避してはいたんだけど……。


「姫様、高速転移魔術ルウォーラが阻害されています」

「後方の騎獣兵、数十騎ですが、魔獣のレベルが高く、引き離せません」

「前方に物理結界、迂回していたら追いつかれます」



 なぜか、物語が始まる前に死にそうです。


 敵の足止めに、奴隷兵士を使い潰して囮にすれば逃げ切れたんだけど、戦力が減るのを惜しんで集団転移をしようとしたのがいけなかった。


 まさか、高速転移ルウォーラ阻害の領域結界が張られてるとは思わなかった。


 城などで使われる大規模な領域結界を造るのには、普通の貴族の年収程度の費用がかかる。


 それをこんなとこに物理結界と一緒に造るなんて……。

 

 これ、完全にこっちの手の内が知られてるわね。


 鎧は統一されてないけど、あの数の統率された高レベル魔獣騎兵が揃ってるのを考えれば、絶対盗賊なんかじゃないし、だったら、こっちの獣車の紋章や旗で、ルトゥラ公爵家の直系フォーテである事は判ってるはず。


 どう考えても、人違いなんかじゃなく、私を狙ってる。

 しかも、確実に仕留める気で。


 殺す気か捕らえて利用する気かは判らないけど、生かされても死んだほうがマシと思うことになる気がするわね。


「しかたありません。迎え討ちなさい」


 獣車から降りて、集団防衛スキルの要、詠呪詩人フゥルシャンタークの側に立ち命じた。


 詠呪詩人フゥルは呪歌スキルを持つ人間がつく職業テェアランで、フゥルのように歌って生きるという事で、そう呼ばれてるけれど、スキルレベルが上がると集団防衛スキルを覚える有力なスキル使いテェアランだ。


 とは言っても多勢に無勢、こちらは18人で、向こうは数十騎。


 魔獣のレベルより操乗すあやつる騎兵のレベルが低いという事はありえないから、戦力差は普通に考えて三倍。


 これだけ周到な罠を張っている事を考えれば、勝てる確率は少ないだろう。


 ゲームのナイアが、主人公達にまとめて倒されるような使い捨て用の奴隷兵士を大量に抱えて、精鋭の奴隷兵士を持たないのは失策だと思ってたけど、こうなってみると解る。


 ある程度の数の奴隷兵に死ぬまで時間稼ぎをさせれば、逃げるだけなら簡単なのだ。


 使い捨て用の奴隷兵士ならいくらでも補充がきくから、初めから使い潰しの捨て駒として、近辺の数人の側近以外はザコでいいと割り切っていたのだろう。


 逆に精鋭でも数が少ないと、相手も精鋭で数も上回れればこうなってしまう。


 風結界で守られながら空気抵抗も中和して、秒速数百キロの超音速移動をする魔法としかいいようのない高速転移ルウォーラさえあれば大丈夫という油断があった。


 奴隷兵士にスキルを与えたせいで使い潰すのを惜しんだのが……ううん、非情にはなれても、ゲームのナイアのような怪物になりきれないのが失敗だったのかも。


 貴族に青い血が流れている=人間じゃないという皮肉を、前世の特権階級が逆に自分達は下賤な人間とは別だと誇る意味で受け入れていたように、こっちの世界にも、似た感じの話がある。


 貴族の体には、死と不幸を招く血の呪いがあるというものだ。

 気安く下賤の物が触れると移って、貴族の血を持たぬために死ぬ。


 その呪いを使いこなせてこそ貴族。

 私は、どうやら貴族に成り損ねたらしい。


 甘さを捨てて非情の決断はできても、それをストレスに感じる人の心を持っていては、いつか辛さに耐え切れなくなる。


 だから、貴族は、弱肉強食の世界で人の心を捨て、怪物として育てられるんだろう。


 まして、この世界は。弱肉強食を加速させるように“ 倒せば幻のように消える心さえ持たない魔物 ”を擬似的に殺す事が求められる世界。


 倒せば消えるとはいっても、その過程は血の臭いや臓物や糞便の悪臭までがリアルで、そのくせに恐怖を感じもせず、ただただ命を奪いにくる存在。


 そんな魔物に打ち勝つには魔物になるしかないようにさえ思えて。


 まるで、良心を麻痺させるシミュレーションであるかのような狂った世界なのだ。

 

 こうして、人の心を捨てられない者が消えていくのなら、この世界では人の心なんて必要ないのかもしれない。


 様々な思いが巡る中、ついに戦いが始まって、私を護っての乱戦が始まった。


「倒す事より、身を護る事を優先させなさい」


 そう命じたのは、奴隷兵の命を案じたのではなく、戦いが長引けば通りかかる者がいるかもしれないからだった。


 ここは、人里離れた辺境ではなく、国を繋ぐ主幹道路なのだ。


 例え、戦えない者達でも通りかかれば、近隣の兵を呼ばれないように口封じに戦力を割かなければならない。


 通りかかった者には気の毒だが、そうなれば生き残る目も出てくるはず。


 そう考えるくらいには、私は貴族に馴染んでいた。


 もう、前世のように“ 私達の地位や生活を保つために起こる争乱で死んでいく遠い国の人達 ”から目を逸らし続ける甘えが許される立場ではない。


 日本でなら、下層階級までも共犯にして“ 餓死者を大量に造る世界を武力で維持する手助け ”を外国でしていても、直接人を殺す軍隊など持たない国だという誤魔化しを信じる事もできた。


 でも、ここではそんな甘えた理屈は通らない。


 殺してでも奪い取り、家族や奴隷に分け与える事で幸せになるのが正解なのだ。


 ああ……でも、それを幸せと呼ぶのなら人ではないでしょう?


 目の前で飛び散る血が、防御結界にはねて露となって滴っていくのを、遠くのことのように見ながら、心の中で誰かが言う。


 でも、良心それは、何処でだって“ 甘え ”なのよ。


 虫のように殺して奪って喰らい尽くす生き方以外は、ただの幻想。


 欲望を満たす利益を幸せとして生きるなら、最大多数の最大幸福が、現実的な正解。


 だから、自分達さえ利益を得らればいいと考えて、“ 幸福 ”を奪いあうのよ。


 利益それが“ 幸福 ”で、皆がそういう生き方をして、“ 幸福 ”を求めるのが、“ たった一つの冴えたやり方 ”で、別の生き方なんてないんだから。

 

 そうでなければ、私がこんな所で死ぬわけがないんだから……。


 そうして、私がすべてを諦めかけたとき、物理結界が砕ける音が響いた。


 ふりむくと、物理結界に遮られていた道の向こう側に、一台の大型トレーラーが止まっていて、その横に一人の男が立っています。


 それが、利益を得る事を幸せであると考えるのが間違いの源なのだと、この呪われた異世界で堂々と語り、間違いを正そうとする意志を多くの人間に広めていく自称凡人──《芳桜院 境夜》──との出会いでした。



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