地獄行き

大空ゲンコ

第1話

 深く暗い鉄格子のなかで、一人の男が頭を抱えている。その顔面は快楽の余韻を残しながらも、迫り来る多大な後悔の念で、激しく崩れていた。


俺はとんでもない罪を犯してしまった!!

欲に負けてあんなことをしてしまうなんて!!

俺はバカだ、まだこれからの生活があったというのに!!


 後悔は次第に怒りへと形を変え、例えようのない胸の痛みは腹の底に積もる。その怒りは、罪を犯した自分に向けられているのか、自分を焚きつけた奴らに向けられているのか、……もしくは罪そのものに向けられているのか…、そんな事を考えている余裕はなかった。しかし、捕まってしまっては後の祭りだということは、頭の隅でしっかりと理解していた。


…………。

男は顔を上げる。


今更そんなことを言ったって仕方がない。

俺の判決はもうじき下る。

なるべく軽い刑罰になってくれるのを願うだけだ。

いや……、どんな刑罰になっても償ってみせる。


 表情は形を取り戻し、一種の決意とも希望とも言える逃げ道を模索しはじめる。その罪は、到底償えるものではない。男一人が償えるだけの罪の量をはるかに超えている。


「オイ、立て。」

どうやら決まったらしい。


 崖の端に追いやられた者は、死という絶望に頭のネジが飛ぶという。この男のネジはいったい何本外れたというのか。自分の死では償うことなど出来ないと分かっていても、未来は輝いて見えていたのか。男は罪を受け入れ、決意を固めていた。


 背筋を伸ばし、牢を出る。刑罰の待つ部屋までの廊下は、思ったより明るく見えた。俺は二人の男に連れられ、台の上に立たされた。

「貴様のしでかした罪、その重さを分かっているな?」

 裁判長が俺を睨みつける。当たり前だ、俺はこの世界のタブーに触れてしまったんだ。

「はい……。」

「楽園の禁断の桃を食した罪は重大である。よって被告人を『地獄行き』の刑に処す。」


 男の決意にげみちは閉ざされた。その一言は、男が背負うには重すぎた。足なんてものはまるで役に立たない、重力は何倍にも膨れ上がり、ひざを地面へと誘導する。


なんだって!?

地獄行きの刑って言ったら、一番厳しい刑罰じゃないか!!

「そ…そんな……。」

「連れて行け」 


 二人の男が俺の両脇に立ち、それぞれ腕を掴む。とてつもなく強い力で、身体を持ち上げられる。


 台の先の床は白とも黒とも言えぬ世界への扉が開く。


爬虫類のように身体をこねくり回しても、二人の男の束縛からは逃れられない。

「嫌だ!!地獄行きだけは!!嫌だ!!」

俺は翼をもがれ、その床の穴に落とされた。

……………………。


 ある一面青白色の一室に赤子の産声が響き渡った。

「お母さん見てください、元気な男の子ですよ。」

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地獄行き 大空ゲンコ @oozora1

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