卑下とボイン

一石楠耳

卑下とボイン

「だいたい僕なんてさあ。見た目が良いわけじゃないんだから、女の子が寄ってくるわけがないよ。お金だって持っていない。これから稼げる様子もない。特別頭がいいわけでもない。どちらかって言えば頭は悪いほうだ。話していたって口から出てくるのは、恨み事や、嫉妬にまみれた言葉か、じゃなきゃあ相手に好かれたいと思って、でまかせで言ってしまったおべっかだ。うまく喋らなきゃと焦った挙句に、相手に失礼なことを言ってしまうことだって、しょっちゅうだもの。そのたびに曇る相手の顔。ああ僕は今、余計なことを言ってしまったんだなって、寝る前に何度も思い出しては頭を抱えることになる。そう、そうなんだよ。そこがやっぱり一番重要なところで。もしかすると僕の容姿を好きだと言ってくれる子がいるかもしれないし、お金はわたしが持ってるから気にしないわ、なんて子もいるかもしれない。頭の悪さも、『バカねえこの人』って彼女が常に優越感に浸れるという点ではチャームポイントになるかもしれないじゃないか。でも、そうなんだよ。僕の一番ダメなところは、マイナスの言葉ばかり喋ってしまって相手も自分も不愉快にさせる。こういう性格なんだ。しかも、そんな自分のダメさを振り返っては、いちいち落ち込む。それでいて問題点を直そうとはしない。そういう性格の根本の部分が良くないんだ。当たり前だ。嫌われるに決まっている。もし、もしもだよ。よしんばこうした僕の性格のダメな部分に気づかずに、僕とお付き合いをしてくれる子がいたとしよう。そんな恐ろしいことがあるだろうか。遠くないうちにメッキは剥がれる。ある日僕はすっかりその子に幻滅されて、一人ぼっちに逆戻りさ。そうだよ、僕はろくでもない人間なんだもの。一人ぼっちがお似合いなんだよ。誰かに優しくして欲しい。そう思うよ。でもそれは僕の自分勝手なエゴでしかない。相手のことを考えずに、僕の気持ちを押し付けているだけ。『僕は良いところなしのクズだけど、君は僕と一緒にいて何ら得することはないだろうけど、それでも僕を癒やしておくれ』。そんな卑しい僕自身を、他人に押し付けようだなんて。ああダメだなあ。振り返れば振り返るほど、僕はなんて醜くて救いようのない人間なんだろう。こんな僕の話を聞いていることはないよ、時間の無駄にしかならないんだからさ。だいたい僕は」


 その時だった。彼女の平手打ちが、僕に飛んできたのは。


「……はは……ごめん。こんな話を聞かされてたら、僕のことを叩きたくもなるよね」

「違う」


 叩かれて赤くなった頬をさする僕。いつの間にか彼女の頬も、ほのかに赤くなっていた。


「わたしが好きな人の悪口、言わないで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

卑下とボイン 一石楠耳 @isikusu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ