第4話

 休日は散歩しながら何をするかを考えるんだけど、今日はトピアが学校の仕事に駆り出されてしまったので、その陣中見舞いに来た。

 あれ? もう終わったのかな?

「アイリス? 何しに来たの?」

「何だかおもしろそうだったから、見に来てみたんだけど」

「それは残念。もう見るものはないわよ」

「そうなんだ。ところで、何の仕事だったの?」

「里に迷い込んだ人の対処。私は、その人の持ち物を調べたり、この里の痕跡を残さないようにしたり。外へ返すかどうかは、今話し合っているみたい」

「ああ、最近増えてるみたいだね。この辺に迷い込んじゃう人たち」

「なんでなのかな?」

「いろいろ考えられるけど、隠れる方法がほぼ一巡したってことじゃないかな?」

「? わからないよ」

「電子ネットワークが星を覆い尽くして、あらゆるものが見渡せるっていう状態の場合、最も見つかりにくいのは電子機器、通信機器をすべて外して山奥に引きこもる。それだけで最早存在しないものと扱われる。そんなわけでこの辺に迷い込む。みたいな?」

「ふぅん…… ところでその知識はどこから?」

「えーと…… 妖精の友達から……」

「里の周辺までしか出ていかない妖精たちが、どうやって電子ネットワークなんてものの存在を知ることが出来るの?」

「えーと…… 人工物に宿った親戚筋の友達からの話を私に伝えてくれて…… あれ? 電子ネットワークって何か分かるの?」

「……とにかく、目立ち過ぎないようにね」

「えへへ。了解です」

 私たちは寮へ向かって歩き出した。さあて、これからどうしようかな。

「ねえ、里の領域を広げて、外の世界との緩衝地帯を設けようって話があるけど。そんなことをしたら私の仕事が大幅に増える気がするんだけど。どう思う?」

「そうかもね。でも、減るかもしれないよ。


そもそも、この辺りの里や集落が出来たのは、いろいろなところから何らかの理由で逃げてきた人たちが住み着いたからだよね。それで、助け合うために知識や技術を総動員して、今の私たちがいるわけだからさ。


逃げてきたっていうより、こっちの方が住みやすいってことで来たもの達もいたみたいだけどね。私たちも隠れているわけだから、お互い様だよね。


保護色っていうものがあるよね。自然の環境で見つかりにくくなる体の色や模様。状況によってそれらを変えることが出来るものもいるし。もしそれらを極めていくようなもの達がいたとしたら、どういうことになるのかなって考えたんだ。


見つかりにくくなるなら、自然の風景そのままに溶け込む。最早自然の一部になってしまう。私たちに見つからないように動くときは、ほんのわずかに。


場合によっては、自分の体を透明にしてしまうものもいるのかも。重さや熱も感じない程の何かになっていたりして。


魔術を使って人を寄せ付けないようにしても、絶対に見つからないなんてことはないと思うんだ。今はあらゆるところから見られているわけだからね。


つまり、私たちが張っている魔術結界だけでは、この里が見つからない理由は不十分で、他にも守ってくれている何者かがいるとしか思えない。そしてその者たちは気まぐれで寛容なんじゃないかな。


それらが私たちを隔離したいと思っているなら、外の世界のことを一切知らせずに、この里だけが世界の全てだと思わせるようにするはず。そして、それは簡単にできるはずだよ。それをせずに、出入り自由で、外からの客人も受け入れる。つまり、外の世界に出て行けって言ってるような気がするんだけどね。


実は外の世界も似たような何かで守られていて、私たちや、まだ知らない何かと会わせようとしていたり、なんてね。


「それが、どうして私の仕事が減るってことになるの?」

「トピアが今やっている仕事を、その緩衝地帯で済ませて、里での仕事を減らそうってことじゃないかな? 里は魔術の秘匿と安定を保てるし、外を見たい人たちは緩衝地帯で仕事をして、里と外の世界とのバランスを見極める。そして、里を守るための知恵を出す。いろいろとスムーズになるかも」

「なるほどね」

「わたしも、緩衝地帯に行こうかな。来年17歳だから仕事を選ぶこともできるわけだし」

「……ところで、最近になって魔術結界に手が加えられたの。外の世界から持ち込まれたモノには強制的に印が付けられるようになってね。私が所属している部署で検査されて検査済みの印に付け替えられる。そこを通っていないものは未検査の印が付いていることになるの」

「……ふうん」

「今日、私はその未検査のモノが無いかどうか里を調べて回ったわ」

「……へえぇ」

「寮の私たちの部屋から見つかったわ。それも大量に」

「私たちに罪を着せようなんて、手の込んだことをするもんだね。その悪戯者は」

「ちょっと!」

「ごめん、ごめん。次は気を付けるからさ」

「次って何よ! 私の仕事を知っててやってるんでしょ! 全然反省して無いじゃない! 悪いと思うならもう――」

 本当に悪いと思っているんだけどね。謝りながら、どうすれば見つからないようにできるか考えちゃうんだよなあ。

 でも、さすがに控えた方がよさそうだね。


(終わり)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Crossroads are not Enough 風祭繍 @rise_and_dive

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る