第3話
今日は、なんだかどっと疲れた。
放課後に歩きながら大あくびをしてしまった。
あ、トピアだ。
「アイリス、今日の授業でのこと、ホプキンス先生が心配してたよ。なんだか変だったって」
「やっぱり、そう見えた?」
「うん。集中が乱れているっていうのかな。私からもなんだか変に見えた」
「外の世界の知識に興味が出ちゃってね、どうにも同じ部分があるように思えてさ」
「でも、畑を耕すことなんてどこでも変わらないでしょう? 作業が捗らないことがどうして外の世界の知識とつながるの?」
「いろいろためしてみたくなっちゃってさ。やってることはあんまり変わらないけど、視点を変えてみたりしていると、ちょっと集中が切れちゃったね。これは私が悪い事だから、今度から気を付けるよ」
「それで、何を考えていたの?」
「作物を作るときには『共鳴の魔術』を使うよね。それの使い方の工夫かな……」
ここの教えを破るつもりはないけどね、ヒントを貰うくらいならいいんじゃないかな。
私たちの認識を整理すると、この世界の構造は、縦横高さの三つの外に、時間の流れを入れた四次元のものっていうことらしい。
例えば、私がトピアに向かって真っすぐ歩くとしよう。こんな風にね。
私は真っすぐ進んだ。でもこれは四次元的に考えるから真っすぐなんだ。私が歩いた軌跡を三次元で表すと、地球の自転と公転の影響でわずかに曲がっていることになる。
なるほど。そんな考えもあるのか、おもしろいなぁ。私はどうしてもそう思っちゃうんだよね。
じゃあ、もしも時間の外にもう一つ要素がある五次元の世界があったらどうなるのか。五次元の状態で真っすぐ進んだ場合、四次元では曲がることになる。三次元ではさらに曲がる。
それってもしかして、私たちが習ってる魔術を使う際の秘術思考のことなんじゃないかな。ほら、例えばだけど、私がトピアに向かって歩こうと考える。その想いは真っすぐだけど、時間によっては考えが変わったりする。足を出す速さも変わるかもしれない。そんなわけで、トピアに向かう、という所は真っすぐだけど、四次元で見た世界では、速くたどり着けたはずの未来と、ちょっと遅かった未来があって、四次元的に曲がっている。もしも過去の事をさかのぼって見ることが出来たら、相当な曲線を描くことになる。
つまり、そのあたりの事を魔術とからめて使いやすくしたのがあの秘術なんじゃないかって思ったのさ。それに近いものがもう一つあったんだよね。
光は真っすぐ進むはずなんだけど、曲がって進むことがあるみたいなんだ。
それは何故かっていうと、光自体は真っすぐ進むんだけど、それが進む空間が曲がっているからなんだって。
この世界のあらゆるものはお互いに引っ張り合っていて、空間もその影響を受けているみたい。そんなわけで、この世界には一つとして同じものは存在せず、あらゆるところでほんの少しずつ違う。沈んだり浮かんだり、それが微妙に違ったりってことじゃないかな?
それで、その際に発生する重力っていうのかな、それも色々なところで違っていて、重力が変化すると、そこに流れる時間も変わる。早くなったり遅くなったり。
そんなわけで、ただでさえいろいろ曲がったり歪んだりしている中で、私たちが動くとさらに何かが動く。それが波として常に出ているっていう話かな。
だからこの世界のあらゆるものは、それぞれが固有の振動を持っている。私たちが時々使う『共鳴の魔術』って、もしかしてこの……
「ストップ! ちょっと待って」
「ん…… ああ、ごめん」
「つまり、一言でいうと何なの?」
「えーと…… どんなものに対しても優しい気持ちでいればいいんじゃないか、ってことかな」
「そう。じゃあ、私に優しくすると思って授業に集中してね」
「はぁい」
返事をした後、またあくびが出てしまった。
今日は早く寝よう。
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