第2話

授業が終わってからは、少し散策することにした。

歩いていると気分が良い。いろいろ余計なものが落ちていってくれるようだ。

寮の部屋に戻ると、トピアからエネルギー補給のお知らせが。

「アイリス。ウィリアムズ先生から伝言が届いてるよ」

「何かな?」

「あなたのこの前のレポートについて話し合いたいって。だからサマラク山まで来てくれって」

「うへぇー……」

「何? そんなにまずい事書いたの?」

「いや、そうじゃなくてね。先生と話せるのは嬉しいんだけどさ、サマラク山ってドラゴンの基準で整備されてるから、すごく広くてさ。先生の部屋までたどり着くのに一苦労なんだよね。」

「でも、何度も行ってるじゃない。乗馬は私の方が上手いけど、アイリスだってちゃんと乗れてるのに」

「いやあ、我が愛馬は、巨獣たちとの相性が悪いようで、麓で待機してもらっているのさ。そこから先は徒歩でね」

「ふぅん…… そこまでして話したいことって何なの?」

「そうだなぁ…… また、長くなりそうだから、厩まで歩きながら話そうか」


私たちと、そのほかのみんな、植物や動物とかさ。それらが今の形であるのは、自らの生命を維持しつつも周りの環境と助け合って生きていくために、お互いに形を調整してきたからだ。っていうのが私たちの教えだよね。


でも、外の世界での説は『進化論』というものがあるらしいんだ。進化論というのは、色々流派があるみたいなんだけど、生命は自分が生き残ることを最優先に考えて自らの体を変化させていく、みたいな感じかな。


それで、進化っていうのは淘汰の歴史である、という事みたいなんだ。ある種の生命が存在したとして、その生命はすべて同じ形じゃない。どこかしら違いを持った多様なものとして存在する。そして、その種を危機的な状況が襲う。環境が変わって食糧不足になったり、天敵になるものが増えたり、みたいなね。


そんなときに、たまたまその状況に適応できる形だったものだけが、どうにか生き残る。そのものが増えて多様性が生まれる。そしてまた危機が襲う。その繰り返し。そんな風に自分が生き残る道を探ってきたんだ、っていう事だったと思う。


その辺りの事をウィリアムズ先生と語り合っていてさ。密かに入手してもらった外の世界のあれこれを見せてもらったり。おっと、怒らないでね。持って帰ってきたりしてないからさ。それで、あれこれ考えた事をこの前のレポートに書いてみたんだ。内容としては、


人間の行為、もしくは人類の存在自体が地球規模でのクライシスを引き起こし、その環境に適合できる生命の進化を促しているのではないか。


そして、私たちの教えも合わせると、地球環境の変化は人類にも及び、人類も周囲と適応しようと努め、自らの行いを変えて行く。つまり、その思考の変化も進化と呼べるのではないか。


そんなところかな。


私たちだって、周りの環境には必要以上に手を出さずに、お互いに出来ることを手の届く範囲で、っていうことを元にしてるし。お互いの学びのためなら、痛みも互いに引き受けようっていう姿勢で魔術を使ってるわけだしね。それに、わずかに許可された外の世界の本に『沈黙の春』っていうのがあるじゃない? あれもさ……


おや、大丈夫かな?


「うーん。わかるようでわからない……」

「私もそんなようなものだからね。ちょうど厩に着いたし、この辺にしておこうか」

「でもなんで、ウィリアムズ先生がそんなことに興味が出るの?」

「先生も、自分たちが恐竜の生き残りの一系統なんじゃないかって思ってたみたいなんだ。もしかしたら、恐竜の前か後にも何かいたのかも、なんて考えもあったみたい」

「ふーん」

「じゃあ、行ってくるね」

 あれ? ちょっと怖がってるかな? わが愛馬よ。

 じゃあ、今日は前よりもうちょっと先に行ってみようか。

 

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