Crossroads are not Enough

風祭繍

第1話

 草むらの中に座りながら色々考えてしまっていたようだ。私の名前を呼ぶ声で現実に舞い戻ってきた。

「アイリス? 起きてるの?」

「起きてるよ。ごめんね、トピア」

 私は、考え事をするとその世界に入り込んでしまい、楽しんだり苦しんだりを繰り返しては我に帰り、何をやっているのだろう、と思う事がしばしばあるのだ。またやっちゃったな……

「ジャネット先生から言われたよ。あなたは、科学的になり過ぎているから、私が時々連れ戻すようにって。ねえ、また科学のこと考えてたの?」

「うん。まあね……。でも、私たちがやってることも十分科学に思えてきたんだけど……」

「魔術が科学に近づき過ぎると良くないことが起きるって、ずっと言われてるじゃない」

「でもさあ、今はほとんど黙認してるようなもんじゃない? 小言を貰うことはあっても罰を受けたことなんて無いし、実際のところ外の世界で暮らしてる人たちもいるわけだしさ」

「私たちが外の世界と良好な関係を保つために、その人たちが働いてくれているんでしょ? だから私たちも…… ちょっと、それ!」

 トピアは私が持っている本に気が付いた。外の世界の本を個人での所有することは禁じられている。管理人に許可を貰い、貸し出してもらう事が原則だ。許可されたタグのついていないこれは、まあその、拝借したものだ。

「ごめん、ごめん。私があんまり多く借りてるもんだから、審査に時間がかかるようになっちゃってね。人目が無いのでつい、ね」

「……まったく。成績はトップなんだから、その辺りを慎んだら先生方ともいい関係になると思うんだけど?」

「どうかなぁ……」

 私はトピアの顔を見て、この本はちゃんと返そう、と決意した。こっそりとだけどね。

「ねえ、今度はどんなこと考えてたの?」

「エネルギーと質量の関係について、かな」

「何それ?」

「語り出すと、多分また長くなってトピアの頭から湯気がでそうだけど、良い?」

「うん。いいよ」

「そうだなぁ……」

 それで、私は語り始めた。


 なんかね、外の世界の法則では、エネルギーは、質量×光速度の二乗である、っていうことになっているらしいの。


 それで、質量が減った場合、その減った分は、何らかのエネルギーとなって出ていくっていうことみたい。エネルギーっていうのは、熱だったり、光だったり、物が動いたり、っていうことでね。


 なんでそれに光の速さが関係しているのかっていうとね、ここから先は私はほとんど分からなかったんだ。だからあんまり真剣に聞かなくてもいいよ。


 光っていうのは電気というものと、磁気というものが合わさって出来た電磁波というもので、なおかつ光というのは一定の速さで直進する。そんなことを合わせて考えていくと、何かを動かした場合、それが動く力と、動かすために必要な力が結局もともとあった力と同じであるということになる。そして動いた後に止まったとしても、それが止まるために必要な力も元から同じ、みたいな。それを簡単に表したものが最初に言ったもの、ということかな。


 それで考えてみたんだけどさあ、光っていうのは私たちが身近に使う火とか、それを使った何かを除くと、光を出しているのって、夜空の星か、太陽くらいじゃない? もしもそれらが無かったら光っていうものは、私たちには見つけられなかったかもしれない。その場合この法則はどうやって表されたのか? なんて考えてさ。


 そこから先は混乱して良く分からなくなったんだよね。まあ、光の無い世界なんて想像できないし、実際私たちの世界は光があるからね。


 それで、ちょっと思ったんだけど、もしも、質量を変えないでエネルギーの量を変えることが出来たなら、それって光の速さを変えることができるってことだよね。

 それが出来たとすると外の世界のいろいろなものの定義が変わってきて、大混乱だよ。でも何だかさっき考えた光が無い場合の表し方と合わせると光っていうものが発生する元を変えればそういうことが起きるんじゃないかって思えてきたんだ。


 もし、そうだとすると、この世には光以外に重要な何かが存在するってことになる。それってさあ、私たちが使ってるあの――


「ごめん! もう無理!」

「あ、そう……。うん、私もごめん」

「やっぱりアイリスは魔術の勉強に集中すべきだわ。そっちに力を使いなさい」

「そうだね。それがいいね。今日はもう帰ろうか」

「ええ、その本を返すところを見届けてからね」

「はぁい」

 しばらくは、おとなしくしていよう。出来るさ。たぶんね。

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