まえがき

私がリンダの伝記を書くことになってからというもの、リンダは私に対して徐々に心を開いているようだ。彼女は最初に会ってから随分と変わったように思う。

彼女があと七ヶ月の命だとはとても信じられない。


さて、リンダはさる貴族、つまりグランウズゥ帝国を代表する名門貴族の娘であること以上のことはこの伝記には書いてはいけないことになっている。

こうなると、あまり書くことがない。なんせ、リンダはまだ十三歳であるにもかかわらず、前も少し書いたように不治の病で死んでしまう運命なのだから。

社交界での伝説もなければ────十六歳になると、貴族の娘は社交界デビューという試練を受けなければならない。また、それより若くしてデビューしようにも、彼女はベッドから離れられなかった────恋愛に関することも、彼女は何もやらなかった。

ただ、ベッドで寝ていただけなのだ。

なんにせよ、今は既に没落寸前の貴族のお屋敷のどこかの片隅に忘れ去られようとしているこの伝記が、この奇妙な書物を読むかもしれない数少ない読者に届く見込みは全く無いに等しいだろう。


リンダは父のローレンス、母のシャルロッテとの間に生まれた。

宇宙暦1342年のことである。知っての通り、宇宙暦というものは諸々の込み入った事情によって二、三年ほどの誤差がある。

これはつまり、かの輝かしい宇宙開拓時代ともいうべき神話の時代に複数の恒星間、あるいは恒星系内帝国が次々と勃興し、各々が各々の「宇宙暦」というものを制定するということが二、三年の間に集中したため、宇宙暦を正確にこれと定めることは政治的な問題が絡むということになる。

このことは宇宙開拓時代の年表を作りにくくし、私のような伝記作家の仕事を少しばかりやりにくくしている。


ここで、この本を読む人のためにここで記述する宇宙暦がどの帝国の宇宙暦なのかを書いておくことにしよう。

リンダの生まれたグランウズゥ帝国領アクアクローム星はある情報筋の資料を参照すると、その昔、旧リングテール帝国領であったのが最も古い記録であるため、旧リングテール帝国における宇宙歴を使用することにする。

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淑女リンダギュエルの半生とその感想 ネッド リヒニー @noqisofon

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