テンプレを超えた丁寧なヤンデレストーリー

良作。
ヤンデレの彼女から毎日のように襲われる主人公が、彼女と正常な恋愛をはぐくもうと試みる恋愛ストーリーである。
主人公とヒロインの描写はすぐれている。特にヒロインの行動は強烈で、読者に十分なインパクトを与えられると感じた。さらに私のものにならないなら死んでもらう、だけではなく、殺しにかかること自体が愛情である、というこれまでのテンプレートとしてのヤンデレを超えた部分が特徴的である。

本作はもちろん徹底したリアル追及路線ではなく、あくまで主人公がヒロインの特徴的な愛情表現を特技の古武術でかわしつつ、お互いの理想的な形に変えていこうとするドタバタのラブコメディである。しかし現実的な話をすれば、こうしたヒロインも他のヤンデレと同様に境界性パーソナリティ障害のパターンに含まれると考えられるし、その原因が多少ではあるが作中に描かれているなど、リアルな背景事情を盛り込んでいるため、作品に厚みが加えられている(実際にヒロインの持つ障害が本作のような要因で生じ、本作のような展開で克服できるかは不明だが、そこはフィクションとして吸収できる範囲のように思えた)。

本作の長所は、主人公とヒロインが至るエンドに納得感があるところにある。アマチュアがやりがちな、単に主人公とヒロインを描写しただけでなんらの展開が無い肩すかしのような作品ではなく、本作は主人公とヒロインの変化がラストにいたるまで段階的に描かれており、そこに至るまでの伏線と回収も丁寧である。

総じて、本作は高い質に至っていると評価したい。しかし一点、読者を決定的に引き込むパワーについては弱さを感じた。上手ではあるが、既存作品の組み合わせで作った作品という印象がある。今後は作者だけが経験してきた他人が持っていない武器で勝負してほしい。それができれば、今後はプロに評価してもらい、プロの世界で勝負することが可能になるのではないかと思う。

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