第93話 最終回(仮) さらば暮田伝衛門、また会う日まで

 我輩は、陽子さんと一緒に地元の商店街を歩いていた。日用品の買い物であり、大事な最終回を迎えるためでもあった。なおもう一人の妻であるエミリアは芸能人のお仕事で、海外ロケにいっていた。なんでも映画に出演するそうな。端役からチャンスを掴むことだってあるからがんばってもらいたい。


「今日でこのお話も一区切りですね」


 珍しく陽子さんがメタ発言をした。黒髪と童顔に活力がない。最終回が悲しいんだろう。


「長かったな。思ったよりも」


 我輩は尻尾を腰に巻いた。ぐったりと垂れ下がっていてはかっこ悪いからだ。せっかくの最終回なんだから、背筋を伸ばして終わりたい。


「長かったですね。出会った当初は暮田さんと結婚するとは思わなかったですよ」


 陽子さんは、ぐぐっと背伸びをした。さきほど買ったばかりのネギ入り買い物袋がメトロノームみたいに揺れた。


「我輩だってまさか地球で家庭を持って暮らすことになるとは思わなかった」


 我輩は通り過ぎていく商店街の人々に挨拶をした。すっかり顔なじみだ。グレーターデーモンの見た目を不思議に思う人は誰も居なくなったし、犬に吠えられることもなくなった。完全に地元に馴染んでいた。


 本屋の前を通過したところで思い出した。


「ああそうそう、作者は暮田伝衛門をコンテストやら賞やらに出してみたいそうだぞ。気晴らしに始めた物語が、思ったより出来がよかったからだそうな」

「そうですか。なら、またみなさんと会える日があるかもしれませんね」

「うむ、前向きに考えておきたいところだな」


 買い物が終わったので、我輩たちは商店街のパン屋に入った。適当なパンを購入するとイートインスペースに座った。最近の家庭内の流行だった。いつもだったらエミリアも一緒なのだが、本日はお仕事なのでしょうがない。


「本当の本当で寂しいですね。せっかく家族が増えて、これからってときなのに」


 陽子さんはため息をつきながら、アンパンを食べた。


「今作者の気持ちを受信したが、なにかきっかけがあれば、続きを書く可能性はあるらしいぞ。あくまで可能性だが、彼も色々忙しいからなぁ」


 我輩はコーヒーをすすった。いつもより苦く感じた。だが舌の上には甘みが残った。もしかしたら未来への希望なのかもしれない。


「なら読者のみなさんと再び会える日まで、長屋のみんなが幸せに暮らせますように」


 陽子さんがゴマ粒のついた手で祈りを捧げた。


「家族が無病息災でありますように」


 我輩も祈った。悪魔がどんな対象に祈ればいいのかわからないが、どこかしらに通じる気がした。


 もし祈った内容が叶うならば、我輩と出会った人々も幸せにしてやってほしい。地球へやってきてきから、いくつもの出会いがあった。みんな良いやつだった。なら我輩は幸運だった。


 この幸運が、世界中に届きますように。


 魔女のおばばから貰った特殊な結婚指輪は幸せに輝いていた。いつまでも、いつまでも。

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我輩は暮田伝衛門(グレーターデーモン)である ~魔界から召喚された魔族の我輩が、いかに活躍し、いかに尊敬されたか(みなさん嘘ですからね。暮田さんは働かないで遊んでばっかりですよby地球人の花江陽子)~ 秋山機竜 @akiryu

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