読了後に、アニメ版ガンダムUCのロニ・ガーベイが呟いた「バナージ。哀しいね」のセリフを思い出しました。
戦国時代。脇役にも脇役なりの思惑があったとは理解しても、具体的なイメージは湧きません。本作品では、主人公順慶が自分の矜持を見付け、時代の奔流の中で矜持を手放さずにいる困難に直面する様が丁寧に描かれています。
明智光秀も、時代劇ドラマに登場する時は神経質そうな人物に描かれることが多いですが、脇役の視点からは魅力的な人物として描写されます。
そんなキャラが他にも登場します。
織田信長も登場するのですが、本作品ではチョイ役で、戦史の脇役が中心となる展開は、サラリーマンの中間管理職をやった経験を持つ方には、感情移入し易いと思います。
目線を変えた戦国ドラマは面白いです。
筒井順慶は、戦国の世に自らの有能さと人徳を遺憾なく発揮しながらも、時代の流れに翻弄され、決して自分の思うようには生きられなかった悲劇の名将です。
筒井城合戦――戦国の大合戦に比べればあまりにどマイナーな戦場から始まる物語。
しかし、登場人物は歴史的にも彩り豊かです。味方のはずなのにやっぱり腹立たしい三好三人衆。敵対するは戦国きっての大悪人松永久秀。二者に挟まれて苦悩する順慶を支えるのは、これまた未来の勇将島左近。まるでそこが大動乱の前哨戦であるかのように、英雄たちが躍動します。そして迫り来る「戦国時代の主役」の影。
戦記モノとして、より物語を動かすことに主軸が向けられており、落ち着いた筆致ながら、堅苦しさはまったくありません。欲しいところをバシバシと導入してくる構成はスピード感を持って時代を進め、困難な状況にも全力を賭し続ける登場人物たちの今後には、歴史として判っていながらもどうなるかハラハラさせられます。
果たしてこの苦悩と苦労の大人物を、作者はどのように切り開き、その胸のうちに迫っていくのか。
質の高さと面白さを保証すると共に、今後に強い期待を寄せずにはいられない一品です。