躾け糸の皇子
八鼓火/七川 琴
第1話 皇子ジラルド‐1
いいですね。あなたは仕付け糸です。
絢爛なドレスの襞や膨らみ、美しい完成品を作るための仮止めに過ぎない。
本縫いの針と糸が追い付いたら引き抜かれ、捨てられる定め。
ですから弱くてもいい。すぐに切れてしまっていい。
けれど本縫いの丈夫な糸が追い付くまでは死ぬ気で布を留めなさい。
本物に先んじる事で正しい道を示しなさい。
たとえその後で
あなたがどうなろうとも。
***
パルトー王国のシャイエ宮には、鍵の掛かる部屋がいくつもあった。高く、広く、長く続く廊下の片側は窓、もう片側には扉が並ぶ。使われていない客間もあれば、倉庫もある。中にはそれらしい用途を与えられず、ここ十年ほど閉じたままの扉も。
しかし、閉じていれば、そのどれも見分けはつかぬ。
日はようやくその姿を見せたばかり。朝の廊下は静まり返っている。外では寒さに身を膨らませた雀達が、すっかり緑の抜けた芝生の上で何かを啄ばんでいた。
シャイエ宮は国政の場であると同時に、パルトーの王族と彼らに仕える家臣達の居住区も兼ねている。王都ゼッテンの中にあるもう一つの都市と言っても過言ではない。平素は城下の市場のように人々が行きかい、蹄の音の絶えない場所だ。
しかし今、この奥まった一角でその活気を感じることは難しい。
その閉ざされた部屋のうちの、一つ。
部屋にはいくつもの衝立とワードローブが乱立し、その上に使わないーツやオーガンジィ、埃をかぶったドレスが蜘蛛の巣のように張り巡らされ、まるで迷路のようだ。そのせいか、高い天井とそれに見合った大きな窓があるにも関わらず、部屋は朝の光を浴びてなお薄暗い。
静かで暗い部屋の中の窓から最も遠い場所、その隅で、角をさらに衝立で仕切った中に、二人の女が狭そうに身を寄せ合っていた。
一人は黒髪の若い娘。
白い肌にうっすらと鳥肌を立て、肩を剥き出し、壁に手を突いている。
もう一人は豪奢なドレスを纏った銀髪の貴婦人。
彼女は黒髪の娘の背後に立っている。娘にコルセットを着付けようとしているのだ。貴婦人は手綱を握るよりも無造作に、革紐を引き絞る。愛の無い手付きであった。
「……はっ」
娘の口から苦しげな白い息が吐き出され、部屋に溶けた。
「我慢なさい!」
「は……い」
押し殺した声は低く掠れている。
壁に手を突いたまま、娘はさらなる苦痛に対して備えるべく俯いた。艶やかな黒い髪が鍛え上げられた肩を流れ落ちて行く。胸の苦しさに耐えんがために、娘が拳を握ると、ぎしりと音を立てて、二の腕に筋が浮いた。剣を握って闘うに耐える強靭な腕である。もしも誰かが娘の胸元を覗き込んだなら、彼女の鎖骨の内側があまりに深く抉れている事に驚きを禁じえないであろう。痛々しいほどに削ぎ落とされた身体は火かき棒のよう。上背もある。女性用の衝立では娘を頭の先まで隠す事が出来ないほどだ。
奇妙な装いの娘であった。
背後の貴婦人が豪奢なレースのドレスに身を包んでいるのに対して、上半身は裸にコルセットを付けたのみ、下半身は男物の黒い下穿きを腰骨にようやく引っ掛けるようにして身に付け、軍人のような皮のブーツを履いている。娘が身じろぎすると、紅いビロードの絨毯の上で、無骨な軍靴が重そうな音を立てた。
やはり全て男物である。
貴婦人が苦労して締め上げている、そのコルセットにしても妙な具合だ。本来ならば、女らしい体の線を強調するために作られているはずのそれは、唯一、娘が女であると主張している胸の膨らみ――それでも慎ましやかな部類ではあるのだが――を押し潰している。
「また、きつくなりましたね」
貴婦人が囁く。鈴の音よりも透き通り、夜のごとく深い声であった。
貴婦人がコルセットの紐から手を放すと、繊細な白いレースが真珠色の指先を滑り落ちて舞う。彼女の手はそのレースよりもさらに白く滑らかで、ささくれでレースを解れさせる心配など馬鹿らしくすら思えた。細い銀色の眉はなだらかなまま、女の心内をちらりとも覗かせぬ。
この貴婦人、名をマルギル・デヴェロッサという。
パルトーの王妃である。
彼女は古い貴族の家に生まれたが、物心付いた頃には、すでに値打ちある物はその家柄と、そして彼女の類稀な美貌のみという有様。パルトー王ドラトに見初められ、若くして妃となったのが今から十八年前の事だ。三十をいくつも超えた今も、その容色は衰えを知らない。豊かな銀髪を掻き上げて嘆息する様は妖艶の一言に尽きる。
「私の手が擦り切れてしまいそうだわ。……これではもう誤魔化せないかもしれません」
「申し訳ありません」
先ほどまで胸を潰されて呻いていた娘は、はっと王妃を振り返った。
黒髪が、散る。
見開かれた瞳は、陽光に透かした木綿のシーツの琥珀色。漆黒の長い前髪が落ちかかり、闇を照らすランプのごとく輝く。彼女は今、目鼻立ちのくっきりした面差しにそぐわぬ、弱々しい表情を浮かべていた。不安に蒼褪め、王妃に縋りつかんばかりだ。しかしそんな娘の様子に、王妃はうっすらと目を細め、繊手をおのが唇に滑らせた。
「急に振り向かないで頂戴。髪が口に入りました。紅が落ちてしまう」
「……ご無礼を……」
王妃の凍てつく白金の瞳に下から射すくめられ、娘は努めてゆっくりと壁の方へと顔を戻す。娘は控えめに言い差した。
「……今日から、食べる量を減らします」
「いけません」
即座に返す王妃の声は硬い。紅の色もごく薄いせいか、霜の下りた百合の花のような顔の中で、血の気を窺わせるは、ほんのり色付いた瞼のみ。間近で目を凝らせば、彼女の切れ長な目の上に、思わず舐め取ってしまいたくなるような、血管の精緻な網目模様のある事が分るはずである。しかし今は、その艶やかな菫色も苛立ちを湛えて、ただ冷たい。
「忘れたのですか? 昨日のような失態は二度と許しません。バルゼイに心配をかけるなんて……また倒れられたら堪らない。貴女でなければならない仕事など何も無いのだから、コルセットがきついのなら、大人しく部屋に帰って休んでいなさい」
――貴女でなければならない仕事など何も無い――娘は僅かに眼を見開き、肩を震わせた。だが、努めてそれを隠し、静かに目を閉じ頷いた。
「……仰せのままに」
王妃は先ほどと、まるで変わらぬ口調で続ける。
「それから、勘違いをしているようですね。太っている事が問題なのではありません。一番困るのは女の形をした腰の骨。こればかりはどうしようもない」
「はい」
「まあ、いいでしょう……」
「え……?」
ふいに力を抜いた王妃を娘は訝った。だが、王妃は再びコルセットが締め上げる事でその先を封じた。
「……ぅっ」
「さあ、お喋りは終りです。息を吐きなさい」
「はい……っ」
王妃の爪は娘の痩せた背中に食い込んで、珊瑚のような蚯蚓腫れを刻んだ。
「近いうちに新しい物を届けさせます」
ほどなくして王妃はそう言い残し、部屋を出て行った。
一人残された娘は淡々と着替えを再開する。きついコルセットは、相変わらず彼女の骨ばった身体を締め上げているはずだが、それを全く悟らせぬ、典雅な身のこなしであった。苦痛に慣れ親しんだ者だけが持ち得る、ある種の美。コルセットの上に鎖帷子を、鎖帷子の上に白い男物のシャツを、そして上着を羽織る。姿見の前へ移動して、少々癖のある艶やかな黒髪を一つにくくり、首元を覆うように襟を立て、ブーツの紐を締め直す。
そうしてしまうと、彼女は貴族の略装を纏った若い男としか見えない。
自分の姿を一瞥し、彼女は目頭を指で揉んだ。よく見れば頬はやつれ、目の下にはうっすらと隈が出来ている。眉間に皺を刻んだまま、彼女は鏡の隣へ立て掛けてあった刀剣の柄を取った。若干細身ではあるが、ずっしりと重い鈍色。それを片手で軽々と持ち上げ、脇へ差す。そして彼女は突然一歩下がり、間を取った。
構え、一閃する。
途端、爆ぜ散るような光が彼女の琥珀色の瞳に宿る。手に馴染む感触は彼女に力を与えた。一つ息を吐くと、気配を伺いながら慎重に扉の閂を外す。外へ踏み出す彼女の顔からは、先ほどまでの気弱さは消え失せており、自戒に張り詰めた険しさがあるばかりだ。
彼女のかつての名はジル・デスティモナ、故あって今はジラルドと呼ばれている。
ジラルド・パルトー、この国の第一皇子の名であった。
――昨夜はまさか雪でも降ったのだろうか。
ジラルドは黒髪をなびかせて、大理石の廊下を足早に抜けながら、中庭へ通じる窓を見遣った。雪が降ったとするならば、大陸の西の海岸沿いに位置するここ王都ゼッテンでは珍しい事だった。南からの海流と海から吹く風のために、パルトー王国はその広大な領地の大半が温暖な気候に恵まれている。王都ゼッテンは政治の中枢というばかりでなく、冬でも凍らぬ港としても栄えていた。
しかし、今日は特別に冷える。
すれ違う給仕達の口から、しきりと寒さをぼやく声が聞かれた。そんな中、若い女官達は寒さをものともせず、第一皇子にはちきれんばかりの笑顔を向ける。
「おはようございます。ジラルド殿下」
「おはよう」
応えるジラルドは、やっと十八になったばかりとはとても思えぬような、落ち着いた声音。思慮深げな表情。王妃に対するものとは別の、第一皇子の顔であった。
「おはようございます!」
「ああ、おはよう」
秘密を抱える緊張感のためか、ジラルドが他人に表情を見せる事は少ない。そのジラルドも女官達のあけすけな好意には勝てないようだ。穏やかな笑顔で一つ一つ律儀に応えていく姿には、はにかみが見て取れた。皇子の丁寧な応えに、女官達は頬を上気させ、笑いさざめきながら通り過ぎて行く。その様子にジラルドは寒さが和らぐような気さえした。ジラルドにとって、若い女性の華やかさは賞賛と憧憬の対象である。
眩しく、
そして少し、羨ましい。
「ジラルド」
そこへ地を這うような低い声が、ジラルドを引き止めた。
腹を空かせた猛虎の息吹を耳元で感じたとするならば、このような気分になるかもしれぬ。危険であるがゆえに、一層蠱惑的な声色は、聞く者の足を止めずにはおかない。
振り向く先には若い男が立っている。
ジラルドよりもさらに頭一つ分は大きい。胸板は痩せたジラルドの二倍はあるに違いない、巨漢と言って差し支えないだろう。見事な金髪を傭兵の様に短く刈り込み、均整の取れた身体は硬くしなやか、鋼と絹を溶け合わせたごとく。簡素な服に身を包んでいるが、滲み出る覇気のような何か――端的に言えば尊大さである――は隠しようも無い。
男は音もなくジラルドへ近付く。
横顔へ注いでいた朝の光を、男の広い背に遮られ、ジラルドは辺りが急に暗くなったように感じた。
彼の名はバルゼイ・パルトー、パルトー王国の第二皇子である。
「おはよう、バルゼイ」
バルゼイと向き合って、ジラルドは心なしか胸を張ったようであった。背筋を伸ばし、硬質な光を放つ琥珀色の瞳でバルゼイを見据える。鶴の威嚇のように。
「昨日はすまなかったな」
ジラルドの謝罪をまるきり無視して、バルゼイは兄を見下ろし、口の端を吊り上げた。
「寝坊助のお前にしちゃ早いな。もうお目覚めか?」
兄を敬うような態度はどこにも見当たらない。造作そのものは王妃と非常に良く似て冷たく整った顔に、一歩間違えれば下品にも見えるような嘲笑を浮かべている。弟の剣呑な視線を受けて、ジラルドは目を細めた。
「挨拶ぐらいは返して欲しいものだな。我が弟」
「挨拶よりも先に俺に何か言う事があるだろう。兄上」
「だから、昨日はすまなかったと……」
「そうか、誰もお前に、昨日のお前の醜態を話さなかったのか。城の者達は皆、兄上に甘い」
バルゼイは鼻で笑った。
「……何の話だ」
ジラルドはこの弟と並ぶと、まるで針金のように頼りなく見える。ジラルドは袖の中でぐっと手を握り締め、自分よりも大きな弟を、きっと見返した。弟の方はと言えば、兄の視線にえもいわれぬ疼きを感じたようである。
だが、バルゼイは努めてそれを隠した。
「何の話? ……はっ」
彼は大仰に、長い腕を広げ……
「……っ!」
……肩をすくめただけであった。
やられた――ジラルドは、恥辱に奥歯を噛む。つい、身構えようとしてしまったのである。バルゼイはジラルドを見下したまま、わざとらしく嘆き悲しんで見せた。
「ご挨拶だな。昨日俺と一緒に遠乗りに出掛けて、厩で倒れたお前を、部屋まで運んでやったってのに」
それを聞いて思わず息を呑んだジラルドに、バルゼイは今度こそ笑み崩れる。舌なめずりでもしそうな邪な笑顔だ。
「蒼い顔をしたお前を、たおやかな姫君にするように、大事に大事に抱き上げて……な」
「……運んだのか? お前が? 私を?」
「そうだ。少しぐらい感謝してもらっても罰は当たらないだろう?」
そしてバルゼイは、ジラルドに覆い被さるようにして屈み込んだ。
巌のような弟にそうされると、ジラルドは賑やかな宮廷から隔絶されたも同然。視界には、弟の愉悦に翳った面のみ。逆光の暗さの中で、バルゼイの青い目だけが爛々と光っている。
バルゼイはジラルドの耳元に唇を寄せ、睦言のように囁いた。
「ぐったりと俺にもたれかかっていたぞ。あの程度の馬遊びで顎を出したのか。青瓢箪め。ジラルド皇子とあろうものが情けない。若い女中達があの姿を見たらどう思っただろうな。ちゃんと食っているのか? お前、男とは思えぬくらいに軽かったぞ」
語尾は低く、笑いに掠れた。
聞いたジラルドの琥珀色の瞳がすっと細くなる。男たらんとするジラルドのなすべき事は唯一つ。辱めをそのままにしてはおけない。
「……運んでくれた事には礼を言う」
ジラルドは抑えた声音で一気に吐き捨てた。
「お前に抱きかかえてもらえるなら、いくら積んでも構わんというお嬢さんが城下には山ほど居るそうだな。涙に咽んでありがたがってやれば満足か。言い触らしたければ好きにしろ。噂好きの女子供のようにきゃらきゃらと囀るがいい。それとも私から金を取りたいのか? 面白い。言い値を払ってやろうじゃないか。私は男娼の相場なんぞ知らんからな」
ジラルドはふんっと顎先を反らし、目を眇め、至近のバルゼイを睨みつけた。しかしバルゼイは、ジラルドのきつい視線を受けても、顔を離そうとしない。むしろそれを味わうように、にんまりと目を細めた。
「男娼ときたか。兄上の口からそんな言葉が聞けるとは……」
もちろん、彼とて侮辱の仕返しとして兄が金銭を持ち出した事は分かっている。分った上で、バルゼイはにやりと笑った。
「なに、金子などいらない。兄上の頼みとあらば、お安い御用だ。なんなら今この場で、担ぎ上げてやろうか? 寝所までお連れしよう、兄上」
「大変申し訳ないが私にその気はない。男芸者の真似事をしたいなら他を当たれ」
バルセイが何か言い返そうとしたその時、間抜けな音が響いた。
「……」
ジラルドは驚いて目をぱちくりとさせた。その瞬間に先程までの緊張感は消え失せていた。兄はすぐに人の悪い笑みを湛えて、弟を下から覗き込む。
「『ちゃんと食っているのか』か。言ってくれる」
「う……うるさい」
盛大な腹の音を聞かれてしまったバルゼイは、決まり悪そうに目を逸らした。
「ふん……ちゃんと食ったほうが良さそうなのはお前の方みたいだな。そんなでかいなりをして、まだ育つ気か?」
「ぐ……」
「妙に突っかかってくると思ったら、お前、腹が減っていたのか。ならそう言え。面倒な奴だ」
「違う!」
「何が違う。まあ、いい。私も朝食はまだなんだ。一緒に行こう」
破顔一笑、歩き出すジラルドの後ろで、バルゼイは兄の背に向かって何か言いたげに口を開いた。が、溜め息を吐くと、苛立たしげに麦わら色の頭を掻きながら、結局は兄の後を追って歩き出す。
ジラルドは隣に追いついて来た弟の肩が湿っているのに気付いた。
「随分汗を掻いているな。背中が濡れているぞ」
「あ、ああ。走って来たからな」
バルゼイは身体を鍛えるため、毎朝、兵舎の方まで走る事を習いとしていた。
「そんなに薄着で汗を掻いたまま居たら風邪を引く。待っていてやるから、上着を着ろ」
「いらん、平気だ」
「そう言ってお前は昔、よく風邪をこじらせていたじゃないか。許さんぞ。今日は格別に寒い」
「小さい頃の話だろ! ここ二三年、俺は風邪なんか引いていないだろうが!」
バルゼイは兄を上から怒鳴りつける。しかし兄の方はどこ吹く風だ。
「そう言っている奴ほど真っ先に風邪を引いて皆に感染してくれるんだ。おい、頼むぞ。遊び呆けているお前と違って、城のみなさんは民のために身を粉にして働いてらっしゃる。彼らが寝込むと私が困る。そんな事になってみろ、お前が嫌がっていたノルドのピオーネ姫のお相手、二度と代わってやらんからな」
ここゼッテンが西の要であるならば、モロブ山脈を隔ててさらに東、海岸沿いに位置するノルド皇国は、ラスケー大洋への玄関口である。 パルトーの有力貴族であるカスパーザ公爵家はノルドに取り入って、モロブ山脈から採れた鉱物をノルドへ安く払い下げるのと引き換えに、他国へ鉱物を輸出する際にノルドの港をただ同然で使っているのだ。
当然、両国には親しい国交があった。
ノルド王が息女、ピオーネ姫は現在ゼッテン大学へ留学中である。そこに両王家の交流を深めようという狙いがある事は疑いようがない。ピオーネ姫がバルゼイを一目見るなり気に入って、何かと理由をつけてシャイエ宮を訪れるようになったのは有名な話だ。
そしてバルゼイが姫から逃げ回っている事も。
「何だそれは! それに、俺は遊んでいるわけじゃない!」
さすがのバルゼイにもこの脅しは効いたようだ。冗談ではないと顔を蒼くする。
「つべこべ抜かすな。丁度お前の部屋の近くまで来たんだ。面倒がる事も無いだろ。我がまま言わずに早く上着を取って来い。私だって腹が減っているんだ」
「くそ……待ってろ」
忌々しそうに舌打ちしながらも、バルゼイは自室に入って行った。
今日もシャイエ宮は平穏である。だが、真冬の日差しは鋭く照らすが影も長い。波乱の種が爛熟の澱みを吸って育ち始めている事に、まだ気付く者は少なかった。
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