第19話 駄女神決定ですか

「で、どうすんだいサトさん」


シノが問いかける。

憮然とした表情で佐藤が答える。


「正直、こんな依頼は受けられない。

でも受けないわけにはいかないだろう」


ここで皆の顔を見渡す佐藤。

特に意見などがあがらないのを見て続ける。


「現在、俺達は武器弾薬、日常品の補給をなぜか使えるDATのゲーム内コマンドで得る事ができる。

しかし、俺達の使えるゲーム内通貨、クレジットには限りがある。

いずれ使い切るのは明らかだ。

その事を考えればこの駄女神から報酬として貰う事は必須だろう」


ここで高久が手を挙げる。

佐藤が肯くと話しだす高久。


「駄女神決定ですか」


肯く佐藤。


「どう考えても駄女神だろう。

メールの内容が依頼の体を成していない。

助けて下さいだけでは達成目標が判断できん。

これでは戦術の選択はおろか交戦規定の設定も出来ん。

幼児の泣き言と同じだ。

具体的に何をして欲しいかが伝わらなければ助けてなんて貰えるかよ」


佐藤の言葉に肯く皆であった。

そこで先を続ける佐藤。


「とは言え、背に腹は変えられんのは事実だ。

世知辛いが金が無ければ生きてはいけん。

そこでこの依頼は受けざるを得ない。

ここまではいいか、皆」


各々が肯くのを確認する佐藤。


「しかし、異世界でもお金が全てか。

ファンタジーなのに夢がないねえ」


元がぼやく。


「人はパンのみに生きるにあらず。

されどパンが無ければ生きてはゆけず。

ファンタジーな世界であっても現実は現実って事だね」


努が元のぼやきに応えて言った。


「しかしだ、現状では依頼の具体的達成目標等が不明な為、出来る事が限られる。

そこで、メールに有った代理人だ。

これに接触して依頼内容を詰めたいと思う。

ここまでで質問はあるか?」


佐藤が言う。

高久が手を挙げて発言する。


「別に助けてって言うんだから助ければいいんじゃないかな。

要は帝国軍を撤退に追い込めばいいんじゃないですか。

敵の指揮官は知将として有名なんでしょ。

今後の作戦展開に支障が出る程度の損害、例えば2、3割程度の損害が出れば退却すんじゃないですか」


「近代的軍事の常識なら半数で全滅判定。

2、3割もやられたら問答無用で退却だな、確かに。

高久は『ジパング』って漫画かアニメを見てるか」


首を振る高久に続ける佐藤。


「イージス艦が太平洋戦争にタイムスリップするという内容の作品だ。

その中にこんな展開があった。

イージス艦の能力で米軍航空部隊の半数を撃墜した。

当然自衛官達は全滅判定で米軍部隊は退却すると思った。

しかし、米軍航空部隊は退却せず、その内1機が特攻を仕掛けて艦がダメージを負ってしまうというものがあった。

すこし前まで全滅するまで、それこそ最後の一兵までなんてのは普通にあったんだよ。

この世界の軍隊がそうじゃないと考える方が難しい」


佐藤が言葉を止め皆を見渡す。

そして更に話を続ける。


「それに、スカイハウンドからの映像を見ると明らかに補給物資が少ない。

大規模な侵攻作戦のわりに飼葉や食料と見られる荷馬車などが少ない。

現地調達も考えているにしても物資運搬の部隊が全体の1割にも満たないのはおかしい。

これは俺の推測だが、奇襲作戦を成功させる為、足の遅い物資運搬部隊を置いて最低限の物資をもった攻撃部隊を先行させたと考えられる。

現状は移動の休憩だけではなく、後続の補給部隊との合流の為の時間をも兼ねていると思われる。

その部隊と合流した全体の2割を死傷させる。

いくら最新兵器で武装しているとはいえかなりの無理ゲーだろう。

そこで代理人と現状を話し合い、依頼の達成目標を交渉する必要がある。

ここまでで質問は有るか?

なければ戦闘準備と戦術の立案開始だ」


質問はでなかった。


「ローンレンジャーHC(ヘッドコマンダー)よりスカイハウンド。

まだ生きてるか」


「こちらスカイハウンド、生きてますよ。

まったく、よってたかって大勢で、イジメかっこ悪いっての」


大西の声にはまだ気力が尽きていないハリがあった。


「とりあえず駄女神の依頼を受ける。

手始めにペガサスを撃墜しろ。

繰り返す、ペガサスを撃墜しろ。

もう逃げなくていいぞ、生き残る最善を尽くせ」


「了解しました。

当然、敵の目になるこいつらは全滅が目標ですね」


「ああ。

こちらの動きを発見されては困る。

できるようなら全滅させろ。

すまんが頼む」


「了解です。

さあ、反撃開始といきますか。

コマンド、セティングMAP、VMAX、マーク。

コマンド、ミュージックファイルVM01再生、マーク」


大西の音声コマンドの後すぐに


「あたしの歌を聞けー」


という女性のセリフの後、軽快な音楽が流れ出す。

そして、自動タイマースイッチで無線がのスイッチが切られた。


「あいつはどこのダグ・マスターズだ」


佐藤が額に手を当ててぼやく。


「まあ、元気一杯って事で良しとしない」


と元。


「マサくん、ダグ・マスターズってだれ?」


木綿子が聞く


「『アイアン・イーグル』って昔の映画の主人公だよ。

空中戦に入る時、ポータブルカセットプレイヤーでロックをかけるんだよ」


「カセットっていつの時代よ」


「F16が最新鋭だった頃の映画だ。

なぜファイティングファルコンでアイアンイーグルなのか疑問だけどな」


更に言うとこの主人公、パート2の冒頭で撃墜されてしまい死んだ事にされてしまう。

それだけでも悲惨だが、実は生存して捕虜となっていて、そのトラウマからパート4ではすさんだ生活を送っている。


「でも音楽でノリノリに飛行ってんならハヤテ・インメルマンというのもあるぞ」


とシノが言う。


「あいつがそんなガラか?」


一同、7・3分けに銀縁眼鏡をかけ、ローンレンジャーの博士君の呼び名にぴったりの大西の容姿を浮べて首を振った。

ちなみに大西がこの会話を聞いていたらこう言っただろう。


「ダグ・マスターズというよりゲン・トドロキです」


ゲン・トドロキはWRC(世界ラリー選手権)を舞台にした漫画の主人公である。

彼はラリーカーにコンポを積んでレース中に音楽をかけているのだ。

始めは相棒の黒人少年も呆れていたが、かかっている曲で経過時間を計りペース配分を行っているの事を理解すると、自分の選んだロックをかける様に要求したりするようになった。

実は大西もこれなのだ。

フライ・バイ・ワイヤーと呼ばれる電子制御でスカイハウンドは制御されている。

パイロットの操作に対しコンピュターが各部の最適な状態を演算して制御している。

その一連のセティングをMAPと呼ぶのである。

ノーマルのスカイハウンドには二つのMAPが存在する。

燃費優先の『エコノミー』。

性能(エンジン出力)優先の『ミリタリー』。

そして、改造によって追加されたのが『VMAX』である。

ターボチャージャーのブースト圧で見ると、『エコノミー』では最大1.0Kまでだがミリタリーでは1.4Kまで上がる。

『VMAX』では1.6Kまで上がる。

当然、ただのセティング変更だけで済むわけも無くエンジンに関してはシリンダーブロックとヘッド以外は強化パーツに変更されている。

つまり、相当の改造費がかかっているのだ。

それでも、ゲーム内では時間制限があった。

15分以上『VMAX』の設定で全開飛行を行った場合、エンジンのどこかが必ず故障する仕様となっていた。

その為、運営曰く


「全ての『VMAX』の改造エンジンは10分以上回せば一定の確率で耐久値が減ります。

なのでギャンブルが嫌いなプレイヤーは10分以上回さないで下さい。

分の悪い賭けは嫌いじゃないというパイロットの方は止めませんが(笑)」


と公式にコメントを出していた。

大西のかけた音楽ファイルには2つの曲が入っている。

この2曲が終わると約9分なのだ。

つまり、2曲のかかっている間空中戦を行い、曲が終わったら残り1分で出来る限り戦場を離脱。

冷却飛行を行ってから再度空中戦に挑むという考えなのだ。

さすがに現実で横に景子を乗せている以上、大西も真剣なのだ。

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咽たいのに咽れない僕たち 三色アイス @hiro0024

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