第3話 実録! 金遣いの荒い女

 勉強バカの玖月がバイトをしているのを目撃した翌日。

「ねみい」

 朝は苦手だ。

 電車で二駅。ちょいと離れた私立高校。

 オレが通っている吹溜<<ふきだま>>高校には変な奴が多い。

 そう、たとえば……。

 あいつみたいな。

 見れば前方には、神輿めいたド派手な装飾のやつに悠々と座ってくつろいでいる一人の少女。

 そして、それを支える数十人の男たち……。


「キリキリ走りなさいよ」

「押忍!!」

「『かしこまりましたご主人様』でしょ」

「かしご主~!」

「略してんじゃない。金をもらったんだからその分ちゃんとキリキリ働けっての!」

 立ち上がり、キーキーと喚いている少女。

「きぃっちりやんないとお金なんて一円も出さないってわかってる?」

 手に持った木刀で、ちくちくと下にいる男たちを攻撃する。

 

「……またやってるよ」

 眠気がはじけ飛んだ。相変わらず頭のネジが飛んだやつだ。

 関り合いになりたくないため、端の方へそそくさと移動する。

 しかし、それは叶わなかった。

 後頭部を打つ、激しい痛み。

 地面に落ちる、木刀。

 反射的にそれを投げた奴に視線を向ける。

「恵野ォ……!」

「何よそのナマイキな目。気に食わない。さっさとアンタも手伝いなさいよ」

 なんつーやつだ。人を呼び止めるためだけに、木刀を投げるかふつう?

「いつも言ってんだろ、断る」

「報酬は弾むのに。こいつらの百倍出してやってもいい」

 それは不公平だ。なぜこいつにだけ。という下々の声がうるさいが無視する。

「金さえ出せば、誰でも自分の言うことなんでも聞くっていう、オマエのその腐れた支配者気取りの思い込みが気に食わないんだよ」

 他のやつ差し置いてオレだけおいしい思いができるってのは、こういうシチュでなければ魅力的なのだが。

 むすっと頬を膨らませて、眉をひくつかせる恵野。

 予備の木刀を拾い上げて両手に持ち、鞘同士をこすりあわせている。

「……何よ! わざわざあんたの通学する時間をこいつらに五千万で調べさせて出てきてやったっていうのに!! 許せない許さない! うぅ~……!」

 なんなのその執着。こわい。

 こいつに出くわすたびに登校する時間をずらしても、すぐにまた出くわすのはそれが理由だったのかよ。

 ……ん? 目にうっすらと涙を浮かべているじゃないか。

 大方前の時と同じようにオレの一瞬瞬きする隙をついて目薬を差したんだろう。その手にはもう騙されない。

「じゃあお先」

 全速力で走り、この場から立ち去る!

「待ちなさいよ! 一千万円あげるから!」

 待つか! 金だけよこせ! 

「ほらアンタたちもっとキリキリ急ぎなさいよ!」

 男たちを木刀でちくちく攻撃する恵野の様子が、後ろを振り返るまでもなく頭のなかに浮かんでくるのだった……。

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”クズ”たちは傷口を抉り合う バブる @bubbleburyu

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