おんなじ

蜜缶(みかん)

おんなじ(完)

「………」

「………」

「あ、そっちじゃなくてこっちだろ」

「うあ、マジだ!最悪!死んだー!」


朗がその場の後ろにごろんと寝転がると、手に持っていたスマホの画面には大きくLOSEの文字が浮かんでいた。

「あーあ。あそこ間違えなきゃ勝ってたのに」

「えー、まじでー?…じゃあもっかいやる!」

そう言ってむくりと起き上がると、朗はまたスマホのゲームを開始した。



このゲームは、オレが最近朗に教えたものだ。

オレは半年くらい前から始めていて既にレベル120を超えているが、朗は始めたばかりのためまだレベル17。

それでもこのゲームを楽しんでくれて続けたい気持ちはあるらしく、「一緒のギルド入れて―」と言われたのだが、オレのギルドは皆レベル100越えの強者たちだけのため、入れるようになるよう朗のレベル上げに必死になっている。


だから今オレはゲームせずに朗にレベルを効率よく上げれるクエストやそこでの敵の倒し方を教えているのだが、オレには瞬殺な敵でもレベルの低い朗にとっては強敵ばかりで、一歩間違えばすぐにやられてしまう。


「………」

「………」


真剣にゲームに取り組む朗の横から、教えようとスマホの画面を覗きみるが…オレはどうしても画面じゃなくて、別のものに目がいってしまった。


…それは、朗の唇。


朗はどうもゲームに夢中になると、唇をとんがらせて、キスをねだってるような顔になるのだ。

今までそんな癖があることを全然知らなくて…最近一緒にゲームをやるようになって気づいたのだが、見る度に毎回こうなのだ。


(お前なんなの?…オレを試してんの…?!)


と、密かに朗に恋心を抱いてるオレは常に悶々としながらもそこに釘付けになってしまう。

もしやオレの気持ちがバレてんのか…?いや、そんなハズはない。

そんな風に不安やドキドキや我慢しなければという気持ちが色々と混ざり合って、2人でゲームできるのは嬉しいけど、正直複雑だ。




「よっしゃー!やっとレベル50-!疲れたーー!」

「お疲れー」

ひと段落した朗は、またごろんと横になった。

最初のうちは次のレベルに必要な経験値が少なくてレベルが上がりやすいが、それでも数時間で一気にレベル30以上も上げたのは凄い。

…その間ずっと唇がキスを待ってるようだったのも凄いと思ったのは内緒だ。



「…次、史もやったら?」

「あー、そうだな」

ふぅとため息を吐きながら朗に声を掛けられ、そろそろ自分のAPが回復したころだと思い出し、スマホを取り出しゲームを立ち上げる。

案の定APが回復していたので、そのままイベント画面へと進み、強敵のボス戦を選択する。

(この敵、ソロでも倒せるけど倒すのに結構時間がかかるんだよな)

応援を呼べばすぐに倒せるだろうが、倒した時に得られる経験値や良いアイテムが減る可能性があり、自分で倒せば貰えるものが多くなる分、倒すのに時間がかかるのだ。

…まぁ、かかるといっても8分程度だが。


ちらりと横目で朗を見るとまだごろんと寝転がったままだったので、8分くらいはそのまま休憩してるだろうと思い、スタートボタンを押した。

すると朗がタイミングよくむくりと起き上がり、オレの画面をのぞき込んできた。


「え、その敵ソロでいくの?すげー」

「まぁな。ちょい時間かかるけど」

スキルを選択しバフとデバフをかけて、敵の大技にはしっかり防御を合わせる。

時間はかかるが、それさえ守っていればHPを半分以上残した状態で余裕で倒すことができる。

攻撃して攻撃されてを繰り返し、敵のHPをじわじわと減らして、最後のトドメに大技のボタンを押す。

よし、倒せた!…と思ったその瞬間、ずっと横にあった朗の顔がスッと近づいてきた。



そして唇が触れて、ちゅ…と音をたてて離れていった。



「……え…何?お前、何してんの…?!」


突然のことに喜びよりも驚きが強く、ガバっと距離を取りながら朗を見ると、朗は困惑したような顔をしながら頭をぽりぽりと掻いていた。


「いや、だってさ…お前いつもゲームしてる時ずっとこんな口してんだぜ?キスしたくもなるだろ…」

そう言いながら、朗は唇を尖らせた。


(え、マジで…!)


それは朗がゲームをする時にする顔じゃないか…!

まさかオレが朗と同じような行動をしていたとは…

信じられずにぽかんと固まっていると、朗は


「いや、オレもさ、いつも我慢してたんだよ?…でもさ、好きなヤツに毎回そんなんされたらさー…つい…」

そう情けなく笑った。


(好きって…朗が、オレを…?)

嘘だろ?マジで…?

まさか癖だけじゃなくて、気持ちまでも同じだったとは…

じわじわと実感するのに合わせて顔に熱が集まる。

…そんなオレを他所に


「…まぁ、ごめん。…オレももっかいゲームやろっかなー…」

そう言って気まずそうな顔のまま誤魔化すようにゲームを始めた朗に、仕返しに同じことをして「おんなじだ」と伝えてやった。




終   2016.03.06

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

おんなじ 蜜缶(みかん) @junkxjunkie

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ