磐井・隼人の反乱と宇佐
楠 薫
第1話
「曽於」も「桑原」も、豊の国に縁の名であり、曽於郡には韓国宇豆峯社が、桑原郡には 鹿児島社が建てられていることから、この頃には隼人の勢力圏内へ、秦一族が浸透して いったと考えて良いかと思われます。
おそらくは、秦一族の持つ農耕や畜産、養蚕に鉄や銅器等の製造技術や気象や天体に関する 知識などが先住の隼人に受け入れられ、広まっていったのではないでしょうか。
699年には辛国の神山名に由来、辛嶋氏に関係すると思われる「稲積城」が日向南部に 築かれます。その直後、隼人は700年には川内国府を、720年には大隅国府を襲撃、 反乱の烽火を上げ(隼人の反乱)ますが、万葉集歌人として高名な大伴旅人が率いる 大和朝廷軍および 辛嶋ハトメ率いる宇佐「神軍」により鎮圧されてしまいます。
この隼人の反乱の際、大分県中津市大貞の薦神社の三角(御澄)池に自生する
これは中津薦神社が宇佐神宮の祖宮であり、そこを手中に収めている宇佐神宮こそが本家 である、と暗に主張。隼人の反乱の黒幕である秦一族、中でも辛嶋氏の動きを封じたことが 功を奏したのではないでしょうか。
ところで、磐井が敗走中に目指していたとされる、宇佐。しかし当時宇佐はまだ豊の国の 中心地ではなく、その時代は中津付近が最も栄えていたと考えられています。
中津は山国川の下流平野部に位置し、その中心的存在であったと推測されるのが、薦神社。 これほどの神社が歴史の表舞台に登場するのが、「隼人の反乱」以降、というのも 何か引っかかるものがあります。むしろ、それまでの薦神社は、意図的に歴史の上から抹消 されていたと考える方が、理に適っているように思えます。
磐井の反乱から過ぎること40有余年。欽明天皇32年(西暦571年) の大神比義の託宣(参考1) 以降、崇峻天皇(588~592年)の御代に大和朝廷の息のかかった鷹居社が造られます。
一方、隼人の聖地・
まるでこの大隅八幡に対抗するかの様に、元明天皇和銅元年(708年)に鷹居社では社殿を建築、 同5年 (712年)には官幣社となります。
磐井の反乱以後、宇佐辛嶋郷に移り住んで再起を期した辛島一族の一部は、稲積六神社をはじめ、 郡瀬神社等を建築するものの、繁栄したのは大和朝廷の息のかかった鷹居社でした。ここでも、 政治的意図があるように思えてなりません。
こういった歴史的事実を繋ぎ合わせて行くと、「隼人の反乱」は、神仏習合を進める大和系の 大神一族と、大和系に支配されるのを嫌って日向や大隅に移り住んだ秦一族、中でも宇佐神宮に 対抗して(大隅)正八幡神社を創建、原始八幡神を祀る辛嶋宗家による勢力争いに端を発した ものではないか、と考えると、合点がいきます。
なお、宇佐神宮
また、隼人の反乱後、多数の隼人を殺傷したので、放生供養せよとの八幡神のお告げがあり、 放生会が行われるようになったと言われています。辛島一族内の争いに巻き込まれて亡くなった 隼人を供養せよ、とも取れるこの話。せめてもの罪滅ぼしなのでしょうか?
蛇足ですが、宇佐の「辛島一族」、中でも宇佐神宮に入り込んでいった辛島氏は 後に「辛島勝」姓を名乗ることになります。これは暗に、隼人の反乱に勝利した宇佐の辛嶋氏が、 大隅の辛嶋氏と区別するため、「辛嶋勝」姓を名乗ったのでは無いか、と考えています。
ちなみに「勝」は、一族の長である、「村主」が語源と考えると、納得いくかと思います。
参考1:大神比義の託宣
欽明天皇32年(西暦571年) 、宇佐郡厩峯と菱形池の間に
参考2:『日本書紀』の応神天皇14年の条に「是歳、弓月君、百済より来帰り」という記述があり、 秦氏の始祖と言われる、弓月君(ゆづきのきみ:百済系と言われるが、実は新羅出身とも。あるいは その祖先は中国秦とも言われている)が127県の人夫、3~4万人を率いて北部九州に上陸。 その後、九州北東部の豊の国や、近畿、中でも京都に主に移り住んだと言われている。
参考3:継体天皇は応神天皇の五世孫にあたり、武烈天皇に後継がなかったため、時の権力者 である大伴金村らに推挙されて即位した、とされる。
しかし大和に入ることが出来ず、二十年に渡って大和周辺を転々とし、仁賢天皇の皇女で 武烈天皇の妹にあたる手白香を娶って皇后とし、ようやく大和入りを果たすが、新羅と手を 組んだ筑紫君磐井が反乱を起こし、政治的困難を極めた。
宇佐神宮(当時は中津薦神社?)は、応神天皇の子孫である継体天皇と少なからぬ 関係があったため、蜂起時には筑紫君を影で支えていたものの、大和朝廷からの圧力により、 筑紫君を見捨てなくてはならなくなったのではないか、と考えると、宇佐(あるいは中津?) を目指していた筑紫君が、その途上、大和朝廷側の軍(あるいは宇佐・大和連合軍)により 敗死した理由の説明がつくように思われる。
磐井・隼人の反乱と宇佐 楠 薫 @kkusunoki
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