17限目~元・学園最強は伊達ではない~

佐々木廉之助ささきれんのすけ、盗み聞きとは趣味が悪いな」

「やめてくださいよ人聞きの悪い。第8遊撃部隊が訓練してると聞いて見に来たらたまたま僕の話題が聞こえただけですって」


人の良い笑みを浮かべて千草教官のからかいをいなしつつ、佐々木は俺達の輪に加わる。


「いいんですか? 佐々木先輩って今は第3遊撃部隊の指導をしてるんじゃ」

「昔話をするくらいは構わないさ。でも花井には喋らないでくれよ、あいつそういうの聞くと怒るから」

「なら早く話せ。第8遊撃部隊の躍進は私の躍進と同義だ、話せる事は全て吐いてもらうぞ」


千草教官が軽く凄んでみせる。


「物騒に急かさないでくださいよ……さて、まずはなんで僕が市橋をスカウトしたかだね」


俺を含め、その場にいる全員が佐々木に注目。流石は元学園最強、注目されるのには慣れているのか、応えるように俺たちの座っているソファーの周囲を歩き始めた。


「当時の僕のチームの前衛担当……鹿島凱久かしまよしひさが怪我をして、方針を改める事にした。助っ人を頼んでも、鹿島と同じような力を持っている人は簡単には見つからないし、その人は僕達と1年間勝つ為に訓練を続けて連携を強化してきた鹿島にはなれないからね」


鹿島。なんか聞いたことがある気がするけどイマイチ思い出ねえや。

戦力を劣化させるくらいならそもそも戦術を変えてしまうという事だろうか。


「そこで考えたのが、遊撃を増やすという手法だ。少し長くなるけど授業だと思って聞いて欲しい。本来遊撃は、人数に関わらずやるべき事は同じ。戦況を見極めて攻撃に参加するか、妨害に走るか、防衛に戻るかを判断して行動するものだ」


部隊単位から軍団単位まで、遊撃の成す役割は例外なく大きい。

個人技が戦力差に大きく影響するこの世界で、遊撃の役割はその数に対して大き過ぎると、千草さんが言っていた気がする。


「ちょっといいですか」


ふと、ずっと疑問に思っていた事を思い出したので聞いてみる事にする。


「金剛君だっけか。どうぞ」

「俺達は遊撃部隊なのに、前衛や後衛、増してや遊撃部隊の中に遊撃の役割があるのは何故なんですか」


もしかしたら聞くのも恥ずかしい疑問だったのかもしれないが、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だし。


「金剛君は、ホールケーキを切り分ける時、クリームだけとか、苺だけとかで分けて切ったりするかい?」

「しませんけど……」

「それと同じだよ。軍隊の中で前衛だけ後衛だけを戦線に出しても機能しないように、遊撃だけを分割しても機能しないんだ」


だけど、佐々木は俺の疑問を笑うこと無く、真面目に解説し始めた。


「例えば僕や市橋がたった1人で基地を守るなんて不可能だろう? 1人で全ての侵入ルートや作戦を防げるなんて人間が出来ることじゃない。遊撃部隊は小さな軍隊なんだよ。ケーキをケーキとしてしか切り分けられないようにね」


つまり、遊撃の担当が集まった集団が遊撃部隊なのではなく、軍隊の中から各役割の専門家が部隊を組んで遊撃するのが遊撃部隊という事か。


「さっきも言ったけれど、遊撃は攻める前衛と守る後衛が居なければ成立しない。覚えておいてね」

「……なるほど、ありがとうございました」


佐々木はそこまで言うと、ウォーターサーバーから水を汲み、一気に飲み干した。

学園最強だったって聞いてどんな怪物かと想像したけど、ちゃんと教育者してるんだなこの人。


「でもそれだと佐々木先輩が私を誘った理由が分かりません。遊撃は前衛と後衛がいないと成立しないなら、怪我をした鹿島先輩に代わる前衛が必要な筈です」


今度は市橋ルナが質問する。

確かに、佐々木の話からすれば、市橋ルナを勧誘したのはどう考えても悪手だ。


「そうだね、じゃあ話を元に戻そう。新しい前衛を入れても部隊の劣化にしかならないと考えた僕が市橋を誘った理由、それはね」


それは。


「なんとなく市橋を呼んだら勝てそうだったからだよ」


「は?」

「えっ」


俺と市橋ルナの声が被る。勿論、この部屋の中にいる全員が唖然としていた。


「以前から思っていたが、やはり貴様は理論より感覚派だ。だから私は貴様を学園に迎えるのに反対してたんだよ」


千草教官が頭を抱える。


「鹿島が怪我して正直終わったと思ってたんですけどね。フッと思い出したんですよ、市橋の存在を。それで、なんとなく」

「花井先輩が納得しない訳です……」


うん。俺も今なら少しだけ花井に同情する。


「本当は花井を遊撃補佐にして、花井の抜けた後衛に助っ人を入れる予定だったんだけどね。いやあ、ピンと来ちゃった感じ?」


さっきまですごくいい先生だと思ってたのになぁ……才能ある脳筋ってこんな感じなんだな。


「と、いうか」


今まで唖然としていた可愛い可愛いツクハが沈黙を破り呟く。

うん、お兄ちゃんも同じ気持ちだよ。


「話に割り込んでまで言う事がそれかよ!」

「えぇっ?」


俺の中の佐々木の評価が前・学園最強から天然脳筋教師に大暴落した瞬間だった。



佐々木が千草教官によって休憩室を叩き出されて数分後。


「あの男はあんな感じだが、実力は本物だ。第3遊撃部隊は私達の脅威になりうる」

「その前に、予選で有志連合チームを倒さなければ、他の遊撃部隊と戦う事も叶いません」


第8遊撃部隊はまだ結成から1ヶ月も経っていない。ひょっとすると、有志連合チームの方が連携が取れているという事も有り得るだろう。


「連携が上手くいかなければ敗北は十分に可能性のある話だ」

「なにせ、大事な隊長さんが置物状態っすからね~」


人を煽るチャンスを察知したのか暁が会話に入り込んでくる。

ホントこいつ……


「その点は安心しろ。私が今からしごき倒せば望陽相手でも10分はもつくらいにしてやるさ」


あの火力を相手に10分もシールドを残し続けられるようにするって……


「大丈夫だ、お前は何故か頑丈だし、望陽と戦い続けても焼肉になることは無い。せいぜいレア程度だろう」

「火通っちゃってるじゃないですか!?」

「焼き兄様、ふふ……」


今お兄ちゃんのこと笑ったよね? 嘲笑うタイプのやつだよね? 笑顔が可愛いから許す!


「冗談だよ。でもそのくらいにはなってもらわないと、フラッグジャムでの優勝など夢のまた夢だぞ」

「まあ、やるしかないか……」


才能溢れる仲間達を俺のせいで予選落ちさせる訳には行かないしな。


「そろそろ休憩は終わりだ。佐々木のせいで長くなったが。なぁに、まだ本番まで2週間はある。覚悟しておけよ?」


うわぁ、普通に嫌だなぁ……

嬉しそうな千草教官が何よりも怖いと感じる俺なのであった。

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宵闇の銃姫~俺は異能力なんて使えない~ 春宮 祭典 @harumiya

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