第10話

 その日は、人狼は一匹もでなかった。また、魔王が単身、攻めてきた。

「おい、おれの城を攻め落としたそうだな。まったく面倒なことをしてくれるわ、小娘が」

 魔王は、いつものように怒っているのか笑っているのかわからない変な顔をしていた。女勇者が、

「魔王、おまえ、実はかなり若いんじゃないか?」

 と聞いた。

「それがどうした、小娘」

「だから、おまえも小僧なんだから、小娘とかいうなよ、魔王」

 うん? こいつら、殺し合いをしてきたのに、ずいぶん仲の良い軽口を叩くんだな。おれには理解できねえ。

「小娘、おまえはおれが見たところ、人類最高の剣の使い手だ。おまえもうすうす気づいているだろう。おまえを支配している人類の王国など、その気になれば、おまえがぶち壊してしまえることに」

「それがどうした、魔王」

 女勇者は怒声で答えた。

「例えば、おまえなら、この世界をどう総べる?」

 魔王はいった。おれはわけがわからなかった。なんだ、今日は殺し合いはしないのか? 前回は死にかけたんだぞ、女勇者は。

 女勇者は、魔王の質問を真剣に考えた末、こう答えた。

「あたしなら、もっと優しくしたらいいんじゃないかな、と思うよ」

「ぬるい。手ぬるいわ、小娘。そんなことで種族に君臨することなどできない」

 魔王も怒声で答えた。

「やはり、戦うしかないみたいだね」

「そのようだな」

 魔王が炎をこちらに放ってきた。炎を恐れずに、おれたちは突っ込む。

 激しい攻防があった。そのほとんどを覚えていない。おれの剣は空を斬り、魔王にほとんどかわされた。だが、慣れてきたのか、驚くことに女勇者の剣は確実に魔王をとらえた。魔王は少しずつ傷を受けていき、やがて、倒れ伏した。

 とうとう、魔王を倒したのだ。

 女勇者は、魔王の首に剣をかけていった。

「魔王、おまえは、悪いやつじゃない」

「そうだ。おれはただ、おれを殺しに来るというやつがいるから返り討ちにしにきているだけだ」

「魔王、おまえとあたしで、魔族を統治しないか。魔族が人間に手を出さないというなら、あたしはおまえを殺したくない」

 ほう。優しいな、女勇者は。と、その時はおれはそう思った。だが、次のひとことでおれは驚愕した。

「魔王よ、あたしと一緒に暮らさないか。あたしと一緒に魔族を統治しよう」

 えええ! なんだってえ!!! これって、ひょっとして、女勇者のやつ、魔王に告白しているのかあ?

「おれは負けたのだ。おまえの好きにするがいい」

 魔王も承諾しやがった。

 えええ! そりゃ、おれだって、ただの妄想だと思っていたよ。まさかさ、旅が終わったら、おれと女勇者とで一緒に暮らすようなことになったらいいなって、本当は思ってたよ。でも、よりによって、女勇者が選んだ相手って魔王かよ!!!


 これが、この物語の結末だ。おれと女魔法使いは、故郷に帰って普通に暮らした。女勇者と魔王がその後、どうなったかは知らないが、魔族が人間の土地を侵略することはなくなったらしい。

 おれはかつて、女勇者の戦士だった。そのことを知る者は、遠くに住んでいる女魔法使いくらいなもので、おれの心の中のたったひとつの誇りだ。

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俺は女勇者の戦士です 木島別弥(旧:へげぞぞ) @tuorua9876

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