第2話: ボディ・スナッチャー
『支配からの
と題したSNSの書き込みに三百八十四の"いいね"がついて満足していたヨシオに、一通のメッセージが届いたのは、会社を辞めた次の日のことだった。
差出人は株式会社イノベーションの代表取締役。名前は高村・マークス・雄一郎。
メッセージはこのようなものだ。
『塚本さま
はじめまして。株式会社イノベーションの高村・マークス・雄一郎と申します。
貴殿のSNSを拝読し、いつも感銘を受けております。
会社を辞職された旨を知り、折り入ってご相談したいことがあり、メッセージをさせて頂きました。
当方、ベンチャー企業のアクセラレーションを生業としており、200社のベンチャー起業を支援しております。
おかげ様で、支援先様の事業拡大と並行し、弊社の事業規模も年々拡大しております。今では、日本、シンガポール、イスラエル、ベルリン、そしてシリコンバレーにオフィスをかまえるに至りました。
弊社は更なる発展のため、塚本さまの前職、延いては学生時代より培われてきた卓越したスキル、そして類まれなるビジネスセンスをお借りできないかと考えております。
一度、弊社オフィスで直接お話ししたく存じます。
お返事を頂ければ幸いでございます。
よろしくお願い申し上げます』
ヨシオは"株式会社パブリックドメイン"、"高村・マークス・雄一郎"という言葉で検索してみた。が、目ぼしいページはヒットしなかった。
訝しむ思いと裏腹に、"アクセラレーター"・"ベンチャー"・"シリコンバレー"といった言葉が彼の心をつかんで離さなかった。
ヨシオがパブリックドメインのオフィスを訪れたのはその翌日。
6階建ての雑居ビル。入口すぐ横に階段と、褪せたピンク色のエレベーターがある。おもてに出ている看板は、ナショナルブランドの会社から、"カードどお金"とだけ書かれた会社まで、主にサラ金業者のものだ。
ビルを仰ぎ見るヨシオの背後から声がした。
「塚本さん、ですよね! 」
ヨシオが振り返ると、ぼさぼさ頭で丸い黒縁眼鏡をかけた男が立っていた。
「塚本…です。あなたは…高村…さん?」
「その通り! そうです、そうなんです。高村です! こんな辺鄙な場所までご足労頂き、本当に恐縮しかりですな!!」
「とんでもないです」
「ご謙遜! お会いできて光栄ですよ、本当に!」
「あ、あの」
「それと塚本さん! 一つ言っておきたい。いや、二つかな! まあ細かいことはいい。その一つ目! 実はね、ここは我々のオフィスでは無いのです!」
「はい…?」
「二つ目! 私は高村さんではない! これはね、私が好きな作家の名前だ、ぷふい!」
「へ…?」
「いきなり色々言って申し訳ない! ちょっとね、時間が無いからね、我慢して! ああ! それともう一つ忘れていた!!三つですね! 三つ!」
男は両手を上げて天を仰いだ。
「今から君を連れ去ります!!」
わっと声を上げる前に、ヨシオの視界から景色が消えた。
ハック・プロパガンダ TKFIRE @tkfire
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