これから

しばらくすればマナも泣き止んで落ち着きを取り戻した。料理が運ばれてくるとマナはけろっと元気になって少し贅沢な時間を過ごした。


本当によく食べる奴だ‥‥。


「ねぇ、ネオ。あなたの倒したい敵って誰?ヴァンパイアなんだよね?」


「ああ。そうだ。俺の宿敵、すなわちカンナの仇は、実はサンダル大学の校長なんだ」


食べ物が喉に詰まったのか苦しそうに咳をしながらマナは1人で取り乱していた。


「えええぇ!!あのダンディリオン校長が!?」


ひと段落してマナは口で手を抑えながら声をあげた。


「なんだ。知ってたのか」


「当然よ!あのヤルマール1の名門大学の校長でしょ!姉さんが入学する前から知ってるわ。有名よ」


そこまで名前が通っていたのか。俺はサンダル大学の生徒だったから当然のように知っていたがまさか知名度が高かったとは。


「兎に角、奴はヴァンパイアだ。あの事件の元凶でありカンナの仇だ」


その事実だけは揺るがない。そして奴の手がかりは掴めていない。


「協力してくれるんだな?」


「ええ。もちろん。あなたのやり方は非人道的だけど目指す場所は同じよ」


非人道的なのは認めるが、奴は人ではない。ヴァンパイアだ。そんな常識が通用する相手ではない。


「これからどうするの?」


「とりあえずはクエストをこなす。お前の成長のためにもな。稽古をつけてやる。カンナの血が引いているんだろう?」


カンナは天才だ。俺が保証する。魔術においては最強、ヤルマール帝国はなんて逸材を手放してしまったんだ。その血を受け継いでいる者が今、目の前にいる。


「うん。一応ね‥‥でも姉さんみたいにうまくできないよ」


「まだ諦めるのは早いぞ。カンナだって初めから強かったわけじゃない。しかも君はまだ若い」


可能性は大いにある。


「これで君の6000クランの借金はチャラでいい」


そう言った瞬間、マナは両手を挙げて喜んだ。

歓喜の声が聞こえる。


「ありがとう!!ありがとうございます!」


6000クランは大金だ。人によっては年収6000クランもザラにいる。命が懸かっているんだ。妥当な金額だ。まだ新米ハンターの彼女にそれを背負わせるのは荷が重すぎる。


これで問題はだいたい解決した。


が、気になるのが一点。


「なぁあんたの街に何で鬼が襲来してきたかわかるか?」


「ううん。私がパーティとクエストに行ってて帰ったらコレだもの。原因なんてわからない」


マナは首を横に振って不安げな顔をする。仲間の安否がまだわからないのだろう。


ただの気まぐれで鬼が街を襲うのか‥‥。


ペルーは危険区域ランクDの安全な地域に属している。滅多に強いモンスターは近づかないはず。


誰かが故意にやったとしか思えない。


まぁその辺はいいか‥‥。終わったことだ。


共通の敵を持つ仲間か‥‥悪くない。力不足だがな。


「俺のカリキュラムを一通り終えたらクエストに出てもらう」


「えええ‥‥どんなクエスト?」


「難易度very hardかlegendクラスの難易度が理想だな」


「はあああぁ!?無理に決まってんでしょ!私をどんな最強ハンターと勘違いしてんのよ!!」


うるせぇな‥‥。最強ハンターにするためにやるんだろうが‥‥


しばらくして俺は席を立ち、腕時計を見る。

もうこんな時間か‥‥


「そろそろここを出るぞ。今日はハインに泊まり、明日出発する。準備はできているか?」


会計を済ませながら満腹感溢れるマナに問いかける。


「ええ‥‥早くない?」


「家も故郷も壊滅したのにまだ何か必要なものがあるのか?」


食料や水は調達できるから死活問題にはならない。その気になれば魔術で何とかできる。



「家も故郷も壊滅したから必要なものしかないわよ!心の準備とか!」


「そんな暇はない。最低限必要なものを明日の朝買い揃えてすぐに出発する。金は俺が出すから心配無用だ」


マナは、はあ〜とため息をついて渋々従った。

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血と復讐のヤルマール シノミン @Kullgi123

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