忌まわしき過去
「えっ‥‥‥!」
俺の唐突の告白にマナは唖然としながら俺をじっと見つめた。
まるで化け物でも見るような目だな。
無理もない。このオーガス共和国は疎か、ヤルマール帝国でもあのサンダル大学で起きた惨劇の生存者は珍しい。
珍しいというよりもごく稀だ。俺以外にも生存者はいるはず。だがまだこの3年間で接触してはいない。
もう死んでいるかもしれない。あの惨劇の後で生き残る術を見出せる奴の方がすごい。精神的な問題だ。
仲間も恋人も師も友もすべてを奪われ無にされたあの日を、あの夜をどう過ごせるというのか。
ただ信用できたのは己の力、能力だった。
だからあれを生き延びた奴らは間違いなく最強なのだ。
何の職業に就くとしてもその頂点、エキスパートに登りつめるだろう。
そして俺は復讐を選んだ。
「俺がハンターになったのはな、その事件の元凶を抹殺するためなんだ。すべてはそいつに復讐するため。俺の道を妨げる奴は全員殺す。何もかも壊す」
「知ってるよ私。私の姉さんもサンダル大学に通ってたから。本当に毎日笑顔で家に帰ってきて楽しそうで。姉さんは頭も良くて魔術も得意で。でもあの日、姉さんは帰ってこなかった。憧れだった姉さんは永遠に‥‥‥」
結局、サンダル大学にはあれ以来行っていない。だからカンナの亡骸を確認したわけではないが、あの傷ではまず助からない。
さっさと助けに行くべきだったのか?だがすぐに立ち入り禁止区域に指定され、周辺はポリスが管轄してしまった。
もう、白魔術でカンナを成仏させることはできない。
時間が経ちすぎた。もう屍人になっているだろう。
あてもなく崩壊した校舎を徘徊し、彷徨い、肉体が腐敗してもなお活動を続ける。
そんな彼女の姿を見たくはない。
かつての俺ではあの屍人に勝ち目はなかっただろう。
今更、何を考えても過去は覆らない。変えることはできない。
「その姉の名前は?」
彼女は遂に泣き出して重たい口を開いて涙声で確かにこう答えた。
「カ‥‥ン‥ナ‥‥‥」
その名前を。俺は知っている。
最初は偶然だった。マナに会ったのも。
いつかはカンナに繋がる手掛かりを掴めると思っていたが。
ひょっとすると、もしかしたら、と思っていたが確信に変わった。
「やはりな」
別に泣かせたかったわけでも傷つけたかったわけでもない。けど、確かめなければならなかった。
俺の目的のためにも。
「俺の‥‥‥たった一人の恋人だった。愛していた。でもあの日に奪われた。俺の‥‥目の前で!
あの日からずっと俺は仇を討つために旅を続けている」
3年前のあの忌まわしき過去が脳裏によぎった。
あの日から忘れたことはない。忘れることはない。永遠に‥‥
「カンナの仇だ。マナ、これは君にも無関係ではないことだろう?俺が単独でやっていることだが」
確かヴァンパイアによる虐殺だと世間で知られているらしい。13000人もの犠牲者を出したあの事件の犯人はまだ死んでいない。
死ぬどころか誰か知っている者もいない。
知ったとしても勝ち目は‥‥ない。今の俺でもきっと‥‥
「マナ、俺と‥‥来るか?もちろん今すぐにとは言わない。君の意思を尊重する」
彼女にだって居場所がある。ペルーが無くなってもいつかは帰るべき人の元へ帰らなければならない。
それを俺が奪う権利はない。
他人から見れば復讐なんて取るに足らぬくだらないものなのかもしれない。
だが、友情や愛や努力なんか俺の怒りに比べれば!
「いって‥‥‥」
マナが静かに嗚咽を漏らしながら呟いた。
「え?」
「私も君と‥‥同じ場所まで‥連れていって」
涙を流しながらマナは言った。
「約束しよう‥‥俺の命に代えても!」
泣き虫なところや顔つきはどこかで見たことのあるような人にそっくりだった。
多分もう二度と会えないであろう彼女の顔にそっくりだった。
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