第2話
明治24年の横浜の街にて。
迷子の女の子が煉瓦造りの建物の裏で見知らぬ中年男2人に声をかけられていました。
「さっき叫んでたケド…迷子なんだってね。可哀想に。」
声をかけたのは鼻の下にちょび髭を生やし髪は薄目の年齢は50代程で粗末だけど白いボタンが着いた服に黒いズボンと靴を履いた洋装の男性でした。
「うん。お父さまとお母さまに会いたいよ!おじさんも探してくれるの?」
50代の男性が笑顔で話しかけて来たので安心したのか近寄る、みどりでした。
「そうかい。なら、おじさん達が一緒に探してあげるよ。」
50代の男性は、にこやかに言いました。
隣にいた男性は40代程で髭はなく、こちらは長髪を後ろで束ねて茶色の着物に藍色の袴の長身の男性で無口なのか喋りません。
「わーい!ありがとう!おじさん!」
みどりは優しい口調で言われたのもあり大喜びしていました。
その時、小声で50代の男性が40代の男性に話しかけました。
「やったな相棒。このガキは府内で有名な金持ちの西尾家の娘だ。」
「…ああ。」
「身代金いくらにする?相棒。」
「…5000円。」
「そうだな。しばらくは遊んで暮らせる額だ。やったな相棒。」
「…ああ。」
「どうしたの?おじさん!早く探しに行きましょう!」
何も知らずに話しかける、みどりです。
「あ…ああ!勿論だよ、お嬢ちゃん。」
男性2人と、みどりが歩き始めた時でした。
「みどり!!みどり!こんな所にいたのね!!」
遠くの方から和服の20代の女性が叫びながら、みどりの方へ駆け寄って来ました。
この辺は人通りが少なく声が響きます。
「お母さま!!」
どうやら母親のようです。やっと親子が再会できました。
ですが同じく駆け寄ろうとした、みどりを掴み40代男性は抱き上げました。
「おじさん?肩車してくれるの?」
勉がしたように肩車してくれると勘違いをする、みどり。
「よし!相棒!娘を捕まえておけ!!」
50代男性に相棒と呼ばれている40代男性は、みどりを抱いて数歩後退しました。
「何なんですか!?あなた達は!」
みどりの母親は立ち止まり距離をとりました。
「この娘を返して欲しかったら5000円支払って貰おうか!!」
「えぇ!?」
後から母親に駆け寄って来た20代半ば程の男性が声をかけます。
「どうしたんだい!茜!」
「あ…あなた!みどりが!」
「あ!みどり!あの人達は?」
「誘拐犯みたいで…みどりが。」
「誘拐犯!?」
男性は目を疑いましたが…。
「お父さま~!お母さま~!」
娘・みどりが身動き取れずに叫んでいるのを確認すると落胆しました。
「5000円と引き換えに娘は返してやる。ここで待ってるから早く用意するんだな!」
「分かった!一度、家に戻ってからだから半日程待って欲しい!」
「半日も!?そんなに待てるか!!日没までに持って来い!!」
「そんな!無理だ!時間を!!時間が欲しい!」
「…西尾正之進さんだっけ?欧州にも貿易とかして金余ってるんだろ?金で何とでも出来るんじゃないのか?」
「そんなムチャクチャな!!」
みどりの父親・正之進は選択を迫られました。
「相棒!ちょいと娘を痛めつけてやれ!」
50代男性が言うと、みどりを抱き上げていた40代男性が頷き、みどりの首を絞め始めました。
「な…何するの…?おじさん…げほっ!」
みどりは何が何だか分かりません。
男性2人が一緒に父母を探してくれると思っていたのに、いきなり捕まえられ首を絞められ次第に意識が遠のく、みどりです。
「娘が、どうなっても良いのか!?」
みどりの両親は顔を青ざめます。
「やめてぇ!!みどりがぁ!!あなたぁ!!何とかしてぇ~!!」
みどりの母親・茜は狂ったように叫びました。
「分かった!!日没までに要求金額を用意する!!だから娘に…みどりに手を出さないでくれ!!」
みどりの父親・正之進は力強く叫びました。
「そうか!日没まで数時間はある!それまで、これ以上は手出ししないでおいてやる…だが用意出来なかった場合の保証はない!覚えておけ!」
50代男性も力強く言いました。
「あなた…どうにかなりますの?」
泣きながら茜は正之進にすがりました。
「この辺に知り合いはいないが…貴重品を担保に金を借りれないか聞いて回って来るよ。待っててくれ茜。」
正之進は茜を抱きしめました。
「よし!あとは金を待つだけだ!逃げられないように娘を縛っておけ相棒!」
50代男性は数歩、後ろにいた40代男性に声をかけ振り向くと同時に物音がしました。
40代男性が突然に倒れた音でした。
みどりも、気絶していたので転がるように地面に落ちました。
「後ろがガラ空きだよ!オッサン!!」
50代男性が、その若者の声を聞いた瞬間に肩を棒切れのような物で強打され激痛が走りました。
「ぐわァァァ!!!!」
50代男性は悲鳴を上げ、その場に倒れ込みました。
「うわぁ~痛そぉ~。ちょっと可哀想かもね。」
倒れた2人の男性の後ろから、すずねが呟いていました。
「ったく!ビックリしたぜ!みどりちゃんの首絞めてんだもんな!変態か?」
「人さらいでしょう。何にせよ勉お疲れ様。あんたのヘボ剣術も役には立つのね。たまには。」
「たまには余計だ!あとヘボも!まずは暫くは動けないだろうから今の内に警察呼ぼうぜ!」
武器は棒切れでしたが勉の攻撃で見事、誘拐犯の犯行を阻止しました。
すずねが縄を見つけて来て勉が動けない男性2人を縛りました。
「あの!」
正之進が勉に声をかけました。
「何ですか?」
「ありがとう!助かったよ!本当に本当に!ありがとう!!」
「誰ですか?」
「あ!すまない!私は、そこの男性2人に娘を誘拐されかけて困っていたのだよ。それを君が、あっという間に解決してくれて娘の命もかかっていたからね。君は娘の命の恩人だよ!」
「娘?」
勉は目を丸くしました。
まだ飲み込めてないようです。
「みどり~!!良かった~!!」
みどりの母・茜は、みどりを抱き上げ泣きじゃくっていました。
「もしかして…じゃなくても、みどりちゃんの…お母さんですか!?」
すずねが茜に尋ねます。
「え?は、はい…ひっく…そ、そうででですが…ひっく。」
泣いている茜は上手く喋れてませんでした。
「やった~!!良かった~!!やっと見つかったんだ~!!」
すずねは万歳をし喜びました。
「すずね。何、喜んでんだ?」
「だから!この人達が、みどりちゃんのご両親よ!喜びなさいよね勉!!」
「え?マジで!?やった!」
「もしかして君達が娘を肩車して一緒に私達を探してくれた子達かい?」
正之進が勉に尋ねました。
「はい…まァ。」
「私達も、みどりを探して歩いていたのだよ。そうしたら小さな女の子を肩車をした少年と何かを叫んでいる少女が一緒に歩いていたという情報を得てね。でも擦れ違いもあってか見つけれなくてね。」
「目立ってはいたケド何かを叫んでいるしか思われてなかったんじゃあ無理だよな…ハハハ。」
正之進の話に勉は苦笑いをしました。
「やっと見つけたと思ったら娘と一緒にいたのが誘拐犯で驚いたよ。」
「えっと。みどりちゃんのお父さんスミマセン。俺達が、ちょっと目を離した隙にあんなコトになってしまって。」
「いや。感謝しているよ。娘は…みどりは君達に出会ってなければ、どうなっていたか分からないからね。それに最初に目を離した私達が悪いのだから。」
正之進は勉とすずねに頭を下げました。
「俺達は…その…。なァ?すずね!」
「私に振られても困るんだけど。」
正之進は茜とみどりの側へ行き、みどりを抱き上げました。
「せっかく楽しみにしていた横浜だったのに、こんな事になってしまって。すまなかった…みどり!」
泣きそうな顔をしながら正之進は、みどりを抱き締めました。
「じゃあ私達は、これで!さよなら!みどりちゃん!って寝てるから聞こえないけど。」
「じゃあな!みどりちゃん!」
すずねと勉は立ち去ろうとしましたが…。
「ま!待って下さい!あ…あの!あなた達は…その名前は?何処から来ましたの?」
やっと泣き止んだ茜が2人を掴まえました。
「私は東京の本郷の方から来ました。小栗すずねです。16歳です。横浜には遊びに来ました。」
「え!?お俺は…藤谷勉です。同じく本郷からで同じく16歳です。同じく遊びに。」
「ん?勉、顔赤くない?やけに動揺してるし同じくとか言い方しつこいし。」
「うるせーから!」
「そうなのですか。実は私達も遊びにというか観光に来ましたのよ。東京の赤坂から来ました。西尾茜と申しまして26歳です。また、お会い出来ますよね。」
茜は勉に言いました。
「も!勿論!」
やはり顔が赤い勉です。
「勉?」
すずねは何やら不機嫌になりました。
「私は西尾正之進。28歳だよ。もし良ければ住所を教えて貰えるかい?お礼をしたいからね。」
「いいえ!!結構ですよ!勉!帰るわよ!」
「住所、教えないと。」
「別に私達そんなつもりでした訳じゃないから行きましょう!」
すずねは勉を引っ張って行きます。
「すずね…お姉ちゃん!」
目を覚ました、みどりが呼びました。
「みどり…ちゃん?」
「カステラありがとう!またね~!」
正之進に抱かれながら手を振る、みどり。
「オイすずね。みどりちゃん、またね~とか言ってるぞ?いいのか?住所。」
勉に言われましたが、すずねは歩いて行きました。
間もなく警官が来て2人の男性は連行されました。
その後、日が暮れる前に西尾親子は横浜駅から汽車で東京へと帰りました。
ロマネスクmeiji ピュアセレクト井上 @2016yomu0312naomi
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