カモシカの脚

@gooharuka

第1話 脚フェチ

 人にはいろいろな趣味がある。

『フェチ』という言葉もあるくらいだが、

たぶん… おれは『脚フェチ』なのだろう。

とはいっても、単なる脚に興味はない。


 おれが興味あるのは、鍛え上げられた脚に限る。

しかも、全力で走っている脚だ。

それらの脚を、ライブで、しかも間近で眺めるのが

たまらなく好きなのだ。

 

 そんなわけで、足の魅力を堪能するために

中学・高校では、陸上部に席をおいた。

 実のところ、なんら陸上に興味はない。


 おれが進学した高校は、幸いにも、陸上部が全国的に有名である。

つまり、素晴らしい足が見放題なのである。とはいえ、

その足を眺めるためには、条件がある。

 

 そう、彼らと同じ速さで走らなければ、躍動する足たちを

堪能することなどできはしない。


 おれは、努力した。

もともと、おれは割と足が速い。少々鍛えれば、

足の速い彼らの足を捉えることはできた。

 だが、さすがに、陸上部最速の先輩の足をじっくりと堪能することは

すぐにはできなかった。それでも、足フェチとしての欲望は、おれ自身

の限界を何度となく破り続け、先輩が陸上部を離れる前には、余裕で、

先輩の背後をキープできるようになっていた。

 

 最速の先輩の足を味わってしまっては、先輩が卒業した後に残る、陸上部の面々の足など、出しの抜けた煮干である。


 おれは、先輩が卒業した翌日、早々に、退部届けを出した。

しきりに引き止める顧問の先生の話などおかまいなし。

おれの陸上生活は入部して1年で終わった。

なんといっても「脚」がないのだから話にならない。

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