この表現力と世界観に勝る作品を書ける豪語する者。名乗り出てみろ。
この作品を読み終わった時、声を大にしてそう言いたくなりました。
こう呼びかけて、集まる作品は皆無に等しいと思います。勿論、このレビューを書いてる自分だって、畏れ多くて名乗り出ることは出来ない。
もし名乗り出るものがいるのなら、それは小説家に相応しくない程度の低い感性の持ち主か、はたまた自分の作品の出来前すら満足に把握していない身の程知らずか――あるいは、一握りの天才か。
とにかく胸を張って断言できるのは、この作者様はその一握りの天才の枠に入るであろう、ということです。
物書きが至るべき精緻な表現力。世界観を構成するのに必要となる類い稀な感性。各所で煌くワードセンスに、そしてそれを可能にするだけの豊富な知識。
思うに、この作品において瑞雨様の最も素晴らしい所を上げるとするなら、驚くほど多岐にわたる瑞雨様のその知識量です。
小説を書こうと思った時、最も必要とされるのは「知識」です。どれだけ物を知っているかが各々の作品で大きな差となって表面化し、物を知らない人間の書いた作品は、物を多く識る人間の書いたそれより遥かに劣ります。
機巧の仕組み、服の装飾の名前、物理法則の原理、格闘術・武術の理解、正確な科学知識。
どれも知らなければ絶対に分からないもので、そして現実とは異なる世界観を美麗に描写する上で必要となる知識でしょう。優れた異世界ものの作品とは、どのような形であれ、これらが遺憾なく発揮されていると思います。
この作品は、それが本当に素晴らしい。
知識を読者に押し付けるわけではなく、あくまで世界観を構成する一つのパーツとして適度に仕込まれていて、そのおかげでストレスなく読者は光景を想像することができます。
物語を楽しませ、盛り上げるだけでなく、読者に新鮮な発見と知識すら提供する。この境地に至るのに、どれだけの苦労と教養が必要か。この作品を読んだ物書きなら分かると思いたいです。
これほどの技量です。おそらく現在ラノベ作家をやっている人のなかで同等のレベルの人間の数は1パーセントにも満たないでしょう。同じレベルのものを書け、と言われて書ける作家はほぼいない。断言できます。(もちろん、刊行されている作品にもそれぞれの良さがあるので、その良さを完全否定をするわけではありませんが)
正直、この作品の良さを言語化して纏め上げるのは自分には不可能です。それだけの表現技法を持ち併せていませんので。
ですので、この感動は実際に読んでみて、皆さんが体験してください。
読専の方は、この残酷で美しい狂気に震えてください。
そして物書きは、感性の暴力とも言えるこの作品に向き合って、一発殴られてきたください。殴られる価値はあります。それだけの作品です。
文章力を伸ばしたい人は、メモとスマホを用意してください。知らない単語、自分では考えつかない表現を、意味を調べながらメモに書き写していってください。自分はそうしました。
長くなりましたが、最後に一つ。
この作品の良さをどれだけ説明しようが、結局はどこの誰とも知らない馬の骨が書いた感想です。きっと揺り動かされる人は少ないでしょう。
だから、あえて言います。
四の五の言わずに読んでみろ。
その一タップで、貴方の持つ感性は揺るがされます。