こんなにも危険!SFでの異世界転移 ~転移に対するリスクがヤバい~

「これより勇者召喚を行う!」


 高らかに宣言するこの男は、勇者召喚装置と命名した古代の遺物の前に居た。

 この場はコンクリートのようなモルタルのような人工の石造りの中、いわゆる古代の遺跡に居る。

 発掘したコレは『勇者召喚装置』と命名した。残っていた太古の資料を人類の英知を以て解読したのだ。


 解読した結果、最終的に意訳すると勇者を召喚する装置である事が分かった。

 また、動作に必要な触媒も調査の結果分かっている。

 

 そのような装置があり、触媒を用意できるならば起動させようとするのが人であろう。

 世界や人類が危機であるとか、そんなものは無い。


 そして今まさに古代の装置を起動する。

 男は高揚感と共に宣言していたのだ。


 

 さて、ここでいう触媒とは何か。

 意外にも『水』であった。


 無論不純物の入っていないものだが燃料に使うだけなため問題はない。

 この装置が水から核融合に必要な水素だけを取り出し加工する為、特にほかは不要な為だ。

 だが、この燃料となる水素を作り出すための電力が無い。


 この国では電力という概念がまだ無かった為、長年解読等に難儀したが『手動起動手順書』でいう、朽ちた『足漕ぎ式発電装置』を発見しこれを再現する事に成功した。

 それにより現在核融合装置が順次起動。

 電力の供給及び充電が可能となった。

 

 無論、蓄電などはできず余裕もない。

 安全を期するための安全装置もなく、当時の人間が見たら目を覆い隠さんとする程の蛮行だ。


 またメンテナンスも行っていないこの装置をいきなり起動させるなど、無茶苦茶もいいところである。しかも、付いていた筈のリミッター等も全て老朽化により外れている。

 本来ならば融合炉すら動く事はままならない。


 そのため何も起こらない。


 ―――ハズだった


 いくらかの奇跡と、偶然によりギリギリ正常に稼働した融合炉。 ―――ただし2時間後に吹き飛ぶ―――

 電力供給された装置。

 

 装置の方も奇跡的にも動作した。


「さあ、世界を超えて来たれ!!勇者よ!」


『勇者召喚装置』が音を立てて起動。


装置から伸びる128本の角が順次光りだす。



「おお、動いた。動いたぞ」

「素晴らしい」

「なんという光景だ」


 集まった人々はその光景に見惚れ、装置の完全起動に胸を躍らせた。



――― 起動開始 ―――


 128本の触角の中央部にプラズマが発生、黒い物体が現れる。

 否、そこに穴が現れた。


 そう、空間に孔が穿たれたのだ。


「おおお!」


 男の期待通りの動き。続いて勇者が現れる。


 そう思っていた。


 だが、彼の意識はそこまでで、プツリと意識は無くなった。


 その部屋に居る誰もが同じように意識を失った。



 それから先は世界を俯瞰して見なければ解らない。






 事故があった。

 原始的な種族が、運悪く古代の装置を起動させてしまったのだ。

 

 遠く離れた場所から人を運んでくる?

 夢のような装置だ。


 だが、そんな事はとうてい不可能だ。

 

「えーなになに。今回被害者はいないけど、現地民が被害者のようなものなので、何があったか説明してほしい・・・匿名希望と。」


 いつも、こんなにも危険シリーズで被害者を助けて説明している、解説者に丸投げしてみた。


「するなっ!」


 現場の近くの宙域に透明な膜で覆われた、ゴシック調の内装の床と天井。そして趣味の悪い置物の数々がある、頭の痛い空間がそこに在った。


「さて、強引に解説役にさせられたのだが。仕方なく説明をしよう。」


 今日は幼女のバージョンである。


「さて、今見えている光景だがなかなか興味深い。

 白い雲の渦が徐々に広がり、惑星がそれに飲み込まれていく様が見える。といえば良いか。」


 一体何故このような事になったのか興味が尽きない。


「まず、古代の装置だが、断じて『勇者召喚装置』なるものではない。」


 なぜ其のことを知っているんでしょうかね。


「翻訳が間違っていたといえばそれまでだが、安全装置はなぜ外れていたのかも気になる。

 そして『スターゲート制御装置』がなぜ『勇者召喚装置』になるのかがわからない。」


 スターゲート制御装置とは、恒星間航行のため太陽風と銀河宇宙線の拮抗する部分に設置される装置で、同じく対になる装置間とのやりとりに使われる装置である。正常動作すると、一種のワームホールを通過する事で光速以上の速度で恒星間を移動できる。


「さて、この装置を地上で動かすなど自殺行為にしかならないし、また対となる装置が待機状態でも無いのに起動させるなど一体どんな事故が起こってもおかしくはない。事実、こうしてワームホール化してしまった訳だ。

 このワームホールだが、相手の場所が数千年前の位置座標だった事もあり、どの恒星系にも属さないよくわからない場所に出た。

 仮にワームホールをこの惑星が超え、奇跡的に生物が生きていたとしても恒星系が無いためすぐに冷えて氷の惑星となり、絶滅するだろう。」

 

 宇宙の座標っていうのは自分の恒星系を基準にする場合が多く、そこからの相対座標にて導き出される。だが数年単位でも徐々にズレるものだ。銀河系だって動いているのだから。


 ほんと、宇宙って怖いですね。


「仮に適切な位置に出られたとしても、ワームホールが消えない限り、再度ワームホールでの移動が繰り返されるだろう。いや、太陽風が強すぎて一気に外縁部まで吹き飛ばされるかワームホールが維持できなくなるかのどちらかか。

 ともあれ、宇宙世紀の装置を安易に起動させたら不味いな。というかよく動いたなアレ。」


 ええ、ご都合上の理由で動きました。

 なお、適切な位置とは、生物が生存に適する惑星の距離であり、ハビタブルゾーンとか言われている恒星系内の位置である。


「ともあれ、異世界転移(?)をSFで表現しようとすると、こんな事故が発生する。残念だがSFで異世界転移はできないんだ。」


 残念です。


「今回は被害者がでなくてよかったー」


 惑星一個分被害が出ていますが?


「うちの星から被害者が出なきゃOK」


 酷い!人でなし!


「人じゃないがー。」


 こうして、宇宙にまた一つ謎が生まれた。 



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SFで良くあるワームホールについて考えた時、異世界転移とSFを混ぜるとどうなるか思考実験しちゃいました。

コレはその妄想の産物です。

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こんなにも危険!異世界! 秋月イネア @inea

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