こんなにも危険!時間停止!~いやちょっと待て。いや止める前に待て~


私は凡人である。ひょんな事から時間停止を手に入れた。漫画とかアニメでよくある時間停止だ。

なお私は、ビルの屋上に居て飛び降りる寸前だった。

まあそれはいいや。


でも、なんか私の時間停止は欠陥品ぽい。

止まったけど自由に動けない上に、周りもよく見えないという不具合。


具体的に言うと。


①時間停止する

②自分以外が停止する

③真っ暗になる

④動けなくなる

⑤そして時間は動き出す。


うん。訳がわからないよ。


この力さえあれば、生きていられると思ったんだが無駄だったようだ。

やはり飛び降りるしかないようだ。


「おや?時間停止の能力を感知して来たけど、なんで飛び降りようとしているの?」

 フェンスの向こう側には金髪の少女。なんかウサギのヌイグルミを抱いているが目は険しい。


「時間停止か。よく分かったね。まあ全く使い物にならなかったんだけどね。」

「???」


 良くわからないような顔をした。

 瞬間ぞわっとした感覚を感じたら少女が消えていた。

 一体何なんだ?


 ふうと正面…ビルの外側を向くとそこに少女が立っていた。

 立っていた?とは語弊がある。

 彼女の下には何も無いのだから。

 浮いていると言えよう。

 

「あ、飛び降りるならどうぞ。止めませんよ?」

「・・・」


 一体何があったのか。

「瞬間移動か何かかな?浮いているのも、超能力かな?」

「おや?オジサンもしかして時間停止能力は今日が初めてかな?」


 なんのこっちゃ。


「いやあ、時間停止能力者だと思ったから、時間停止しか使ってないよ?」

「は?」

 

 どういうことだ?いや、この瞬間移動については分かる。

 時間を止めて、私の正面まで来た。

 そして時間停止を解除したのだろう。

 だが空中に浮いているのが分からない。謎だ。


「ふむ初心者ビギナーさんなら仕方ない。少しレクチャーしてあげよう。なあに、受講料はあそこの3団重ねのアイスで良いよ。」

 ちらっと下を見ると、33アイスクリームの店舗が見えた。


 しかし困ったな。無一文なんだが…いや財布に1,000円位はあったか。


「じゃあ、お願いしていいかな?」

「おけー」


 ニヤッと笑うと、なんかいきなり良くわからない部屋に居た。

 なんか大きめの宴会場くらいの大きさ。電飾のシャンデリア。壁に並んだ趣味の悪い調度品。

 出入り口も窓も無いが、ここは一体…。


「さて、まずは君の時間停止能力を見せてもらおうか。」

「…わかった」


 なんもできない時間停止能力を発動する。

 さっきの①~⑤が発動

 

「どうだい?」

 そう言おうとしたがまるで口が動かなかった。

 なんだこれは。


「大丈夫。まだ時間は動き出してないよ。現在は時間停止中なのです。」

 私の時間停止に被せてきたのか。すごいな。


「ふーむ。」

 何か悩んでいるが、どうにも正常空間に見えるんだがなぁ。


「わかった」

 

 そしてホワイトボードを引っ張ってきた。

 なぜホワイトボード…


 思わず身じろぎをしたら動けた。なんだ?


「お、数秒なら動けるぽいね。」

 相手の時間停止中に動けたらしい。短時間だったが。


 キュキュとマジックで字を書く音が…あれ?聞こえてこない。


『時間停止レクチャー』

 題名としてそう書かれていた。


1.時間停止とは

2.なぜ動けないのか

3.なぜ暗い世界に生るのか

4.時間停止応用編

 下にそう書かれていた。


「まず…完全停止というのがあります。」

 ふわっとした感覚になる。これは時間停止が解けた感じだな。

 一気にキュキュとする音が聞こえてきた。なんだこれ。


「完全停止とは、世界の全てが自分を除き完璧に停止することです。

 まあ肺の中は自分とみなされるのでそこの空気は平気ですね。」

「ふむ?」


「全てが止まるので、勿論、そこに空気があれば空気も止まります。」

「え?」


「ついでに言うと光も止まります。」

「ええ?」


「音も止まります。まあ当然ですね。」

「お、おいおい。それじゃ…え、どういうことだ?」


「一度自分の中に取り込んだら、その空間の光はなくなりはしませんが入ってこなくなるわけです。だって網膜から外側で止まってますからね。光は。」

「な、なんだってーー!」

「見たければ少し進むことです。」


 わからん。わからんが…つまり全てを止めるとそういうことに生るらしい。

「しかし、移動もできないのか。困るな。」


「そういう訳で、現状貴方は完全停止をしているため、利点が全く活かせていません。」

「なんてこった!」


「そこで!」

 ん?

「なんちゃって時間停止を教えます。」

「なんなんだ、なんちゃって時間停止とは。」


「停止ではなく減速するものと、減速範囲を決めるのです。」

「ほう…」


「まず、周りの情報を得るのに光は必須です。停止ではなくて減速にしましょう。」

「停止ではなくて減速にするのだね。なるほど」


「停止だと動けませんからね。」

「そうだね。」


「というか完全停止状態で動くと死にます。」

「え?」


「空気の分子と空気の分子がですね重なりあってしまうのです。停止時間に物を移動させるというのは、移動速度が無限大となる事です。物質と物質が完全に重なり合い…核融合が…」

「か、かくゆうごう…」


「まあ、その臨界を超えるのに必要なエネルギーが移動にはかかるから、まあまず人間には不可能なのですが…」

「あ、ああそうだね。」


「さて、そんなわけで時間停止ではなくて、時間停止に限りなく近い減速となります。」

「ふむふむ…」


「ちなみに、先ほど私が行った時間停止は1e-6程度の、程度の低い減速です。」

「それ、10のマイナス6乗…だよね?」

「単位で言うと1μマイクロですね。」

μマイクロかー。」

「まあe-15くらいは頑張らないとね。」

「凄い短いって事だね。」

「あと時間停止は-∞乗だからね?」

「ハハハ…。」


「まあそんなわけで、時間停止者と名乗ってる人は、たいていなんちゃって時間停止です。」

「お、おう。」


「逆の考え方をすると、1e-6では1000倍に加速してる奴の更に1000倍で加速です。」

「あーうん。とんでもないね。」


「まあ自在には出来ないからね。貴方がどれくらいできるかは不明ですが頑張ってください。」

「お、おう。」


「ちなみに、3e-8より減速すると、光がちゃんと見えなくなるからね?」

「え?」

「光の速度が3E+8くらいだと思えばいいからそうなのよ。」

「あー光の速度以上の減速をすると、光が入ってこれなくなるのか」

「そそそ。」

「色々あるんだなぁ」


「んで、さっきも言ったように自分だけが加速状態だと、動くときに空気抵抗とか半端ないですよね?」

「あーそうですね。」

「音速なんて余裕で突破してますし、恐らくですけどこの状態でも核融合イケます」

「え…」


「なので、自分の周囲1mも同時に加速します。

1mを超えるとだんだんと減速していく感じが良いですね。」

「なるほど」


「そうすることで、やっと呼吸も動くことも可能になるわけです」

「ああ!呼吸も不可だったのか」

「そりゃあそうですよ。」


「どうにか頑張ってみるか。」

「はい。まあ練習は後でやりましょう。」


「分かった」

「さて、これで1,2,3を説明した事になりますね。」

「1.時間停止とは、2.なぜ動けないのか、3.なぜ暗い世界に生るのか。うん確かに。」

「さて応用です。」


「ふむ」

「世界を停止できるなら。一部分停止してもいいじゃない!」

「はあ?」


「例えば、ここにA4の紙が一枚あります。これをこう水平にして…時間停止させます。」

 A4のコピー用紙は空中で停止した。そして白い紙が黒くなる。


「コレ完全停止ですからね。」

「あ、なるほど」


「これもなんちゃって時間停止であれば白くなります。見破られないためにはなんちゃって時間停止がいいですね。」

「なんちゃって時間停止良いな。」

「便利ですよね。なんちゃって時間停止。」


「まあこのように、相手だけを停止するのはとても…楽です。」

「世界を停止するよりは確かに楽そうだ。」


「世界停止が10秒の人も、個人停止なら一ヶ月とか余裕ですよ!」

「そうか個人にも使用可能なのか」

「ついでに、空気にも可能。」

「ああ、空中で立っていたのはそういう訳か。」

「そういう事です。」


「いろいろあるなぁ」

「あーあとね。なんちゃって時間停止中は、実際の所無重力です。」

「はああああ!?」


「光すら減速してるんですよ?重力だって減速します。」

「あ、そうか…」


「完全停止なら、がっちり空気もロックされてたんで、無重力も無意味なんですけどね。」

「そうか。」


「重力加速度は9.8 m/s2だけど、これを加速分だけ…割る!」

「え じゃあさっきのなんちゃって時間停止だと、えっと 0.0000098 m/s2って事か。」

「まあ、そうね。」

「動きにくそうだ。」


「実際難しい。けど慣れるとそうでもない。」

「ほう」

「ほぼ無重力下の移動だからね。」


「まあ後は完全時間停止した空気の壁とか良いですよ~。時間停止解いたら衝撃は伝わるけど。」

「うーん?

 あれってさもしかして、時間停止とかした鋼鉄のドアにハンマー何回も打ち付けて、時間停止解除すると…衝撃がすごいことになる?」


「へぇ、良いカンしてるね。そういうのはあるよ。応用とか良く分かってきた感じだね?」

「しかし色々な可能性があるものですね。」


「オススメしたけど時間停止の部分停止はやめたほうがいい。」

「なぜ?」


「ぶっちゃけた事を言うと、地球そのものが動いているから、完全に停止したモノは相対的に見て西の方に吹っ飛んでいき、最終的に宇宙空間に取り残される。」

「え…」


「あー抹殺するにはすごく楽ではあるか。」

「それってなんちゃって時間停止では大丈夫なんですか?」

「ダメかな。だからビルの上で停止してたのは、1μ秒ごとに時間停止をかけなおしてるかな?」

「めんどうなんだな。」

「全世界止めたほうが楽ったら楽よね。自転も公転も考慮しなくていいのだから。」

「自分が止まった時についてる慣性ってどうなるの?」

「あーぶっちゃけ減速数分減少しますよ?」


「だいたい、慣性をそのままにして完全時間停止したら、慣性の法則に従い停止中の空気にぶつかり、ペッタンコになって死ぬわよ。」

「え!?」

「公転で時速30km/sで移動中だった奴が急に止まったらどうなるか分かるでしょう?」

「えーと」

「時速で10万km/h」

「なんでそんな速度になるんだ…」


「ともあれ、色々あるけど世界を停止した際の、世界の中心が自分であり、公転も自転も意味を成さないから大丈夫という事よ。」

「時間停止中は法則も違うのだな。凄いことだ。」

「とりあえず、部分停止は危険と。言うことで」

「わかった。」


「まあ、応用編もこれくらいで良いかな?そろそろ思いつかないし。」

「いえ、ありがとうございました。」


「それで、飛び降りなくても済むようになった?」

「あーどうかな。生きていくだけならなんとかなりそうだけど。社会復帰は無理だ。」

「というと?」

「実はね、為替で失敗しちゃってね。今日中に2億ほど必要なんだ。」

「ふーむ。」


「時間停止があっても2億なんて無理だよね?」

「非合法ならすぐじゃない。」

「え?」


 こうして、時間停止のレクチャーは終わった。


 犯罪行為には抵抗があったが、時間停止があれば余裕でした。

 どうやったかは秘密。

 俺は最強の力を手に入れたのだ!



「あ、時間停止能力ね。世界に10人以上いるから気をつけてね。」

「…え?」


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部分時間停止はとても危険です。ご注意ください。

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