第6話
「さっきも言ったが、ここは、美咲たちが生きてる世界でも、完全な死者の世界でもない。だからこそ、生きてる人間でも、ここに居る存在が手を加えれば、こっちの世界に来ることができる。まぁ、めっちゃ疲れるんだけどな。」
「なら、今すぐにでも私を元の世界に帰せないの?」
何となく、昂がこの時点でそうしてないことに、無理なのかもしれないとは思いつつも確かめたくて聞いてみる。
「残念ながら、ここでは無理だ。この世界に生きてるやつが行き来するには条件がある」
やっぱり無理なのか、それにしても条件ってなんだろう?
「条件?」
そう聞く私に向かって、昂は人差し指をピッと立てた。
「そう、まずは俺たちがこっちに人を呼ぶ為の条件、1つは呼ぶ側のやつが一番思いの強い場所であること。まぁ、要は死んだ場所ってことだな」
言ってることはヘビーな気がするけど昂はさらっと言う
確かに、昂は保健室で亡くなったんだもんね。
「そして2つ目」
昂はさらに指を立てた。
「それは呼ぶ人間のことを生前から知っていたこと」
私は認識できていなかったのに、昂からの生前から知っていたという言葉にまた少しドキッとしてしまう。
違う、違う、昂も沙夜のファンなんだって。
「次に呼んだ人間を帰すための条件、これは1つだ。」
昂は再び立ててる指を人差し指だけに戻すとジッと私を見つめ、神妙な面持ちのまま口を開いた。
「呼んだ場所から帰すこと」
「呼んだ場所って、まさか」
嫌な予感しかしない。
「そう、保健室」
保健室。
やっぱそうなるのか。
まさか、あの保健室にもう一度戻らなくてはならないなんて。
あの男の子はまだあそこにいるのだろうか?
それとも、もうドアを突き破って、どこかで私たちを探し回っているのだろうか?
「ごめん、俺が呼んだせいで」
昂は目を伏せながら苦しそうな表情で言った。
「昂のせいじゃないよ。だって、もともとは私を助けてくれようとしたんでしょ?もしかして、…私あのまま転んでたら実は結構危なかったんじゃない?」
良く分からないけど、私の存在している空間を移動させるくらいの出来事だった事を思うと、そうとしか思えない。
さっきもめっちゃ疲れるって言ってたし。
すると少しだけ目を上げた昂と目が合う。
「そうだな、…あのまま転んだら、たぶん机の角に頭をぶつけて反動でそのまま床に倒れて、…そこに落ちてたガラスの破片が、首に刺さって、…たぶん俺と同じ運命になってたと思う」
「ガラス?」
「あぁ、保健の先生がカートの上にあった消毒液の入った瓶を落としたんだ。すぐにガラスの破片を拾い出したんだけど、拾ってる途中で、校長に呼び出されて、緊急の用とかって言われて出てったんだよ。だから、まだまだ破片が残ってて、美咲が倒れるであろう角度には、まだ大きな破片がとがった部分が上を向いたまま残ってたんだ」
全然気づかなかった。
あの時、一瞬の痛みは覚悟したけど、改めてその事実を知るとぞっとする。
まさかガラスまで散らばってたなんて。
「でも、なんで私って分かったの?」
そういえば、人と思われるものはみんな鮮やかな靄に見えてたことを思い出して聞いてみる。
「人って、みんなぼやけてて分からなくない?あの靄みたいなのって、みんな人間でしょ?」
「あぁ、それは美咲が生きてるからだよ」
「どういう事?」
「俺たち死んでる人間には、生きてる人間もふつうに認識できるんだ。美咲たちは、まだこっちの住人じゃないから、この世界ではまともに認識できるものと、そうじゃないものがあるけど、俺たちにとってはここの世界が常だからな、認識できないものはないよ」
「それで私がわかったんだ。それなら、昂はやっぱり私を助けてくれたんじゃん」
「え?」
「だって、あのまま放置されてたら、私も死んじゃってた可能性が高かったんでしょ?ってことはまだ生きてるのは昂のおかげ、だから、やっぱりありがとう。ってか、今の今まで助けてもらったとしか思ってないし。」
昂に素直にお礼を告げると、昂は何も答えず再び顔を下に向けてしまった。
でも、さっきとは違い、どことなく表情が柔らかくなっている気がする。
もしかしてちょっと照れた?
が、その表情もまたすぐに眉根を寄せて苦しそうな顔になる。
「助けてもらったのは事実なんだから、今は大変でも、そんな責任感じないでよ。」
昂にそう、声を掛けるが「あぁ」と小さく声を出すが額に片手をあて、益々苦しい表情になってしまった。
感謝してるのは本心なんだから、そんなに気負わなくていいのに。。。
どうしたら昂に伝わるんだろう。
昂を見つめそう考えていたら、自分でも無意識のうちに、昂へ向かって手を伸ばしていた。
「ヤバイ!もう一つあった!」
と、昂が突然顔を上げ、大きな声を出した。
その時、初めて、自分が手を伸ばしていることに気づき、慌ててひっこめる。
「やべぇ、俺肝心なことを忘れてた」
昂の顔から、先ほどまでの苦しそうな表情は無くなっていたが、変わりに焦燥感が見て取れる。
「びっくりした、どうしたの?」
「美咲を元の世界に帰すためにはもう一つ条件があったんだよ」
「他にもあったんだ。それで、もう一つの条件って?」
「条件っていうか、タイムリミットがあったんだ」
ただでさえ保健室に戻るということで気が引けていたのに、さらに時間制限があったなんて。
「タイムリミットって、うそ、ちなみにそれ過ぎるとどうなるの?」
すると昂は若干言いづらそうに告げた。
「タイムリミットを過ぎると、…強制的にこっちの住人になる」
「こっちの住人って、まさか…」
「美咲の場合は、体ごとこっちの世界に来てるから、俺みたいに死んだとは思われずに、行方不明になると思う。よく神隠しとかって言われてるやつとかも、ここにいたりするぜ」
「そ・それは流石に困る」
今までも十分怖かったけど、それでも心のどこかで時間は掛かっても戻れるとは思った。
でも、タイムリミットだたなんて、恐怖に加えて焦りも出てくる。
「それで、タイムリミットってどれ位なの?」
「…1分」
「いっぷん?」
1分って、…1分って、もうとっくの昔に終わってない!?
また君に会うために あつまいも @atsumaimo
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