思春期。あらゆるものに色気を感じたあの頃。
否。そうしなければ、生きていけなかったんだ。
大人たちの手によって、ソレは厳重に隠匿されていたから。
それが今ではネットにアクセスするだけで簡単に手に入っちまう。
挙句の果てはスマホでお手軽ぽんだ。
知ってるか?
茂みのなかで濡れた雑誌のガードを解くときのもどかしさを。
知ってるか?
昼はカバーで覆われ深夜にだけ光ることが許された自販機を。
知ってるか?
BS放送でモザイクのかかった肌色に想像を膨らませる丑三つ時を。
僕たちは便利になっただけ、いろんなものを失ったんだよ。
「イックーさん」は僕たちが何を失ったのか、教えてくれるんだ。
※まさかの書籍化! カクヨム、マジですげえな。
レビューを投稿するならこの日、と決めていました。
某仏教大国では日本よりも人気を博した小坊主さんが主人公の名作アニメ。
それを大胆アレンジ、というより根本(こんぽん、ねもとじゃないです)から別ベクトルの作品に仕立てています。
内容はみんながキライではなく、結構好きな――――でも天下の往来では口にしにくいもの。
本作では微に入り細を穿つように徹底した世界観、風俗(エッチなやつ……だ!)時代背景まで見事に一色に染め上げています。
まさに感服の極み。
これを読んでから小一時間あとくらいしたあなたも、賢者のように爽やかで澄み切った笑顔、クリアな視界、明晰な洞察力を得られるかもしれません
(ならない(-_-).。o○0〇
江戸時代の仮名草子「一休咄」を、思い切りお下劣な方向へアレンジした連作短編集です。
この小説はずば抜けたお下劣性に加え、様々な属性を付加させることで、
多くの読者を魅了しているように思われます。
まず、主人公が小坊主つまり少年であることから、ショタコン読者にはたまらない一品となるでしょう。
さらに登場人物は、ほとんど男です。兄弟子、和尚、将軍、商人、
これらの男たちによって美少年である小坊主は否応なくイカされ、
読者はそのイキざまを繰り返し味わうことになります。
男によってイカされ続ける美少年を愛でる……明らかにBLです。腐女子の方にはたまらない一品となるでしょう。
しかし、この小説の深淵には日本人の根幹に関わるモノが潜んでいます。
稚児物語という属性です。
僧と稚児の男色を描いた物語で有名なのは、御伽草子にも収録されている「秋夜長物語」でしょうか。
比叡山の僧と三井寺の稚児のイケナイ關係。契りを結ぶことで悟りに達する僧、桂海。
イクことで賢者タイムを迎えるイックーさんと同じ香りがするのであります。
御伽草子の他の話、浦島太郎や一寸法師は我々の意識に深く根差しています。
ならば、この秋夜長物語とて我々日本人の根幹を成す物語のひとつのはず、
そして、その物語と同じ香りがするイックーさんが日本人に愛されないはずがない、
このように私は考えるのであります。
更に作者の周到な点は、稚児をイカせる側にしたことです。
本来、稚児の役目は相手をイカせること。なのに、この小説では稚児役のイックーさんがイカされてしまいます。
一休咄の面白味は、自分よりも立場が強い相手、つまり和尚、将軍、商人をやり込めることにあります。
無理難題を出され、知恵を絞り、無事解決。それはそれで溜飲が下がります。
しかし、無理難題を出され、その上、イカされてしまったとしたらどうでしょう。
主人公の危機感は数倍に膨れ上がります。絶体絶命敗北必至です。手に握る汗も倍くらいになります。
そして迎える賢者タイム、知恵を出し無事解決。まるでイッたが如き清々しさを読者は感じます。
主人公をイク設定にすることで危機感を増幅させ、その後の満足感も増大させる、
作者の心憎いまでの演出と言えましょう。
どんなにイカされようと決して挫けてはいけない、
何度イキ果てようと、命果てるまで諦めてはいけない、
そんな力強いメッセージを我々に与えてくれるイックーさん。
是非一度ご賞味くださいませ。