3度目のーと

怪獣とびすけ

3度目のーと

「ねぇ夏生、3度目ノートって知ってる?」

 放課後の教室、帰宅準備を粛々と進めていた俺に、幼なじみでクラスメイトの亜子がそう尋ねてきた。

「知らねえよ。何それ」

 亜子とは久しぶりに会話をする。最近は、同じく俺の幼なじみである翔太と仲良く喋ってたからな亜子。ちくしょう。

「そのノートに3回同じ事を書くとね、それが現実になるんだ。3度目に書いた時願いが叶うから、3度目ノート。簡単だろう? あぁ、注意点として、書くのは毎回違う人間じゃないと駄目。3人の人間が必要なわけさ。でも、その代わり願いは何でも叶う。何でも、ね」

「へぇそりゃすごいなー。すごいすごい。で、それがどうした」

「実はこれがその3度目ノートなんだけど」

 亜子が一冊のノートを取り出し机に置く。何の変哲もない、そこらで100円で売られてそうなノートだ。

「……んなファンタジーアイテム何でお前が持ってんの?」

「昨日天使にもらったんだ」

「何言い出してんだこの女こえーっ!」

 いつの間に電波ちゃんになっちまったんだよお前! あの男か? あの男の影響なのか……!?

「その反応は信じてないね。じゃあちょっと証明してあげよう。ここを見て」

 亜子がノートを開く。

 そこには『プリン食べたい』と可愛らしい丸文字で書かれていた。これはどう見ても亜子の文字じゃねえ。こいつはもっと達筆だ。

「夏生も『プリン食べたい』と書いて」

「……まぁ構わねえが」

 俺は言われた通りノートに文字を記し、それを亜子に手渡す。

「私も」

 そう言って亜子も同じ文面をノートに記す。

 と、

「おーい、亜子ー、ちょっと気が向いたからプリン買ってきたよー? 食べる?」

 廊下へ続く扉が開き、教室の外から件の男・翔太が現れた。けっ。

 ――て、プリン?

「うん、いただこう。そこに置いておいてくれ。ありがとう翔太」

「どういたしまして。今日は僕、部活があるから先に行くよ亜子。それじゃ」

「それじゃあ」

 翔太が教室を出て行く。

「なぁ、もしかしてこれって」

「ほら。現実になったろう?」

 ――3度目ノート、本当の話だったのかよ。んなもんが現実に存在するとは、しかもそれがこいつの手に渡るとは。世の中間違ってんな。

 いや、それは一旦置いといて。

「で、何でその話を俺にした? というかお前はこのノートをどうしたいんだよ」

「ふむ。自分でも色々考えてみてね。試しにまずはこのノートを今日一日、図書室に設置されている落書きノートと取り替えてみた」

「凄い事するねお前!」

「まぁ、残念ながら願いは一つも叶わなかったわけだけどね。ほら、これとか惜しかったんだけど」

 亜子がノートの隅を指さす。

 なになに?


『更科夏生しね……。

 更科夏生しねwww』


「次で俺が死ぬ!」

「期待してたのに」

「何で俺が死ぬの期待してんの!? 鬼かお前は!」

「まぁ冗談はさておき」

「冗談で済んでないよな? 俺はこの話もっと掘り下げたいんだけど!?」

「私は3度目ノートをどう使うか考えてみた。金儲け、正義執行、などなど。だが、どれも今ひとつピンと来なかった」

 あぁ無視かよ。ひどいなこの女もう良いや。

「そこで、先程、私は一つの使い道を思いついた」

「……言ってみろ」


「恋する二人が永遠の愛を誓い、それを立会人が現実のものとする」


 心が昂ぶり、全身に熱が巡るのを感じた。

「なんとも素敵な行為だろう? これこそ真実の婚約と言えるんじゃないかな」

 まさか……これは、もしかして?

「だから。ねぇ夏生」

 亜子の顔が近付く。吐息が当たる程の距離だ。

 こいつ、もしかして、俺と…………?


「立会人になって」


「やっぱりね!」

 お前、最近は翔太と仲良かったからね! 昨日も2人で熱く話し込んでやがったし! そりゃそうなるだろうよ!

「駄目?」

 亜子は眉をへの字にする。

「ぁあ? そんなもん他の奴に頼めよ! 俺がんなもん証明するわけねえだろ! けっ! 翔太と末永くお幸せにな!」

 俺の言葉に、亜子は目を丸くする。

 不思議に思っていると――――しばらくして、亜子が「くくく」と声を出して笑い出した。

「からかってすまなかったね、冗談、冗談だよこんなの」

「冗談だと?」

「あぁ、こんな物で人の心を操作しようなんて悪魔じみた所行、私がするわけないじゃないか」

 俺の死を期待してた奴がよく言うな。

「いや、本当にすまない。私も証明したい事があったんだよ。それを知ってから行動に移りたくて」

 ん? どういう事だ?

「不満そうな顔をしているね。……まぁ、これでも見て落ち着くと良い。翔太も案外可愛らしい丸文字を書くんだよ」

 丸文字? どっかで見たような……?

 ――――あ。

 亜子がノートのページをめくる。

 そこには、可愛らしい丸文字と、綺麗な達筆で、文字が紡がれていた。


『更科夏生が、今宮亜子の恋心に気付いてくれますように』


 顔を上げる。

 亜子が、頬を染めて俯いていた。

「……回りくどい真似しやがる」

 俺はすぐさまノートにペンを走らせた。

 同じ文章と、もう一つ。


『更科夏生と今宮亜子が恋仲になれますように』

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3度目のーと 怪獣とびすけ @tonizaburou

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