第44話王国ファスマの騎士
エピローグ 王国ファスマの騎士
霧の無い時代に移り、一年が経とうとしていた。
ユキナに
王国ファスマは、霧を斬り裂ける武器を手に、他国の討伐も手がけ、それにより大きな利益も産み出していた。
その
そこで、イップ王女は正式に
それに、
その日も
手紙で前もって知らされていたが、それを見るなり、キョウは開いた口が
リオの風船だ。
本当に作るとは思わなかった。
全長三百メートルを超える大型の乗り物が、
こんな大きさは、船ですらまだまだ少ない。
城から少し離れた、大きな広場にそれは止まった。
手紙に書かれていた通りに、
中から飛び出してきたのは、もちろんレナ姫だ。
レナ姫は一番に飛び降りると、走ってこちらにやって来る。
髪の毛は短く成っていたが、身長などはあの時とあまり変わっていない。
後ろからはカインの慌てた声も聞こえる。
レナ姫はイップ王女とセリオンに頭を下げると、急いでキョウに詰め寄った。
イップ王女とセリオンは苦笑いだ。
「キョウ、久し振りじゃ。元気にしておったか? 所でリオ姫は
「レナ姫様、リオ姫は引き込もっております」
「引き込もり?」
「はい。それで、レナ姫様が
「そうか、元気で何よりじゃ。しかし、リオ姫にこれを見せたかったのじゃがな」
「リオ姫の事です。直ぐに見て、レナ姫様の
キョウのその台詞に、レナ姫は
そこで、他の者も降りてきたので、キョウは騎士の
皆はイップ王女やセリオンに挨拶を済ませると、必ずキョウの元で長時間足を止めた。
解っていたことだが、これでは誰が
「これは、バーカード殿。このような場所まで
バーカードは相変わらず、背筋を伸ばし、歩いてきた。すぐ後ろにはエドワードが着いている。
「おぉ、リオ姫様の騎士、キョウ殿か。あの時以来だな」
「失礼が有ったあと、お顔を見せずに
キョウは騎士の
「いやっ、なに、こちらも不都合があり、
相変わらず腰は低いが、何を考えているのかキョウには解らない。油断のならない人物だ。
「バーカード殿、止してくだされ。こちらも、リオ姫に
キョウも習い、深々と頭を下げるのを見て、エドワードも頭を下げた。
「キョウ殿、こちらこそ、大人気ない態度に、恥ずかしく思っております。のちほど、リオ姫様にも正式に
キョウは以外だと驚く。
バーカードは
大きく成長したか、以前のリオが
一通りの挨拶が終り、皆はイップ王女に着いていく。
そこでは簡単な
皆は、霧を止めた時の話を聞かせてほしくて、キョウが
キョウはやっと終わったと溜め息を吐いた。
王族や、大臣相手はまだまだ馴れていないし、緊張する。
残ったのは、リオに連れて来るように頼まれた、レナ姫と、護衛兵長のカインのみだ。
やっと心が許せる相手だけに成った。
カインは久し振りの再会に
「キョウ、久し振りだな。身長が伸びたな。あれ以来、法国に寄ってくれずに、寂しかったぞ」
キョウはカインの手を取り頷く。
「えぇ、あれから一度帰るつもりが、結局は帰れず、ずっと王国ファスマに居ましたから。――――あっ、それはそうと、
カインはそこで
「キョウ、お前が成長したのは解る。しかし、俺に対してはもっと気軽でいいぞ。霧を止めたんだ、立場ならお前の方が上だ」
本人たちは解っていないかもしれないが、今や二人はほかの国でも話題されるほどの英雄だ。それにカインはもっと、再会の喜びを分かち合いたかったのだが、キョウはどこか
確かにこの年で、王族や大臣相手の出迎えまでさせられているのだ、緊張は有るだろうが、カインはそれでは不満だった。
そこで、やっとキョウは肩を下げた。それから、周りの例の人物が居ないか見わたした。
どうやら、ご
キョウは重い溜め息をついた。
「………聞いてくれ、この国には悪魔がいる。マグナの野郎、あれ以来、俺を
「マグナって、………最高位の、あのマグナか?」
キョウは頷いた。
「そのマグナだ。勝手に俺の教育係をしていて、言葉遣いを間違えただけで、魔法使って来るんだぞ。信じられるか? 騎士に対して、魔法の矢を放つんだぞ! 本気で首を取りたい奴だ」
どうやら、キョウはマグナの下で
カインは
マグナと言えば、大戦時代からの伝説的魔法使いだ。生きているのも驚きだが、キョウはすごい人物に教育を受けている。
しかも、伝説のマグナから教育を受けているご本人は、
霧を止めることで世界を救って、伝説の魔法使いに知識を習い、すごい人生を歩んでいるというのに、その教え方が厳しいと文句を言っている。なんという贅沢。どれ程の人がうらやましがることか。
「とにかく、あの時の礼がまだだったな。あの時は凄く助かった。いまだにあの船は感謝している。それに、話で聞いたレナ姫様の、王族襲撃事件。レナ姫様、リオの為に有り難うございます。リオに変わってお礼いたします」
キョウの台詞にレナ姫は真っ赤に成った。
「あっ、あれは、その、違うのじゃ………そうじゃ、新しい権限を使いたくてな」
照れ隠しをしているレナ姫に対して、カインはまんべんな笑顔を作った。
「だろ? うちの姫様も中々遣るだろ。あの時は格好良かったぞ」
カインは
最近は
「とっ、ともかくだ、キョウ早くリオ姫に会わせるのじゃ!」
あまりに
キョウは騎士の
そして、キョウは一度だけ振り返り、現実と成った、リオの風船を見つめる。
「でも、あれって、あの時のリオの言ったやつだろう? よくあれだけの言葉で、作る気に成ったな」
「あぁ、お陰さまでな。レナ姫の光栄ある一歩だ」
カインの言葉に、レナ姫は得意に胸を張った。
「あれはまだ試作機じゃ。本来なら、あれの三倍大きくなる予定じゃ。名はそのまま、リオの風船にした」
「リオの名前を付けてくれたのか、レナ姫様は
キョウの台詞にレナ姫は
レナ姫からして、リオは一番の友達であり、一番の競争相手だ。リオより凄いと思われたら嬉しい。
しかし、カインはキョウの台詞の裏に何か有ると感じとったが、今は口を出さないでいる。
キョウは二人を城に案内するため、メインロードを歩いていく。
あれほど
「町は
「あぁ、見てわかる通り、道の整備から始めている。予定ではメインロードは二つ作られる予定で、東にもう一本有るんだ」
「二つも? 無意味なんじゃないか?」
「いや、今後は必要だとリオがな。何でも、一方通行の道にするとか、それに、まずは下水道の設備に時間を食ってな。
キョウは興味無さげに話している。
カインも解らずに「そうか」と答えているが、レナ姫は
最近はレナ姫も国政を勉強し出しているので、その意味が解った。
どこの国でも、下水道は城にしかない。町の中には
それは、下水道の
一度、
しかし、近年、
王国ファスマは、法国の大臣達からすれば、
「――――凄いな」
キョウとカインは、レナ姫の思わず出た一言が解らずに、不思議に顔を見合わせた。
「所でキョウ、一度ぐらいは国に帰らなくて良いのか?」
現在はキョウとリオは正式に王国ファスマの人間だ。しかし、生まれ故郷に親も友人も居る。
カインはキョウやリオを思いやり、そんなことを口にした。
キョウは男だし、十七歳だ。勝手に家を出てもそれほど珍しい歳ではないが、リオは十三歳に成ったばかりである。どういって出て来かのかは知れないが、親は気が気でないだろう。
「あぁ、近々一度戻ろうと考えているが、リオの準備が進まなくてな。手紙だけは
キョウは疲れた顔のまま答える。
カインは納得したように頷いた。
キョウは二人を連れて、城に入ると、そのまま最奥地に当たる、あの部屋に連れていった。
あまりにも城の奥に進むので、カインは少し
レナ姫は待ちきれないように、扉を開けると、すぐに中に駆け出した。
二人は止めずにその様子を見守った。
ドーム状の広い部屋に、巨大な建造物。
その巨大な建造物の前に机が置かれ、いくつものノートパソコンが並べられている。
周りには、ソファーや食事用の別のテーブル、本棚にベッドまであり、ゴミが散乱していて、ごちゃごちゃとしている。ここで、生活しているようすが
「リオ姫!」
レナ姫は叫びながらリオに向かって走る。
リオは眠そうに顔を上げて、レナ姫を見てから、頭をひねった。
「レナ姫? あれ? レナ姫が来るのは二日後のはずだよね。早く無い?」
レナ姫はもうすでに、涙でグチャクチャだ。
「リオ姫! 良かったのじゃ。リオ姫は私との約束守ってくれた!」
「だから言ったでしょ、私にも考えがあるって」
「じゃが、心配しとったのじゃぞ! 忙しくても、一度ぐらい顔を見せよ! 友達じゃろ!」
レナ姫は涙を流したまま、リオを責めている。そこまで心配していたのだろう。
「心配させてごめんね。でも、私は約束を守ったから、次はお願いね」
「あぁ、約束を果たしに来たぞっ!」
レナ姫の本気の言葉に、リオも顔をほころばし、抱きしめる。
「うん。有り難う、レナ姫!」
「あぁ、任せよ! 何でも言って………」
レナ姫はそこで
抱き付いていたので、レナ姫には良くわかった。
「くっ、臭いぞリオ姫! お主、ちゃんと風呂に入っておるのか!」
「えっー? ちゃんと入っているよ。昨日はちょっとアレだけど、一昨日は………あれ? キョウ、一昨日はちゃんと入ったよね?」
「リオ、残念ながら四日前だ」
リオの少し頭をかかげた問い掛けに、キョウは残念そうに答える。
リオにしては、ここ二日ほどの記憶は、
それほど集中していた。
「ともかく、レナ姫が来てくれて良かったよ」
リオの言葉にレナ姫が喜ぶ。
「そうかの? まっ、あの時の約束じゃ、何でも言え私は手伝うぞ! ………とっ、その前に見ぬか、リオ姫の風船が出来上がったぞ! 未々試作機じゃか、中々の出来だぞ!」
「いや、また後ででいいよ。時間が無いし」
リオはすぐに
「そ、そうか? 中々格好が良いのじゃがな、船より早いし
「うん。また後でね」
早く見てほしいレナ姫は、色々と説明して、リオに興味を持たそうとするが、再度リオはすんなり断る。
「あれなら、乗ってもいいし、動くよう言ってみるが………」
「また今度にするよ」
「………そうか」
レナ姫は
その間にキョウとカインは建造物を見上げていた。
「凄いな。………キョウ、これはなんだ?」
「あぁ、空間輸送システムだ」
「空間輸送システム? なんだそれは?」
カインは聞いたことの無い名前に、嫌な予感がした。
「あぁ、霧が発生した
キョウは簡単に答える。
「
「そうだ。あの時は大変だったぞ。法国の兵士はやって来るし、
キョウは思い出してか、顔をしかめた。二度と味わいたくない体験だ。
カインは法国で、その話は聞いていた。
「あ、ところでデルマン皇太子はどうした? あの後、ローランド法王が探していたが見つからなかったろ?」
現在はローランドが法王を
「あぁ、法国にも戻らなかった。霧に乗っ取られたか、どこかに身を隠したかだろう。だが、法国に戻ってきても、皇太子は
キョウは頷き、デルマンを思った。
彼は自分の
キョウの考えが解ったのか、カインは首を振る。
「しかたないさ。あそこまでの騒ぎを起こしたんだ、自分でも解っていただろう。………それよりキョウ、これが霧を発生させた装置なら、俺達、別の国の人間が見たら不味くないか?」
キョウはすんなりと頷いた。
「あぁ、国内でも一番の
キョウは嫌なニヤケ顔をした。
カインの予想は当たっていた。この二人はまだ何かを
キョウとカインが空間輸送システムの話をしている中、リオは思い出したように頷いた。
そう言えば手紙に書いてあったお祝いを言っていない。
「それより、おめでとう。えっと、レナ第三姫になったよね?」
その台詞にレナ姫は溜息を吐いた。
デルマンが
ローランドは法王を
ローランドはレナ姫を押した。
王族の集まる会議で、あれほどの
しかし、自分の
「リオ姫こそ、王国ファスマの第二姫ではないか」
その台詞で、リオは今気づいた様子に「そうだねー」と、
「番号なんていくらでも良いじゃない。だって、どの道、私もレナ姫も意味ないから」
リオの言っている事はよく解らないが、確かにレナ姫も番号は気にしていない。
「ともかくだ、何を手伝えばよい? 何でも言ってくれ」
レナ姫はしばらくの間、その言葉を呪うことと成る。
「うん、じゃ、始めるけど、レナ姫は時間有る?」
「あぁ、リオの風船も
レナ姫の答えにリオま満足気に頷く。
「良かった。じゃ、レナ姫、まずは、これを二週間以内で覚えてね」
リオから渡される分厚い紙束を、レナ姫は両手で受け取り目を白黒させた。
まずはの意味が解らないし、紙に書かれた内容は、見たことのない文字だ。
「二週間? なんじゃ、これは?」
「向こうの言葉。それが解らないと、次に進めないから、早目にお願い。その次はパソコンね。最低でもブラインドタッチまで覚えてもらう。一ヶ月以内で覚えて欲しいから、寝てる時間はないよ」
リオは得意気に答え、レナ姫は戸惑う。
リオが手紙で
しかし、今の内容を聞けば、
「えっ? えっ?」
「リオ、ちゃんと手紙に書いたのか?」
「書いたわよ!」
と、強くいってから、不安になったのかレナ姫に
「書いたよね?」
「書いとらん!」
レナ姫はジト目でリオを睨む。
カインは慌てていた。
「おいおい、法国の大切なお方だぞ、無理はさせるな」
しかし、カインのその願いは
リオの
約束の日時は
二か月後。
空間輸送システムの前に人々が集まっていた。
リオにキョウ、レナ姫にカイン。そしてイップ王女にセリオン、マグナ。
少人数で護衛は立てていない。
「いよいよだね」
リオがうれしそうに、キョウに振り向いた。
「あぁ、本当だな、ユキナ元気かな」
今から、リオがしたいことの一歩が始まる。
まずは空間輸送システムを、完全に開けるのである。
イップ王女は再び反対したが、安全だと主張する、リオの詳しい説明を、理論を交えて一週間休むことなく聞いた。
わざと難しく教えたのだろう。イップ王女は途中で音を上げた。
さすがのレナ姫も、悩むことが多い理論だ。この世界では今のところ、リオしか理解していない。
「じゃ、レナ姫お願いね」
「あぁ、解っておるが、本当に心配はないのかのう?」
ノートパソコンの前にはレナ姫が座っている。彼女は開ける係らしい。
「大丈夫! 失敗したら、レナ姫のせいだから、私に問題は無いよ」
「私が大丈夫では無いであろう!」
しっかりしたプログラムの時間が取れたのだろう。余裕から来た冗談だ。
リオは笑った。
「大丈夫、私を信じて」
「解っておる。私もプログラムは打った。成功するに決まっておる」
「うん。じゃ、レナ姫、始めて」
レナ姫の短い指がキーボードをリズムよく叩く。
リオのしたいこと。
レナ姫や色々な学者を集め、共にユキナの世界で、知識を
リオはそれを持ち帰り、こちらの世界で作り、いずれは、ユキナの世界に追い付こうとしている。その第一歩だ。
それはイップ王女の
王国ファスマ再建国もそうだが、これこそが、イップ王女の遣る事だと、リオは思った。
「リオ姫、パスワードを頼む」
万が一のため、パスワードはリオしか知らない。
「うん、パスワードはラズベリーブルー!」
リオは元気よく答えた。
ラズベリーブルー オトノツバサ @otonotubasa
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