第38章 アラヤドタワー
(アラヤドタワー ガーディアンフェザーオフィスエリア 休憩エリア)
希達は不自然にならないように気をつけながら、休憩室に常設の自動販売機で、以前月光タワーの蛭子戦で買った物を同じ飲み物を、デイライト側の普通の通貨で購入した。
希が微糖コーヒー、テンニャンが無糖紅茶、リキュールがサイダー、スイートが100%果汁ジュースのオレンジ、黒崎が暖かいお汁粉、蛭子が暖かいコーンスープだった。
各自、職員が誰も座っていないテーブルの椅子に腰掛け、とにかくスマホを眺めて、文恵からの連絡メッセージを読んでいた。蛭子は黒崎のスマホの画面を、「何々?」のような感じで横から見ることにした。
***
スマホの画面「黒崎さんや蛭子さんは、少しだけは、ここの“構造”を知っていると思うし、ここからムーンライト側に堕とされた望も、“一般エリア”、だけは少し知っていると思うけど、他の面々と合わせるために、1から説明します」
そう、希は、ここの45Fにある“展望台”で、ウェイトレスで元カノジョの“美佳”と夜景を見たことがあるのだ。黒崎と蛭子は出張で、ガーディアンフェザー側のエリアに入ったこともある。なので、詳細に知らないのは、テンニャン、リキュール、スイートの3名となる。
***
スマホの画面「B1FからB3Fまでの地下エリアは商業区だけで、ここから貴方達が侵入するルートから外れるから、無視で良いです。1Fはエントランスだけど、ガーディアンフェザーの職員と、望が利用した事がある展望台利用の一般客では、入れるエリアが分かれています。貴方達がこれから進むエリアは職員専用で、一般のエリアに入る事はないです」
希もそう言われて、よく思い出してみた。あのとき美佳と一緒に展望台に行くためにココを訪れたとき、地下のあの改札も、1Fのセキュリティ厳重な入り口も、通ったことがなく、一般用のオープンな別の玄関から持ち物チェック程度のセキュリティで入って、こんなエントランスに入る事無く、別のいかにも一般が使いそうな観光的な作りのエントランスを抜けて、1機だけの観光向けの大型高速エレベーターで、一気に45Fの展望台に到着して、それで夜景を眺めたのだった。
スマホの画面「貴方達がこれから乗るエレベーターは、“右棟1F-32F”、という32F直通のエレベーターです」
黒崎はここで?となった。そういえば出張でここに来た時に使うように案内コーナーで教えて貰ったエレベーターは、“右棟1F-16F”の直通では無い普通のエレベーターであり、実際オフィスは10Fにあったのだ。
蛭子も同じだった。説明されて乗ったエレベーターは、“右棟1F-20F”の同じエレベーターで、オフィスは20Fにあった。
どちらにしても、21F~32Fまでの階には、立ち入ったことが無かった。
スマホの画面「ざっくり31Fまで説明します。私達には関係ない、“ガーディアンフェザーの一般職員のオフィスです。彼らは、なんらガーディアンフェザーの”闇の部分“を背負う部署には勤めて無くて、普通に政府と繋がりながら、統治を行う職務に就いてます。間違っても、1Fから31Fには立ち入らないように。無駄な疑いをかけられる機会を作るわけにはいきません」
希はスマホの会話の欄に、“わ、わかった。32F直通エレベーターだね”、と入力した。向こう側の文恵も安心したのか、話を続けた。
スマホの画面「それと望ももっと深く思い出すとわかると思うけど、一般が入れる“ツインタワーの左右の棟”は、左だけです。右側には展望台も入れるスペースもないです。つまり、ガーディアンフェザーの“核心部分”は、左右の棟に別れている分岐点の階である“32F”からスタートします」
全員ゴクリと鍔を飲んだ。どうやら、そこからが“ラストダンジョン最深部”なんだと…。
スマホの画面「最終目的地は、今頃、草薙と共にいるだろう“ver.2.0”が陣取っている最上階の“右棟48F”です。ですが、32Fから上へ進むためには、各階に一部屋だけ用意してある“幹部の執務室”で許可を取っていかないと、次の階に進む階段へ通してくれない仕組みになってます」
黒崎もさすがに冷や汗がたれた。なんたる異常なセキュリティだ。執務室に入るのにはカードキーなりなんなり必要だろうが、上へ進むために、わざわざ幹部の許可を取り続けないといけないとは、これでは業務など出来るレベルではない。
そうか! “業務”ではないのだ。もはや32Fから上は、“それ自体が全て闇の部分”であり、関係者や許可が下りた連中以外は全て排他する、そういう場所なのだ。だから、黒崎や蛭子ですら、立ち入るどころか存在すら知らないエリアなのだ。
スマホの画面「それと、信じられないかもしれませんが、ここの関係者以外、ここに立ち入るような事がないため、ここの階を取り仕切る幹部が、ガーディアンフェザー内部の職員でも侵入者でも、不審に思った場合、問答無用で始末されます。侵入者は片付けられるし、職員は自然な理由を付けられて片付けられます」
希は思った、異常である…。例えば新入社員だったとして、何らかの間違いで32Fに入ってきてしまって、執務室で謝ろうと入ったら、始末である。それくらい、32Fより上の右棟は、闇だらけ、なのだろう…。
スマホの画面「32Fの執務室にいる幹部は、スイートさんの仇敵である“発電事業部部長の『武井 三日土(たけい みかづち)』”」
スイート(!!!!!!!)
スマホの画面「それと秘書の・・・・・なんというかスイートさんには重ねて申し訳ないと思いますが、あなたのver.2.0です」
スイートはスマホの会話の欄に“一石二鳥で手間が省けた”と入力した。
スマホの画面「それから先の事は32Fのこの二人を撃破し、管理者不在による“セキュリティ解除”が終わってから、また連絡します。では、ご武運を」
希は終わる前に、速攻で会話の欄に“その二人の特徴は? 戦闘に役立てたい”と入力した。すぐに回答が帰ってきた。
スマホの画面「たぶん、武井に関してはスイートさんが全部知ってます。スイートさんのver.2.0に関しては、“スイートさんそのもの”です。むしろこの秘書に関しては、私でもよくわかりませんが、彼を管理管轄している草薙の“アップデート管理部門“と、赤穂などが属していた”秘密兵器開発ラボ“が繋がっているのなら、今頃、データのある”限界突破銃“のコピーを開発し、彼に持たせている可能性があるので、基本、スイートさんと同じと考えるべきです。その上で作戦を立ててください」
そのメッセージが表示された段階で、スマホはスタンバイ状態になった。
全員“言葉に出せない”ため、黙って心の中で呟いていた。
スイートは複雑な思いだったが目的の1つはここで達成出来る安心感もあった。自分のver.2.0と戦う事は、ムーンライトエリアに堕とされた段階でよくわかっていたし、必ずやり遂げる事でもあった。だが、自分の銃と同じ属性だろうヤツの武器と戦うためには、そして“電撃の武井”と戦うためには、
(仲間はやはり必要だった)
改めて、みなで来て良かったと思った。
***
(アラヤドタワー ガーディアンフェザーオフィスエリア “右棟1F-32F”エレベーター前)
監視はあるのだろうが、セキュリティはなかった。つまり、
『内部の者なのだから、このエレベーターの先がどういう管轄なのかぐらい、保身のためにも知っておけ』
の意味合いなのだろう。知らないで迷い込んだ者は、内部だろうと侵入者だろうと、32Fの武井とver.2.0に、始末されるのだ。
***
(アラヤドタワー32F ガーディアンフェザー幹部エリア “発電事業部”)
32Fで降りると、正面の扉の横に、ルームナンバーと管理者の名前のプレートが貼ってあった。
『3201発電事業部 執務室
管理者 部長 武井 三日土
秘書 金 志久波田』
***
秘書の名前は、スイートの本名“金 志久波田(キム シクハダ)”のままである。Ver.2.0の表記すらない。正に、自分は本当にver.2.0に乗っ取られたのだ、そう“この1枚のプレート”だけで実感した。
スイート「やっとここまで来たぞ…武井、ミュンサの敵、ぬかりなく完遂させてもらう。そして、ver.2.0、テメーだけは落とし前を付けさせて貰う…」
スイート以外の全員が思った。あのクールで丁寧な言葉使いのスイートから発した言葉とは思えなかったからだ。それだけ、内心、憤っていたのだろう。
***
トントン
スイート自らがドアをノックした。
武井の声「入りたまえ」
余計な事の荒立てをしないために、全員静かにドアを開け、おどおどせずに、執務室に入っていった。
***
(アラヤドタワー32F ガーディアンフェザー幹部エリア “発電事業部” 執務室)
中は武井の机、秘書の机、棚がある程度で、それほど広くない。他の職員の机は、確かにない。
とても32Fで1つしかない部屋とは思えない作りだった。
武井「ドアを叩いた者だけでいい。名前と部署と用件を願いたい」
スイート「名前はスイート、部署は喫茶店『vona』のパティシエ、用件は、オマエラ二人を始末して、上に行くためにきた」
仲間全員、戦慄した。おいおい、である。何のためにこんなスーツを来て、怪しまれないようにきたのか…。
だが、相手は動じなかった。
武井「…。金の旧式か。顔付きで理解した。あの地下街のテロ事件にしても、美佳からの連絡にしても、ラボからの報告にしても、そういう事か…。全く、統治のためとはいえ、ムーンライトの連中にこんな力を与えたのは、やはり失策ではなかったのか? 草薙よ…」
スイートver.2.0「武井様、どうしますか? いつもの通り、不審者は始末しますか?」
武井「いつものように、ではなく、“サヴァイバリング”で片付ける。スマホをタップして主催者に『サヴァイバリング開始承認』をさせて開始してくれ」
スイートver.2.0「御意」
スイートver.2.0は自分のスマホをタップすると、執務室は大きく外側に展開して机などは収納され、まさにバトルフィールドに変貌した。
スイート「そのための“1階一部屋の執務室”なのか、いいだろう、面白い」
そして、デイライト側のサヴァイバリングの開始の通り、あの“主催者”が再び登場したのだった。
***
主催者「久しぶりだな、おまえら。まさか次のサヴァイバリングが、武井様と秘書の試合だとは、思わなかったぞ」
武井「それはいい。今回は観客の掛け金以外に、お互いに出すべき物をだすことにする」
スイート「そうだろうな」
武井「こちらが提案した物を飲んで貰う。意味はわかるな? オマエラの始末は、最悪、ここの職員による社会的抹殺でも構わないのだからな」
スイート「いいだろう、さっさと言え」
武井「こちらの出すカードは、上層階への階段のセキュリティ解除、これは我らが生きていた場合、約束として受け入れよう。死亡の場合、強制的に解除される。安心しろ」
スイート「で、俺たちが出すカードは?」
武井「無論、オマエラ全員の命、更に、全財産をサヴァイバリングを通して没収だ」
希「まぁ、全員死亡なんだから、全財産没収でも、それほど悲劇的になるような条件ではないな」
スイート「いいだろう、条件を飲む。そもそも負けて生きていられるなど、これっぽっちも思ってない」
武井「そういうことだ。掛けを行うのは、観客だけでなく、我ら自身でもある」
主催者「試合形式はいかがしましょうか?」
武井「当然同人数だ。旧式、さっさと二人選べ。残りには我がデイライトガン“雷撃銃『トールメント』”の弾丸が作る“雷雲”を上にかぶって貰う。仲間二人の死亡と同時に、致死量の電撃を無条件に受けて貰う。逃げても能力“ホーミング”で追尾して確実に電撃を落として死亡させる」
***
スイートは実は、まだ頭に浮かんでいる策を纏め切れてなかった。問題なのは武井のトールメントだけでなく、むしろ自分のver.2.0のデイライトガンがなんなのか、だ。
スイート「すまんが、3分待ってくれ」
武井「やむない。フェアにするため、主催者、測ってくれ」
主催者はスマホのタイマーをかけ、シンキングタイムの3分が始まった。
スイート(二人、か。私は強制。問題は相棒を誰にするか、だ…)
運命の3分である。
デイライトガン&ムーンライトガン えなりん @takaenarin
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。デイライトガン&ムーンライトガンの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます