第37章 ラストダンジョン潜入
装備品の受け渡し、目的、注意等、一通り説明が終わり、最後に文恵が黒崎と蛭子以外の全員にスマホを取り出すように言った。
文恵「それと私との連絡手段だけど、スマホでこのQRコードを読み込んでね」
全員、文恵が差し出した文恵のスマホに表示されていたQRコードを読み込むと、とあるHPが表示された。
希「ん? “ファッションブランド STAR”って、確か、ここの店名だよね?」
文恵はうなずくと、説明を続けた。
文恵「その一番上の“商品検索バー”に、この紙に書かれた暗号を打ち込んでね」
そういうと文恵はテーブルに、とある文字列が印刷された紙を置いた。どうやらこれだけはスマホなどに入れておくわけには行かなかったようだ。
全員が紙とスマホを交互に観ながら打ち込んで虫眼鏡アイコンをタップすると、お店の画面が消えて、アプリが1個ダウンロードされた。
文恵「そのアプリが、私と貴方達だけしか通信できないアプリです」
希「か、かあさん、これはいくら何でもオープン過ぎだと思うんだけど…」
文恵は首を横に振った。
文恵「望、ムーンライト側のスマホの中に、貴方達しか入り込めないSNSがあったわよね?」
希「え? ああ、それを使って、これまでのガンナー戦を戦ってきたんだけど…」
文恵「それと同じ原理。ガーディアンフェザーでもそのスマホに深く入り込めないし、使うのは相当アンダーグラウンドな領域でのデータ通信と通話。当然やりとりは暗号化されます。安心して」
黒崎「なるほど、だから私と蛭子のデイライトエリアのスマホには対応してないのか」
門司「黒崎君のデイライト側のスマホは既にこれまで使っていた方法があるので、それを使って欲しい。蛭子さんに関しては連絡方法がないので、黒崎君経由で連絡を受け取って欲しい」
蛭子「わかりました」
希「これで、最後の準備は整ったか」
文恵「いえ、所謂“ラストダンジョン”に向かうパスと服を渡します。着替えは奥の部屋でお願いします」
全員「え?」
門司「全員、ガーディアンフェザーの幹部とガンナー達に大まかな姿がばれており、ムーンライト側はパスが無い。黒崎君と蛭子さんのパスは使用不可になっている。このままでは入れもしない」
希「あの、母さん、そもそもラストダンジョンって、どこなの?」
文恵「この上、アラヤドタワー全部よ」
全員、がくっとなった。“灯台もと暗し”とはいえ、こんな近くに敵の本拠地があるのに、なんでガーディアンフェザーは見つけられなかったのか…。
内情を知ってそうな黒崎と蛭子すら、意外に思ったのは、黒崎も蛭子も別の場所がオフィスであり、本部だと思っていたからだ。どうやら、黒崎や蛭子ですら、『本当の本部』には入れて貰えなかった、そう解釈するしかなかった。
いずれにせよ、ver.2.0にしても、ガーディアンフェザー幹部にしても、この上のツインタワーにいるのである。
文恵「まさに“灯台もと暗し“なの。自分の根元を探すって、実はやらない事なのよね。自分のセキュリティへの過信があるから。それに信頼がある根元を探すって、統治に結構響くの」
スイート「そ、それにしても、この建物のスキマのエリアがわからないはずが…」
門司「あ、ここ、ガーディアンフェザー側のサーバーにある地図では“ない”事になっている。測量データを改ざんしてあるから。当然文恵と私の個人データも全て変更しておいた。よって何が我々のターゲット物質や人物なのかわからない状態で、衛星データから割り出すのは無理だからな」
希「ま、まぁ、色々ツッコミどころ満載なんだけど、それは横に置いて、パスを使う所って、そもそもどこなの? まさか、地下1Fの地下鉄の専用改札口から、どうどうと入るとか…」
文恵「ご名答です。職員の服に着替えて、ここから地下鉄に乗って1個先の駅まで行き降りてから、このパスで改札を通り、この駅に戻り、タワー関係者専用の改札をこのパスで通る事で、地下改札からタワーに入れるの。電車を使わない組は1Fの厳重なゲートをくぐらないとだめなんだけど、このパス1個でそのチェックを受け持っているわけ」
希はある意味感心していた。ガーディアンフェザーのセキュリティはいろいろ不思議だった。
文恵「1個前の駅の改札をパスで通る時は、単なる切符扱い、この駅の専用改札を通った時だけ、“職員専用信号”をパスから読み取って改札が開くの。当然間違って普通のパスで通ろうとすると遮断機が下りて、警備員のガンナーが駆けつけて、詰め所に連れて行かれる。通勤時間帯の簡便なセキュリティという事ね」
テンニャン「なら、職員の服はいらないと思うアル」
門司「それが横の詰め所の警備員が、一応目を光らせていて、二重のチェックはしているの。ただ、観ているのは服装だけだから、大丈夫だ」
希「なんというか、便利なチェックなのか、合理的過ぎて穴だらけなのか、よくわからないが、とりあえず助かった」
文恵「では、皆さん、奥で着替えてね♪」
そういう事なので、奥で全員が職員の服に着替えて、パスを受け取り、銃器に関しては、ムーンライトガンはルシフェリオンに戻して、職員のスーツの懐に収めて置いた。
文恵「あら♪ 全員似合うじゃないの♪」
全員がお互いを見合って、品定めしていた。
黒崎「ははは、私はほとんど同じですけどね」
蛭子「スーツは久々ね」
スイート「オレとリキュールは、職場服とあんまり変わらないな?」
リキュール「そうね」
テンニャン「なんか、マフィアーな感じでわくわくするアル♪」
希「マフィア…」
文恵は最後に全員にサングラスを渡し、一応かけておく事を指示した。
文恵「見た目はスーツだけチェックするけど、顔付きもサングラスで隠して置いた方がいいわ。黒崎を観ればわかるけど、黒サングラスをかけている方が、チェックが甘いの」
希「ははは、“普通”とは違うって事ね」
テンニャン「黒服と黒サングラスがデフォアルね」
携帯品は当然潜入なので、最低限で一般的な物だけになり、最後にパスをポケットに入れて、準備が整った。
***
文恵「望…。相手は“消す能力”のガンナー。十分気をつけてね」
希「母さん、必ず片付けてココに戻ってくる。そして、ムーンライトエリアに戻って、ぬこみんに会いに行く!」
門司「その意気だ」
希「では、行ってきます!」
文恵「連絡は都度入れます。スマホのバイブレーションには気をつけて置いてね」
***
こうして、一行は“地図に無いエリア”を抜け、服屋のバックヤードに戻り、店を出て、パスで改札を通り、地下鉄に乗って1個先の駅まで移動し、改札を出てから、再度パスで反対側の改札を通り、地下鉄で再び、アラヤド駅プラットホームに戻った。
***
希「さて、ここからが本番だ。“専用”の改札を抜けるのが、まず最初の難関」
スイート「本当に、一般だと思う人達はここを避けている」
リキュール「常態的に知っているのね」
テンニャン「ある意味、ここ、危険地帯アルから」
一行は“その”改札をパスで通ってみた。
警備員「ジロ」
希(頼む…)
警備員は1回希達をみただけで、また目の前のモニターに目線を戻した。
「はいどうぞ」という事がすぐわかる態度だった。
希(セーフ…)
***
(アラヤドタワー ガーディアンフェザーオフィスエリア エントランス内部)
希「遂に潜入出来たか…」
そこで希のスマホのバイブレーションがかかった。文恵からの連絡である。
スマホの画面「奥の右横の休憩エリアに移動して。トイレは逆に監視が強めだから。休憩エリアは職員の休憩場所で監視が甘いの」
希は画面の送信エリアに書き込んだ。
送信エリア「え? だって、職員他にいるよ?」
スマホの画面「いそいそしい挙動は厳禁! 自販機で飲み物を買って。休憩エリアの奥のテーブルに全員座って、談話しているフリをしていて。それが一番の安全策!」
希はこういう感じのスニーキングも、そういえば昔の映画にあったのを思い出した。
送信エリア「わかった」
そういうと一行は1Fエントランス奥の休憩エリアに入っていった。
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