純文学風味の短編ミステリーです。
そういうわけで作品ジャンル、尺、構成要素が上手く噛み合うのか少し心配しながら読んでいましたが、ただの杞憂でした。尺の都合上、やや駆け足っぽく見えたものの、それ以外は綺麗に収まっていた印象です。丁寧な情景描写に、ウィットに富んだ一人称の語り、映画を思わせる軽妙な台詞のやり取りなど。そうした作者様の持ち味も、最大限に生かされていたと思います。
その他にも、時事的な内容や社会問題を取り上げていたのは面白い部分でした。投稿されたのが少し前の作品ということで、今を生きる人にとってはある意味、定着してしまった事象も含まれますが、そうした人々にとっては当時の風俗を知ることができて新鮮かもしれません。明確な起承転結や勧善懲悪を好む方は拍子抜けする恐れのある作品ですが、純文学の趣を期待する方は読んで間違いなしの一作です。