少女
みのり
少女
玄関チャイムが鳴ったので出てみると
いかにもな美少女が立っていた。
最初、どこの誰かわからなかった。
が、話してみると、同じマンションの住人。
ああ、そう言えば、こんな子いたな。
賃貸で借りている母子家庭の娘さんだった。
閉鎖的で非常識、いろいろ問題多く
ルール違反のゴミ出しを注意したことがある。
未払いのペナルティ金や集団清掃の欠席代が
いくら溜まっているのか知りたいらしい。
金額を教えてやり、ただし、気弱なオーナーが
代わりに払う手配になっている、と伝える。
それを聞くと、彼女は帰ってしまった。
今さら、なんでそんなこと尋ねるわけ?
納得できず、首を傾げるばかり。
中一日おいて、また彼女がやって来た。
今度は、そこそこの美少女。
服装からして一昨日より地味、表情も暗い。
「すみません。お願いです。お金貸してください」
ああ、そういうことか。
友だちと旅行する予定なのに費用が足りない。
母親に頼んでも出してもらえない。
前回は恥ずかしくて、言い出せなかった。
しかし今日、とうとう切羽詰まった、らしい。
いくら断っても、お願いを繰り返す。
むげに断ったら何するかわからない感じ。
物騒な時代の危険な年頃。
どうにも致し方ない。
仕事代が入るという一ヶ月後に返す口約束で
望みの諭吉を一枚だけ手渡した。
すると、美少女は飛ぶように消え去った。
そして、期日過ぎても連絡すらない。
貸して戻らぬ過去の暗い記憶がよみがえる。
日中に呼び鈴を繰り返し押せど、無反応。
ヒキコモリに近い印象ゆえ、おそらく居留守。
期日を一週間過ぎて、さすがに切れた。
母親が在宅であろうと知ったことか。
夕暮れの窓に室内の照明を確認し、呼び鈴を押す。
インターホンに母親が出た。
用件を伝えると、何も知らない彼女は驚く。
ドアが開くと、やせた女性の驚いた顔。
東南アジア系かと思われる異国の顔立ち。
美人と呼べそうだが、ほとんど贅肉ないため
頭蓋骨を連想してしまった。
娘も在宅しており、ひとしきり口論が飛び交う。
「なんて恥ずかしいことするの!」
「だって、旅行に行くお金なかったから」
そのうち実の娘をこちらに押し出す。
「私、関係ない。あなた、娘に怒ってください」
そんなこと言われても困る。
「でも、保護者として責任あるはずでしょ」
どういう言い訳が返ってきたか忘れたが
ともかく、母親にも払う余裕なさそう。
結局、どうにもならない。
捨て台詞に、お金でなくてもかまわないから
相当するものを来月中に届けるよう、伝えて帰る。
もう約束ではない。
遠慮がちな命令である。
で、ある日の夕暮れ、母親が娘を連れてやって来た。
「この子、あなたの好きにしていいです」
少女 みのり @yoolo
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