第7話 連打侍
その昔、ゲームの達人がいた。
彼はもの凄く連打が速かった。
連打が速い者はそれだけでヒーローだった。
一秒間に十六回連打できる男は名人と呼ばれ、
一日警察署長にまで上り詰めた。
連打ブームのあの頃、連打の速度を計る機械が売り出されたのは必然だった。
おれも連打が速かった。
あの頃、おれはヒーローだった。
休み時間は連打大会。
教室には隣のクラスの奴らまで集まって、
連打する奴を囲んで固唾を飲む。
おれがプレイするのはいつも最後だった。
他の奴らが必死こいてノロい連打をするのを
少し離れた位置から静かに見守っていた。
新手のスタンド使いのような目をして。
毎回おれが一位。
自己ベストを塗り変える度に歓声が上がる。
それから三十年の年月が流れた。
リサイクルショップのジャンク品、
どれでも一つ百円コーナーで埋もれていたそれを、
おれは買った。
長い間、おれのことを待っていたような気がしたから。
ボタン電池を入れ替えるとまだ使えた。
翌日、会社に持って行った。
懐かしがる同僚がいた。
おれは嬉しくなった。
それを大学を卒業したばかりの新入社員に渡し、
やってみろと言った。
そいつは連打が遅かった。
ポチポチポチポチ。間抜け押し。
まるでなってない。
若い奴らはみんなこんなもんだろう。
レベルが下がったものだ。
その後、おれは得意の連打を披露した。
右手人差し指と中指でこするように連打する。
左手は機械をしっかりホールドし、
机に顔がくっつきそうな程前傾する。
新入社員の倍以上の早さ。
当たり前。
ん、おかしい。
歓声が聞こえてこない。
同僚達の顔を見る。
これは・・・・・・失笑?
そんなばかな。
お局OLの声がする。
おれは耳が良い。
・・・・・・「オナニーが速そう」だと?
世の中は変わってしまっていた。
シューティングゲームは
ボタン押しっぱなしで自動連打。
しかも、発売されること自体ほとんどない。
連打はもう必要とされなくなってしまっていた。
明治維新後のサムライのように。
コントローラー たま川しげる @TamagawaS
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