エピローグ
照明の位置を変えて、視覚センサーが正常に反応するかをチェックする。眼球と同じ大きさに設計した視覚センサーの先端が光を追いかけて左右に動き、焦点を絞る。際は照明を退けてかごからペンチを探し出す。横で扉が開く音がして、際は扉の近くに並べていたヒューマノイドに意識を向ける。
「そこ、気をつけて歩いて」
琉星の足元には、乳児型から身長の低い小学生、体型にバラつきのある十代まで、様々なタイプのヒューマノイドが壁に背中を預けて足を投げ出した状態で転がっていた。際は琉星がヒューマノイドの手足を跨いで安全に通り抜けたのを見届けてから作業に戻る。銅線を二本切り取り、二つの視覚センサーの裏側の剥き出しなっている金属部分にそれぞれ巻き付けて、箱型の人工知能の複数ある入力プラグの差し込み口のうち空いている二つに銅線の反対の先をそれぞれ軽く当てて固定し、もう一度照明をかざす。光を追って視覚センサーが動き回り、ディスプレイに新しい項目が加えられ、情報が羅列される。
「実験ではね、この子達に名前をつけて、学校に通わせるの。人間と同じ育て方をして、経過を観察する。私たちが先生役よ」
琉星は感心した声を出し、放置されたヒューマノイドを見比べた。掌の皺の形、頭髪の色や髪質、閉じた瞼の曲線に沿って生えている睫毛の長さまでもがそれぞれ異なる特徴を持っていた。実験器具が置かれた机に肘をついてコーヒーを飲みながら際の作業を見ていた悠真も口を挟む。
「それ、俺も参加するの」
「そうよ」
「際さん、俺もやっていいですか」
際は資料を琉星に渡した。
「予定では二ヶ月やるから、スケジュール空けといてね」
悠真はあからさまに嫌そうな顔をする。際はそれを見て作業を中断して悠真と会話を始めた。その間も人工知能に取り付けられた各種センサーが作動し、人工知能に情報が書きこまれる。
「別に、嫌なら他に手伝ってくれる人はいるから構わないけど」
「やるけどさ」
「じゃあ文句言わないで」
「コーヒーが濃すぎたんだよ」
「嘘でしょ」
際は柴犬の写真がプリントされたマグカップを引き寄せ、一口飲んだ。
「いつもと同じじゃない」
「際の舌がおかしいんだよ」
「際さん、ちょっといいですか」
後ろから声をかけられた際は返事をしながらマグカップを実験器具のかごの隣に置いた。同時に悠真が静かになり、手に持っていたマグカップを口に持っていく。際は中断していた作業の進捗を確認して手元の資料や実験器具を整理し、最後に人工知能の電源を切った。
アイデンティファイ 伊豆 可未名 @3kura10nuts
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