チャプター1:車にて
――✝――
「で、どこに向かってるんですか?」
「病院だ」
「病院?」
篝は面倒そうな顔を浮かべながら、明日香に茶封筒を手渡してきた。
「詳しくはそれ見とけ」
茶封筒を開け、中身を取り出す。それは依頼人と依頼内容について書かれた書類だった。
「
「ああ」
口から煙草の煙を吐き出し、篝は小さく頷いた。
「どうも相当重いらしい」
「え?」
「
橘とはいつも仕事の仲介をしてくれている人物だ。明日香の魔術の師匠であったりする。
「へぇ……。病気って不思議ですね。見た目は元気そうなのに重い病気にかかってるなんて」
「まあ、ちょっと前までは辛そうだったらしいがな」
「ふうん」
しばらく考え込んだ末、明日香は書類の依頼内容の項目に目を移す。
「依頼人の双子の兄、諸星
「ま、依頼内容はいつも通りだな」
「ですね」
書類から目を離した明日香は、座席にもたれかかった。小さく伸びをしたあとで、運転中の篝に視線を向ける。
「そう言えば師匠って、どうやって依頼人見つけてくるんですかね」
ふと思ったことを彼女は口にする。
「どうした急に」
「いやだって今回もそうですけど、師匠が見つけてくる依頼人って一般人じゃないですか。どうやって見つけてくるのかなーって」
「さあな。あいつは昔から顔が広かったからな、協会とは別口で教えてもらってんだろ。協会ってのは事が大きくなってからでないと動かない連中だからな」
協会とは魔術協会と呼ばれる会員制の組織だ。魔術に関係する人間に義務つけられているわけではないが、だいたいの関係者が会員だ。魔術学校に通う者は強制的に会員にさせられるが。明日香が聞く所によると、篝もまた魔術学校卒業生のため会員であるらしい。
「あ、それで協会からの依頼はいつも難易度高いんですね。うちには滅多に来ないですけど」
「協会に嫌われてるからな」
「協会会員なのに?」
「ああ、残念なことにな」
こんな性格だからかな、と明日香は心の中で呟いた。
面倒臭がりで口が悪くて態度が悪い。それは十分に嫌われる要素だった。
「というか、お前。学校はどうした」
思い出したかのように篝が言った。
「今日は振替日なんです」
「振替日? 体育祭でもあったのか?」
「はい」
「そうか。……お前、休みの日なのに制服なんだな」
「あー」
明日香はサマーセーターを指で摘む。
「平日なんで、習慣で着てました」
明日香は気恥ずかしくなって笑みを零した。
「そうか」
そこで篝はハンドルを右へ切った。
「あ、そうだ。篝さん、院内は禁煙ですからね」
「言われなくてもわかってる」
「どうですかね。篝さんって吸う所考えない時ありますし」
「は? そんなことねえだろ」
「今現在そうじゃないですか」
彼女は嫌味たっぷりに、窓を開けて煙を追い出す仕草をしてみせた。
「未成年の前で堂々と吸ってるじゃないですか」
「別に絶対ダメってわけじゃねえだろ」
「でもマナーですよ」
「何がマナーだ。お前だって別に気にしてないくせに」
「まあそうなんですけどね」
実際明日香にとっては、篝が目の前で煙草を吸おうが吸わないがどうでもよかった。匂いは嫌いだが。正確には嫌いだったが慣れてしまったと言った方がいい。その時点で非常にマズい気はする。
「……ちっ、渋滞かよ」
篝の言葉に明日香はフロントガラスの先を見る。そこには確かに長い車の行列ができていた。
Soul Cry 水無月ナツキ @kamizyo7
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