第一章 出会い、日常、そして……
チャプター0:双子星
「見えたぞ」
父親の声に少女は顔を上げる。日が沈みかけた空の彼方、寄り添うようにうっすらと浮かぶ二つの星。
「すごい!」
それを見つけた少女は思わずそう口にしていた。
「すっげえ……」
少女のすぐ隣で、感嘆の声が聞こえた。少女はそっと隣を見る。そこには少女の双子の兄がいた。
「すごいね! お兄ちゃん!」
少女が声をかけると、彼女の兄は静かに頷いてみせた。
「すごいだろ? これが木星と金星のランデブーだ。滅多に見られないんだぞ」
父親の説明を聞きつつも、少女は再び天を見上げる。その目はもはや二つの星に釘付けだった。
「まるで仲の良い双子星みたいだろ?」
「双子?」
目を輝かせて空を見上げていた少女は、双子という言葉に父の顔へ視線を移した。そんな少女に振り返ることはせず、父親は続ける。
「父さんはな、お前たち二人にはあの二つの星のように、いつまでも仲の良い兄妹でいて欲しいんだ」
「いつまでも、仲の良い……」
少女とその兄に向けられた言葉に、少女は誰にも聞こえないように呟いた。
途端、彼女は急激に不安が浮かんでくるのを感じた。ざわざわと心の中が揺れるような、どこか気持ちの悪いような感覚。
自分と兄は父親の言うように、いつまでも仲の良い兄妹でいられるのだろうか。もしこの先、兄と仲違いしてしまったらどうしよう。
子どもらしい小さな不安は、けれど彼女にとっては大きな不安だった。
「ねえ、お兄ちゃん」
そっと兄の袖を握り、少女は弱々しく呼ぶ。
「どうした?」
「あの、ね……。わたしとお兄ちゃん、ずっと仲良くいられるかな?」
彼女の兄は一瞬、不思議そうな顔を浮かべる。けれど少女の不安な顔を見たからなのか、安心させるようにすぐに笑ってみせた。
「いられるさ」
「本当……?」
彼女の兄は力強く頷くと、しっかりとけれど優しく妹の手を握る。
少女は、それでもまだ安心できなかった。確かめるように兄の手を握り返す。兄の体温をしっかりと感じるように。
そうしてやっと、少女は安心を得られた。
「そう、だよね。ずっと仲良しだよね!」
「当たり前だろ」
少女は兄から空へと目を向ける。そこには先程と変わらず、二つの星が仲良く浮かんでいた。
きっと。いや絶対、自分たちはずっと仲良くいられる。
少女はそう信じていた。
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